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フルコト!  作者: 﨑山翔
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第七十三話 タイムリミット

雨が雹に変わって三十分後。


テレビ番組はすべて臨時ニュースに変わった。

日本全国津々浦々、同じ状況のようだ。


雹が凄まじい勢いで地上に落ちてくる。

石のような硬さだ。


人間に当たれば怪我をしてしまう。

下手をすれば命に関わる。





〈木造建築の建物は危険です!鉄筋コンクリートの建物に避難してください!〉


テレビでは同じ画面の映像が流れていた。


〈命を守る行動をしてください!〉



翔の家の自動車も、雹が当たり続けているために凹んできている。

カーポートの屋根を雹が突き抜けてしまったのだ。





「た………、大変だ……」


父が真っ青な顔でテレビの前で呆然としている。

ぎゅうっと桜を抱き締めた。




未曾有の事態だ。




電気がいつまでもつかわからない。

水道も、ガスも。


人々の避難もどこまで進むのか。

そもそも動く事が出来ない。



桜は人工呼吸器を使用している。

電気が止まってしまうと大変な事になる。






「これは異常気象じゃない。一刻を争う」


ホノイカヅチはシナツヒコと翔をそっと廊下に呼び出した。


「猶予はない。とにかく一秒でも早くこの雹を止める」


「そうだね……」



このままでは、葦原の中つ国--、日本の人間界が危ない。


「ホノくん…シナくん…」



雹が地面で割れる音が耳から離れない。

一般的に雹は割れないものだ。



「カケルくんは家にいてね。ヒルちゃんをお願い」


「う、うん……。わかった……けど……」


「電気が止まればサクラも危険なんだろ?

…サクラだけじゃない。電気が止まったら命の危険がある人間は大勢いるだろう」


「一応、外部バッテリーがあるから…。停電しても少しくらいなら大丈夫…、だけど…」




「さっきテリトリー内を僕とホノで見てきたけど、変な感じはしなかったんだ。

八百万の神と連絡したんだけど、みんな異常なしって言ってた」


「や、八百万の神…様と?」


「ホウ・レン・ソウは基本だからね」


報告、連絡、相談だ。


「俺達が言うな…って感じだけどな…」


おっしゃる通り。





「とにかく!葦原の中つ国に異常なしって事なら!残るは高天原だよね」


「ああ…。多分、神々が高天原へ向かっているはずだ」


「僕達も行ってくるから、カケルくんは心配しないで待っててね」



「う、う、うん………。で、でも……」



心配で不安で怖くて仕方がない。



「大丈夫だ。一時間で何とかする。必ず」


タイムリミットは一時間。

ホノイカヅチの勘だ。

すべての事象を鑑みて、被害を最小限で抑えられる時間。




「一時間………。……ホノくん、シナくん……」


信頼はしている。

大丈夫だという確信もある。


だけど、ひどい胸騒ぎが翔の心を離さない。





シナツヒコとホノイカヅチの体がフワリと浮かぶ。


「大丈夫だからね、カケルくん」

「カケル。すぐに戻る」



フワリ……。



微風がして。

二柱が消えた。


粒子が見えたと思った瞬間に消えていった。




「シナくん……!ホノくん……!」


祈るしかなかった。


(何でこんな…。突然に……)



いつもそうだ。

前触れなく起こる。

そういうものなのだ。


しかもこんな前代未聞な厄災など。

考える余地もない。


(こんなの…。一体どうして………)



翔は自分の部屋に行く。

ベッドで眠るヒルコを抱き上げた。


『スピー』



「ヒルちゃん………」


(シナくん、ホノくん…。お願い……!)



阿鼻叫喚---。


日本中がパニックになっている。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





~~~高天原~~~~



凄まじい暴風雨になっていた。


強い雨と風で視界も悪い。


神々のわめき声が響いている。



「うわぁ……」


「マジか…」



シナツヒコとホノイカヅチはあたりを見渡す。



篠の突く雨というべきか、束ねたササで突くような激しい雨だ。

それに加えてこの烈風。


神々の気配が時々見えるだけで、何がどうなっているのかさえわからない。



「ホノ!とりあえず、アマテラス様に会いに行こう!」


「……そうだな」



ビュオオオ!!!

容赦なく風が吹き荒れる。


「くっ…!」

「…い、行こう!」






「…ホノ。シナ」


突如。

背後から声がした。



「あっ!」


「ツクヨミ様!?」





「こちらへ来て」


速やかに誘導する。




ツクヨミの先導のもと、鍾乳洞に辿り着く。



鍾乳洞の中に入る。

奥に進むと、神秘的な音が聞こえてきた。

心が落ち着く。



「ツクヨミ様……。ありがとうございます」


ホノイカヅチが頭を下げる。



「うん。

…葦原の中つ国は大変みたいだね」


「はい。

恐らく…一時間が限界でしょう。

雹の落下速度が増してきています…」


敢えて翔には言わなかった。

不安を煽りたくなかった。


「そう。…カケルは大丈夫?」


「はい。今のところは…」





「ツクヨミ様。葦原の中つ国には異常な感覚はありませんでした。

高天原に異様な気配などの報告はありますか?」


シナツヒコが問いかける。


「まだ報告は受けていない」


「そうですか…」


「シナ。この高天原に吹き荒れる風を鎮められる?」


「………。

原因不明の風に対応出来るかわかりません…」



シナツヒコの体感では、この風は明らかにダレカによるもの。

自然から発生していない。




「ホノ。キミも協力してほしい」


「え?俺もですか?」


「そう。シナとホノの力を合わせたなら、かなりの力になるはずだ」


「え………」



ツクヨミがシナツヒコとホノイカヅチを見据える。


底知れぬ瞳の引力に、思わず息を呑んでしまう。




「まだオフレコだけど。

シナとホノの力……。強くなっているんだ」


「え?」

「は?」


突拍子のない発言に、目を丸くさせて顔を見合わせた。



「え?ツクヨミ様…?この非常事態に何を……」


「非常事態だから言っている。

この事を知ってるのは、ぼくと姉様とスサ、オモイカネとタケミカヅチだけ」



(結構知ってるじゃん…)

(結構知ってるな…)


心の中でひっそりと突っ込んでおく。





シナツヒコとホノイカヅチの力が強まっている---。


これを知っているのは、

アマテラス。

スサノオ。


オモイカネ。

タケミカヅチ。



オモイカネは知恵の神。

遠い昔、アマテラスがスサノオとケンカ(?)して岩戸に隠れてしまった事があった。


その時、アマテラスを岩戸から連れ出す計画を練ったのがオモイカネだ。



タケミカヅチは剣の神。


ホノイカヅチが自分自身が何の神なのか忘れて苦しんでいた時に、雷の神だと断定してくれた。


そして体の中に炎も宿っている、と助言もした。


ホノイカヅチにとって、とても恩のある神だ。





「ホノとシナの潜在的な力が目覚めていると言った方が的確だろうね。

理由はわからない。

…自覚はない?」


「はい…。俺はないです。シナは?」


「僕も…ないかなぁ…」






ピチョン…。

滴る水の音が反射した。





「……で、合わせ技、出来る?」



「はい…。一応…」


以前、ヒルコを落ち着かせるために風と雷の力を融合させた事はある。



(ツクヨミ様にはバレてるかも知れないけど…。

ヒルちゃんの事はとりあえず触れないでおこう…。

ね、ホノ…?)


ホノイカヅチを一瞥する。

それに気付き、目を細めた。





「姉様が言うにはだけど。

高天原のこの異常気象を鎮めたら、葦原の中つ国の異常事態も鎮まるとの事だ」



「え?でも…。

高天原にも異様な気配はないんですよね?

高天原の異常気象を鎮めても、葦原の中つ国には影響ないのでは?」



「姉様は心眼(しんがん)をお持ちだから。

原因の一部みたいなものは見えたらしい」


「心眼……」


「そう。暴風雨の原因の一部。

高天原全体に広がっていると言っていた」


「アマテラス様…。……心眼を持っておられるのですか?」



ホノイカヅチが驚く。


神の持つ心眼とは。

物事の真の姿を見通し、真実を確かめる力。


心眼を極める事は至難の業だ。



さすが高天原を統べる太陽の女神、アマテラスオオミカミだ。





「心眼…。こっわ…」

シナツヒコの心の声が漏れた。

「お、おい…」

ホノイカヅチが肘で押す。


「…………」

ツクヨミが睨んでいる。


「す、スミマセン…」





心眼を持っているアマテラスでも、原因の一部しか見えないのだ。


いや…。

そうだとしたのならば。



以前から起きている高天原の異変も。

心眼を持ってしても見えなかったという事になる。





ダレかが闇の中で暗躍しているのだろうか……。




































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