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フルコト!  作者: 﨑山翔
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第六十九話 結界

案の定、次の日の朝は雨だった。



(やっぱり飛行機雲を見たら雨降りになるんだなぁ…)



翔は窓から空を見上げる。


「はぁ……」


シトシトと絶え間なく降り注ぐ雨。


(車椅子でも濡れない道具とか…。開発されないかなぁ…)



カッパを着ても、自分と車椅子はもれなくびしょ濡れになる。

個人的にはカッパは傘よりも濡れるリスクはあると感じている。


とはいえ、傘だって風が強い日なんかは何の意味もないも時もあるのだが…。



(他力本願…。自分で発明したらいいじゃんって言われそう……)


「はぁ……」


溜め息が止まらない。


父と桜を見送って、バタバタと忙しい朝の時間のあとに訪れる静寂。


どうしても余計な事を考えてしまう。

ずるずるとネガティブに引っ張られる。



「ううん!ダメダメ!ポジティブポジティブ!」


鼓舞するように自分のほっぺたを軽く叩く。





☆☆☆



バタン!


リビングのドアが開いた。




「カケル!悪い。待たせた!」


ホノイカヅチは慌てた様子でリビングに入って来た。



「ホノくん!全然大丈夫だよ。

高天原の用事は済んだ?」


「ああ」



◇◇


今朝早く、雉の使いがきた。


【高天原に来いよ。今すぐ来いよ】

雉は流暢に喋っていた。

寝ぼけていた翔はパッチリと目を覚ます。


(しゃ、喋ってる…!凄い!)


ホノイカヅチとシナツヒコはすぐに高天原へと行ったのだ。



◇◇




「何の話だったの?」


「ん?…ああ。テリトリーを決めるって話だった」


「テリトリー?」


「活動の領域ってヤツ」


「活動の領域………?」


「高天原と葦原の中つ国を神々がそれぞれ場所を決めて結界をはっていくって感じだな。原因究明をするためにな」


「結界?」


「簡単に言うとバリケードみたいなもんかな」


「そうなんだ…。ねぇ、その結界をしないと原因究明は難しいの?」


「俺もまだハッキリ掴めてはいないが、色々な要因があるようだ。まあ、何だ。念には念をってヤツだな」


「ふぅん、そっかぁ………。

ところで、ホノくんとシナくんのテリトリーは?」


「カケルの家のまわりから…、まあちょっとそのあたりの所までって感じかな」


「えっ…。曖昧だね…」


「そうか?そんなもんだろ。

大体、高天原と葦原の中つ国の両方ともなれば相当広い。ザックリの方がいいんだよ」


「そういうものなんだ?」


「何かが起きたらテリトリーなんてのは関係なく、神々がその場所に駆けつけるわけだし」


「そっか…。なるほど…」



きっちりしっかりと固定すればするほど、いざという時の柔軟性がなくなるという事か。



「こういうのは緩いくらいがいいんだよ。

ほどほどにな。

でも、アマテラス様は完璧主義者みたいだからな。ちょっと納得いかない顔はしてたけど」


「へぇ!なるほど!」


締めすぎず緩すぎず…。

ほどほどがいいのだろう。

これはすべての事に共通する。



「ところで…、シナくんは?」


「ああ、もうすぐ来ると思う。

さっきスサノオ様に捕まってた」


「スサノオ様?

あはは。元気だった?」


「逆にスサノオ様が元気がない姿を見た事がないな、俺は」


「あはは!」






昨夜、シナツヒコにも和真の件を伝えた。

少しでも、何か出来る事はないだろうか。


驚きの中に懸念するような表情もあったが…。



「カケルくんがそうしたいなら。

ぼくも協力するよ」


最後はいつもの笑顔だった。



他人の事情に自ら足を踏み入れるのは、やはりおせっかいが過ぎるのかもしれない。


だけど…。


和真が翔に話をしたという事は、もしかしたらSOSが隠れているという可能性もある。


それが和真自身も気が付かない、無意識のメッセージの場合もある。



(ぼくがハンデを持っていたから話せたのかもしれない。

それって…、裏を返せばぼくだから言えたって事だよね)


もしそうだったなら。

翔には初めての事だ。



「カケル。俺とシナは図書館の外で待ってる」


「うん。わかった。勉強が終わったら和真さんにホノくんとシナくんを紹介するね」


「ん…。まあ…。これもほどほどに、な」


「うん。わかった」






◇◇◇



翔は玄関で外出用の車椅子に乗り換えた。

準備万端だ。




「シナは直接図書館に来るだろ。嗅覚は利くからな」



ホノイカヅチは翔をシャボン玉のようなもので包んだ。



「わっ?」


シャボン玉の中からは景色が歪んで見える。

ホノイカヅチの顔もユラユラと動いて、ちゃんと判別出来ない。



「今から空間を移動するぞ。

絶対、目を開けるなよ?空間の狭間を見たら…」


「見たら?」


「リバース確定な」


「ウゲ…!気をつけます…」



雨が降っているため、空間移動で図書館まで連れて行ってもらう。

特別大サービスだ。


「行くぞ」


「うん!」


目をギュッと瞑る。

心臓がドキドキしてきた。



(わっ!!?)


刹那、体が車椅子ごと大きく揺れた。




パチン!!


シャボン玉が割れる音。






「着いたぞ」


ホノイカヅチの声がした。



「え!?もう!?」


「目、開けていいぞ」


おそるおそる目を開くと、何と今いる場所は図書館の入り口の前だった。



「すっ……凄い!!」


本当に特別大サービスだ。

雨に濡れる事なく目的地に到着した。



「じゃ、またあとでな。勉強頑張れよ」


「うん!ありがとう、ホノくん。助かったよ」


「そうか」


「ねぇ、ホノくんは今からどうするの?」


「時間まで寝てようかと思ったんだけどな。

…俺達が任されたテリトリーに結界をはってくる。早い方がいいだろ」


「そうか…。うん、わかった。

じゃあ、ホノくん。またあとでね」




翔は学習スペースへ向かう。


(和真さん、まだ来てないみたいだな……)

キョロキョロと見渡す。




いつも使用している四人用の机。

椅子が一つはずされていた。


実は、和真が図書館の職員の方に事情を説明していた。

車椅子使用者にはこの椅子は必要ない、と。


そのおかげで、常に椅子がはずされた状態になったのだった。


しかも、この席に車椅子のマークのシールをつけてくれていた。




嬉しかった。


やっぱり和真は優しい人だ。



◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎




正午のチャイムが鳴った。



しかし。


(和真さん…。来なかったな…)


急な用事が出来たのだろうか。

それとも体調が悪いのだろうか。






◎◎◎


図書館の自販機コーナーで、翔はシナツヒコ、ホノイカヅチと合流した。



「え?来なかったんだ?カズマくん…………。

………ウプ」


シナツヒコはコーラを飲んでいた。

ゲップを堪えているようだ。



「うん…。だけど別に僕たち、約束とかしてないからさ…。

仕方ないんだけど」



「そっか~。どうする?ホノ。明日にする?」


「そうだな……。

とりあえず、カズマの家に行ってみるか」



「ええ!?」


思わず大きな声を出してしまう翔。


「どうした?カケル」


「えっ!だって、家に行くなんて…。ちょ…ちょっと早すぎるんじゃないかな?」



「ぷっ!あっははは~!何それ~?

付き合いはじめたばかりのウブな彼氏が、突然彼女の部屋に誘われた時みたいな反応になってるよ~?」


シナツヒコがお腹を抱えて笑っている。



「シナ…っシナくん!何、その変な具体例は!?」




「カケル…。落ち着け」


「ホノくんが変な事言うから!

そもそも、ぼく、和真さんの家は知らないよー」


顔を真っ赤にして憤慨している。

本能的に例えが嫌だった。



「ごめんごめん、カケルくん~」


シナツヒコは翔の頭を撫でる。

しかしまだ顔はにやけていた。


「シ、シナくーん!!」


「あはは。ごめんって、カケルくん。

とにかくさ、カズマくんの家ならわかるよ。大丈夫」


「え?わかるの?」


「うん。カケルくんにカズマくんの波動がくっついているからさ。それを辿ればいいんだよ」


「え!ぼくについてるの?」


「波動は共鳴するからね。親しくしていると波動はくっつくんだ。ずっとじゃないけどね。

共鳴したらくっつくの」



「へぇ~」


翔はまだ自分の波動は見えない。

もっと第三の目を磨いて、魂レベルを上げる必要がある。

そのためには波動を常に高く強くしなければならない。

そしてそのステップとして、瞑想のトレーニングをしているわけだが…。


道のりは果てしない。




「カケル。試しに行ってみるか?」


「う、うん…。あっ、でもさ、和真さんに何で家を知ってるか聞かれたらどうしよう?」


「適当に答えたらいいだろ」


「え~?それで通るかなぁ?」


「それなら……。勘でいいだろ」


「ホノくん、ホントに適当だなぁ…」





何はともあれ、和真の家に行ってみる事にした。
























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