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フルコト!  作者: 﨑山翔
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第六十七話 焦燥

サクヤヒメは夕ごはんは食べて食後のコーヒーを飲んで一息ついたあと、お暇する事にした。



◎◎◎




「カケルくん、ごちそうさま!お父様にもサクラちゃんにもよろしくお伝えしてね」



翔はサクヤヒメの見送りと、夜の散歩も兼ねて外に出た。

シナツヒコとホノイカヅチも一緒に近所の公園まで歩く。


街頭があるとはいえ、車椅子での夜道は危ない。

シナツヒコに車椅子を押してもらっている。




「ううん、こちらこそ!

てゆーか…、お父さんが…サクヤヒメさんにデレデレしちゃって…。ごめんね?」


父は終始、鼻の下をのばしていた。


神の年齢は定かではないが、見た目は二十歳くらいの若い女性のサクヤヒメ。

しかもベラボウに美人ときた。


デレデレしてしまうのは致し方ないのかもしれない。

…が、母が見ていたらなかなかの修羅場になりそうだ。





「あっははははは。確かに!カケルくんのお父さん、ずっと顔が真っ赤だったよねぇ?」


「たまに声が上ずってたりしてな?」


シナツヒコとホノイカヅチも面白半分で同意する。





「うふふふ。大丈夫よぉ。親切にして下さって嬉しかったわ」



「あ、はは。ありがと…」


気恥ずかしくなりながらも、翔はお礼を言った。




九月中旬。

夜になっても暑さはやわらぐ事はなく、寝る時はクーラー使用が必須だ。


しかし、秋というには程遠い気温でも公園内には虫の声がしている。



虫たちは本能的に季節をわかっているのだろうか。




「いい声だね~」


シナツヒコが目を閉じて虫の声に耳を澄ます。


「本当だね」

「ああ」


翔とホノイカヅチも公園を見渡す。

ほかには誰もいない。

マツムシの涼しげな音色を堪能する。



チンチロチンチロチンチロリン。






「そういえば………」


しばらくの後、少し思い悩んだような顔をしたサクヤヒメが口を開いた。



「最近、海が荒れているらしいわ。

それに…、あちこちで小さな地震も勃発しているわね」


「……うん。そうみたいだね。海や土地のストレス、かなぁ」



「ストレス…?

……あっ!確か…」


シナツヒコが答えたすぐに、以前の話を翔は思い出した。


(確か…、自然災害はストレスによるものだって言ってたな。

自然破壊…。例えばゴミを捨てたり、汚したりしちゃうとストレスがたまって爆発しちゃうんだよね…)


「それって…、ぼく達人間のせいかな?」


「そうね。それも一つの原因かもしれないわ。

でも、これから起きる事はそれだけではないと思うのよ」


「え?それって………」



どういう事だろうか?



「…それ、俺も思っていた」


「え?ホノくん?」


「……何か、嫌な予感がするんだよな。

……だからって、うまく説明出来ないんだけど…」


「嫌な予感?」


「色々な要素が絡み合っている感じ…というか……。

……いや、ごめん。俺も確信があるわけじゃないんだ。だけど…、何か嫌な感じがする」


「そ、そうなんだ………」



「他の神々も、ホノイカヅチと同じような感覚だと思うわ。何だか心許ない感じね。

アマテラス様のご命令で今、高天原と葦原の中つ国の神々は原因究明に動いているけれど……。

多分、ソワソワしていると思うの。いてもたってもいられないような……」


「神様が?そんな感じになるの?」


「ふふふ。そうね。そうよね。私達も…、全知全能ではないものね…」


悲しそうに微笑むサクヤヒメを見て、翔は何故かキュッと苦しくなった。


「か、神様は…。神様は全知全能だと思うよ……?」





「まさか。そんなんじゃないよ、カケルくん」


乾いた声でシナツヒコは言った。


夜空を仰いでいる。

雲の合間から月が顔を覗かせた。


「人間よりは次元も波動も高いけど。神々は全知全能ではないよ。

もしすべての神が一つになれば、ワンチャン全知全能になるかもしれないけど」



瞳に月が映る。

水色の瞳に映る月は神秘的に輝いていた。



「三貴神もそうだし。ぶっちゃけ葦原の中つ国を創ったイザナキ様もイザナミ様も全知全能ではないよ。

怒られるかもしれないけど…、でも、そうだと思う。

だってそうだよね?そうじゃなかったら………」




(ヒルコは生まれなかっただろう)





「シナくん?」



「あ、いや…、だからさ。神もたくさんいるんだよ。

人間もそうでしょ?一人では生きられないから………」


「……うん」



「で。ね。

さっきサクヤが言ってた続き。

神々がソワソワザワザワしちゃうとさ、人間もソワソワザワザワしちゃうかもしれないよね?」


「あ…。うん。そうか。共鳴、だっけ?」


「そうそう。人間同士でも波動は共鳴するんだから。

神々が揃いも揃って波動を揺るがしたりしたら…?結構怖くない?」


「え…?うーん…。

あ、でもさ、神様の波動は人間みたいに上がったり下がったりしないよね?神様は高くて強いんでしょ?」


「うん、そうだね。神の波動は高くて強い。

だけど、今、言ったでしょ?揺らぐって。

たくさんの神が波動が高くて強いまま揺らいだら…。どうなるかな?」


「あっ……!そうか…。

……てゆーか、…どうなるの?」


「こんな事、初めてだからさ。はっきりとはわからないけど、人間の波動に絶対影響はあると思うんだ」


「そうなんだ……」



本当に、今何が起こっているのか。

何が始まっているのか。



深刻な空気に包まれた。



サクヤヒメがパンっと手を叩いた。


「何はともあれ、すぐにどうにかなるって事はないものね!カケルくんもあまり心配しないで!」


「あ…。うん。ありがとう」


「……だけど、私から言い出したのよね。ごめんなさいね」


「ううん、大丈夫!」


「うふふ。それじゃあ私は行くわね。今日はありがとう。カケルくん。また会いに来るわね」


「あ、うん!気をつけてね、サクヤヒメさん!」


「シナツヒコとホノイカヅチも。また会いましょう」





サクヤヒメはフワリと消えた。




虫の鳴く声があたり一面響いている。









「………カケル。…シナ」


ふと、ホノイカヅチが声を漏らすように小さく呼んだ。


カケルとシナツヒコが振り返る。




「ホノ、どうした?」

「ホノくん?」




「ああ…。このところ…、俺、思っていた事があって…」



言いにくい事なのか。

躊躇っているのか、口ごもる。


「ホノ?何?言ってみなよ」


シナツヒコが促すと、呼吸を整えた。



「最近、ずっと葦原の中つ国にいるだろ。

色んな場所に行ったり、バイトしたり。

食べ物も…。

この世界の発展や進化を目の当たりにする機会がたくさんあった。

それで………。思ったんだ」


シナツヒコはホノイカヅチを見た。


「何を思ったの?」



「人間が豊かになるために自然を破壊した。

神々はその過程を知っていた。

そして受け入れていた…。そういう事だよな?」


「うん。そうだね」


「それでそのあとにどういう事になるのかも。

神々は知っていたんだよな?」


「え?……それは…。まあ、そう言われると…」


「どちらにしても、神々にとって人間の発展は意味があったに違いないと思ったんだ」


「じゃあ、もし…。もしそうだったなら。

自然を破壊した代償は……。人間だけではなく、神にもあるって事じゃない?」


「そう。そういう事になる。

裏を返せば、神々にはその代償を払ってでも人間には発展してもらわなくてはならなかったって事だ」



神と人間。


遠くて近い存在。



「…ホノくん?…シナくん?」


不安だ。

翔は不安で堪らなくなる。



「ごめん。カケル。怖がらせたか?

大丈夫だ。サクヤも言ってただろ?すぐにどうこうなるものじゃない。

でも……」


「でも?」


「確実に何かは起きてる。焦らなくてもいい。カケルは今まで通り生活をしていく。

…ただ、ただ心積もりはしていた方がいい」


「心積もり?だ、だけど、何をしたらいいのかな?」




翔の頭を優しく撫でて、シナツヒコはニッコリ笑った。


「瞑想を続けて、波動を高く強くしていけばいいんだよ」


「え?め、瞑想?瞑想だけでいいの?」


「今はね。波動を高く強くして、第三の目を常に開けておくんだよ」


「そ、それでいいの?それだけで…?

何か…、えっと、どこかに逃げるとかは……」


「あはは。そっか。自然破壊とか言ってたから、地球滅亡とか思った?」


「ち…違うの?」


「うん…。違うかな。多分。

そーゆーのじゃなくて……。

………ううん。ごめんね。僕達もまだ明確にわからないんだ。だけど、地球滅亡とかではないからさ。

安心してよ」






月が雲に隠れた。


まだ何もわからない。


まるで雲の隙間からこぼれる月明かりを探すように、まだ何もわからない。























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