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フルコト!  作者: 﨑山翔
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第五十五話 言霊

「苺みるく、おいしかった!ホノくん、ごちそうさま!」


自分の中に隠れていた思考の癖を知る事が出来て、翔は何だか清々しい気持ちになっていた。


今まで他人の好意を素直に受け取る事が出来ず、自分を卑下し続けていた。


自分は出来損ない。

自分はハンデがある。

自分は弱者だ。


必要以上に自分を蔑む事で、逆に自分を守ってきたのだ。


卑屈な態度は、時にまわりの人を苛立たせてしまう。



ごくたまに、株を上げたいがためにゴリ押しの親切をしてくる人もいる。

例えば、たくさんの人の前では優しく助けてくれるのに、誰もいない所ではガン無視、とか。


しかし、そうだとしても。

下心がある親切だとしても、手を貸してくれた事には違いない。

それで助かったのならば、それは感謝するべきだろう。


他人の気持ちを勝手に推し量って、勝手に自分を可哀想だと思い込む。


それではダメだ。


ハンデがあっても、健常者であっても。

目の前で起きている、一切の事物に良いも悪いもない。

ただの事象だ。



もしその物事が困難で、誰かが手を貸してくれたのであれば、素直に「ありがとう」と言う。


ただそれだけだ。




「カケル…。大丈夫か?」


「え?何が?」


「隠していた自分の事を知るのは…。自分の内面を知るのは、結構…キツイだろ?」


「あ…。うん。そうだね…。でも、大丈夫なんだ!ホノくんとシナくんが、出会った頃からずっと教えてくれてた事だったから……。エヘヘ、ようやくわかったよ」


「カケル…」


「ずっとずっと教えてくれていたんだよね。ありがとう」


「そうか…。いや、こちらこそありがとな」


屈託のない笑顔の翔に、ホノイカヅチは愁眉を開いた。




「あのさ、カケルくん」


しかし、シナツヒコは真逆の顔をしていた。

厳しい顔つきだ。

初めて見る表情だった。



「シ、シナくん…?」


「カケルくんが自分の気持ちや考え方に気付いて、本当に良かったと思うよ。自己肯定感があがるしね。それは凄く大切な事だと思うんだ」


「う、うん」


「だけどね、間違えないで。イジメはどんな理由があっても許されない」


「え…、あ…」


「カケルくん、思ってるでしょ?いじめられる側にも問題があるって。でもね。それは、ない。絶対にない」


「え、あ、でも…」


「もう一度言うよ。いじめる方が、百パーセント…、いや、二百パーセント悪い」


キッパリと断言した。

揺るぎない事実として。


「う、うん………」


少したじろぐ翔に、ホノイカヅチは軽く背中をポンポンとたたく。


「俺もそう思う。いじめられる人間に何か問題があったなら、何故話し合わないのかって思う。何のために言葉があるのかってな」


「え?話し合う?」



「動物には言葉がない。だから行動で示すだろ?

だけど、人間には言葉がある。それなのに言葉を使わず行動をする。イジメという行動を。

言葉を放棄したという事だ」



「そうなんだよね。言葉を放棄したならもう人間じゃないよ。人間に似たナニカだよ。

……ああ…、だからかな。その人間に似たナニカは放棄した言葉を兵器に変えていくんだよね」




ホノイカヅチとシナツヒコの言葉の端々には、怒りと憂いの念が込められていた。




「言葉はね、人間の証なんだ。その証を人間を傷付ける道具に使うなんて有り得ないよ」



「言葉を放棄し、言葉を兵器に変える。あってはならない事だ。

………願わくば、人間の証を誇り高く使用してほしい



「うん……。そうだね…………」



そう言うと、シナツヒコとホノイカヅチは少しだけ切ない表情で空を見上げた。


翔も空を見上げた。


ますます雲が多くなり、風も強くなってきた。

雨が降りそうだ。



「そうだ!ねぇ、カケルくん。言葉には言霊といって、魂が宿るんだよ」


「コトダマ?」


「そう。だから、ね。とっても大切なんだよ」


「うん、わかった…。……ぼくも大切にする」





束の間、沈黙になった。



「そういえば、さ…………」


不意に、ホノイカヅチがその沈黙を破る。



「話が変わるんだけど…、終業式のあとのカケルの教室の事なんだけど…。蒸し返すのもアレだと思って言わなかったんだけどな……」


何とも歯切れが悪い。



「………もともと波動が低いクラスだとは思ってたんだけど、…あの時。あの時、急に、とんでもない早さで波動が下がったんだよな…」


「あの時?」


「いや、その、あ…。……カケルがひどい事を言われてる時……」



クラスメイトからの罵声が飛び交っていた時。

卓巳に車椅子を蹴られた時。



「ああ、あの時…。………ふふ…。ホノくん、気を遣ってくれてありがと」


「…いや、…思い出させて悪い………」


気まずそうに腕を組む。


「そう!そう!そうだったよね!!」


シナツヒコも思い出したように、グイッとホノイカヅチの背中から身を乗り出した。


「痛!!」


「あ、ごめん、ホノ!

それより!あの時さ、波動が急降下したから思わず僕達の姿を見せちゃったんだよね!」


「えっ!そうだったんだぁ!」


「まあ、イライラムカムカもしてたけどね!」


翔は全く気付けなかった。

今なら少しはわかるかもしれない。




「あの時の教室、罵詈雑言の嵐だったでしょ?

だから波動が急に下がったのかなと思ったんだけど…。よくよく考えたら、下降速度が尋常じゃなかったからさ。もしかしてなんだけど…。誰かが……」


「……ああ。誰かが故意で下げたみたいだったな……」



あの時、あの場所に、誰かがいたのだろうか。



「ねぇ、シナくん、ホノくん。

他人や場所の波動って、勝手に下げられるものなの?」



「強制的に波動を下げる行為は実際に見た事はないんだ。

だけど…、やろうと思えば出来るかもしれない…」


「かなりの力が必要だとは思う…が、不可能ではない、と俺も思う」



「そ、そうなんだ………」



あの時の教室。

確かに異様な雰囲気だった。



異物を排除しようとする。

自分とは違うものを追い出そうとする空気。



そんな人間の嫌悪感を、増長させたものがあの場にいたのかもしれない。



ゾワゾワっと鳥肌がたった。
















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