第四話 剣の神
ヒルコ、シナツヒコ、ホノイカヅチは、時に口喧嘩をしながらも(ほぼほぼ、シナツヒコとホノイカヅチ)仲良く一緒に暮らしていた。
ヒルコは口がないため、食事をする時は、神様なだけに神がかった力で食べ物をスムージー状にして、体の真ん中あたりから吸収している。
それを見たシナツヒコとホノイカヅチは、凄い!と感嘆した。
国土になれなかったとはいえ、さすが一番最初の神様だ。
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ある日のこと。
空が急に暗くなり、遠くで雷が鳴っている音が聞こえた。
『あ。雨が降るかなぁ?』
ヒルコはそう言いながら振り向いた時。
ホノイカヅチの体が光った。
『ホノくん!体が光ってる!』
ゴロゴロと雷の音が近付いてくると、ホノイカヅチの体がさらに反応した。
「くっ…!」
特に左足に圧を感じ、ホノイカヅチは立っていられなくなった。
「ホノは…雷の神かもしれないね。でも、そんなに反応するのは不思議だけど…」
自分が司るものに対して、ホノイカヅチは何故か拒絶反応を起こしているように見えた。
シナツヒコは疑問に思った。
だか、雷がまったく関係ないわけでもないだろう。
ゴロゴロと雷は唸り、空を稲妻が切り裂いた。
「ぐわ……!!」
身体中に雷鳴が轟いているかのような衝撃を、ホノイカヅチは感じていた。
『ホノくん!!大丈夫?しっかりして!』
「ヒルちゃん!危ない!今のホノに触ったら感電する!」
ホノイカヅチの体は、バチバチバチバチと電流が走っているようだった。
『シナくん!どうしたらいいの!?』
「いや、どうしたらって…。どうしたらいいのか…。司っているものを押さえる事をどう説明していいのか…」
シナツヒコは風の神で、呼吸をするように風を司っているため、それを言葉にする事が出来ない。
「と、とにかく、ホノ!全身に力を入れて…。た、多分そうすればいいと思われる!」
「ぐっ…ぐっ…ぐああああ!!!」
シナツヒコの声がかき消されるように、ホノイカヅチが叫んだ。
あたりは雷光で白くなり、一瞬見えなくなった。
『ホノくん!!』
「ホノ!!」
シナツヒコとヒルコは目が開けられなかった。
「ホノイカヅチよ。胸に手を当て集中するのだ。雷を押さえ込むように集中せよ」
不意に、上から重低音の声がした。
「くっ…!!!」
言われたように、ホノイカヅチは胸に手を当て集中した。
「くっ!…あっ…」
すると、体から発していた電流は消え、雷の圧力も消えた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ホノイカヅチは荒い呼吸の中、声の発する方を見上げる。
そこには、髭をたくわえた、剣士のような出で立ちの男神がいた。
「あ、あなたは…」
ヒルコとシナツヒコも驚いて、その男神を見ている。
「我の名はタケミカヅチ。剣の神だ。
ホノイカヅチよ。そなたは雷の神。さらにその胸には火も宿っている。もし、また押さえられぬ事が起きたら、胸に手を当て集中せよ」
力強い声は、とても安心感があった。
ホノイカヅチは、何故かとても懐かしい感覚を覚えていた。
「あ、あの…。俺…」
聞きたい事があるはずなのに、聞きたい言葉が出てこない。
ホノイカヅチは、すがるようにタケミカヅチを見ていた。
『ホノくん…』
ヒルコは心配そうに呟いた。
「また…会おう」
タケミカヅチは短く言うと、煙のように消えた。
「………」
辛そうにうなだれるホノイカヅチに、ヒルコは何と言えば良いのかわからない。
そんな重い雰囲気を、シナツヒコの軽やかな声が終わらせた。
「まあ…。良かったよね?何の神かわかって。ホノは雷の神で、しかも火の神でもあるんだよね。急にチートになって凄いよね?」
あははと笑いながら、ホノイカヅチの背中をバシバシ叩いた。
「お…お前な…。そんなあっさり…」
「さっきのタケミカヅチって神も、かっこよかったよね?ホノは知らないの?」
「あ、ああ…。知らなかった」
『でも、ホノくんの事は知ってたよね』
ヒルコも不思議に思っていたので、すんなり会話に入る。
「また会おうって言ってたし。次に会ったら色々聞けばいいんじゃない?」
『あ、そうだね!そうしよう!ホノくん』
名案だね!と、ヒルコとシナツヒコは笑っていた。
ホノイカヅチは、のほほんとしたそんな光景を見て、安心したようにため息をついた。
本当は、自分が何の神かわからず、とても不安だった。
まさか自分が雷の神で、しかも火も宿っているとは思いもしなかったが、とりあえず何者かがわかってホッとしていた。