第四十三話 マガツヒノカミ
◇◇高天原◇◇
ビュオオオオオ!!!!!!
高天原に突然吹き起こった烈風に、神々は恐れ、激しく困惑していた。
「これは………。何故このような………」
高天原を統べる主宰神・アマテラスオオミカミ。
前代未聞の状況を目の当たりにし、美しい顔立ちを歪ませる。
「シナツヒコを至急呼びに参れ」
2016年頃から---。
常に穏やかな高天原に異変が起こり始めた。
それからだんだんと……、だんだんだんだん異変は大きなものへとなっていった。
気温上昇、大雨、洪水。
葦原の中つ国の異常気象に附随するように、高天原にも異常気象が相次いで起こる。
「私は思い違いをしていたのか……。……いや、見て見ぬふりをしていのか………」
アマテラスは白く細い腕を組んで、唇を噛み締めた。
「高天原と葦原の中つ国は同じ次元にあるのだから、まさに一心同体、一蓮托生であるのだから…………」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ………。
遠くから雷鳴が轟く。
「誰かいるか」
「はい。アマテラスオオミカミ様。控えております」
「ホノイカヅチも呼んで参れ。シナツヒコと共に聞きたい事がある故、必ず連れて来なさい」
「はっ!」
高天原に神々の悲鳴が響き渡り、その声に誘われた邪神がウニョウニョとうごめいていた………。
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葦原の中つ国、公園---。
おばあちゃんの後ろにいる、無数の手の黒い影は桜の木の大きさほどに変化した。
「まさか……、マガツヒノカミ?」
サクヤヒメは大きな瞳をさらに大きくして、少し声を震わせた。
「マガツ……ヒノカミ……?」
翔が聞き返すと、コクっと小さく頷く。
「ヤソマガツヒノカミとオオマガツヒノカミの二柱がいるのだけど、双方同じでマガツヒノカミと呼んでいるわ。災害、凶事など様々な厄災をもたらす神よ。諸悪の根源とされているわ」
「えっ!ええ~……?!」
「邪神もマガツヒノカミが生んでいるの。………でも……。…それにしても…、変だわ」
「へ、変…?」
「マガツヒノカミがこんなに強い力を持っているなんて………。変だわ……」
「そ…そうなんだ…?普段は…違うの…?」
「ええ。初めて見るわ……」
無数の手がゆっくりとおばあちゃんに近付いている。
「あっ!!なんか……危ない!?」
「おにいちゃん、なんかへーん!」
サクヤヒメの姿やマガツヒノカミの姿が見えないおばあちゃんの孫の女の子は、一人で話しているような翔に向かって不思議そうに笑っていた。
「桜の木よ、力を貸して」
桜の木に、サクヤヒメが祈るように口づけをする。
パアアアアア!!!
その瞬間、桜の木が光り輝く。
「桜の木よ、おばあさんを助けて」
桜の花が一斉に咲いた。
「え!?ちょ、ちょっと見て……!?桜がっ…!」
「嘘!?急に咲いたの!?」
公園にいた人達が騒ぎ出す。
近くを歩いていた人達も、急に満開になった桜を見て驚いている。
携帯電話を取り出して、写真や動画を撮ってる人もいた。
ビュウウ!!!
「はっ!?」
翔の瞬き一つの合間に、桜吹雪がおばあちゃんの体を包み吹き上げた。
「きゃあ!?」
「何あれ!?」
人々が叫び声を上げる。
「おばあちゃん!?」
おばあちゃんのもとに駆け寄ろうとした女の子の手を、翔は慌てて掴む。
「ヤダヤダヤダヤダ!!おばあちゃん!!」
「だ、大丈夫だから!!おばあちゃん大丈夫だから!!」
手を振りほどこうとする女の子を、車椅子から落ちそうになりながら必死に離さないように抑える。
フワリ……。
桜の花びらに包まれて、おばあちゃんは女の子の近くに静かに着地した。
「おばあちゃん!!」
フワリ…。
桜の花びらが空に舞い上がる。
おばあちゃんは何が起こったのかわからないという顔で呆然としている。
おばあちゃんに抱きついて女の子は泣きじゃくっていた。
「よ、良かった………」
翔はほっとするも、公園内はざわついている。
ザワザワザワザワザワザワ…。
写真や動画を撮った人々は、それを見返してSMSにアップしようなどと言っている。
おばあちゃんと女の子のもとに心配したサラリーマン風の男性が来て、念のためと救急車を呼んでいる。
子連れの女性達も、警察を呼んでいる。
かなりの騒ぎになってしまった。
その上まだしっかりと、マガツヒノカミはそこにいる。
無数の手をうようよとさせた赤黒い影は次第に人間のような姿に変わり、翔とサクヤヒメをじっと見ていた。
「…サクヤヒメさん……。どうしよう…?」
「…カ、カケルくん…。ど、どうしましょう?私…。やらかしちゃったかしら?」
「で、でも、サクヤヒメさんの行動は正しかったよ!あのままだったらおばあちゃん、危なかったし!」
「そ、そうよね?だけど……。どうしましょ?」
この場をしれっと去りたい翔とサクヤヒメだったが、マガツヒノカミがいる以上はそうもいかない。
人間を襲うかもしれない。
マガツヒノカミをこの場から何とか追い払いたい。
遠くから、救急車やパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「どうしよう…!?」