第三十九話 システム説明②
テイクアウトしたハンバーガーとポテトとコーラを食べ終えると、シナツヒコの授業が再開された。
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「ではでは始めまーす!さてさて、今日のメインテーマにいくよ!クラスメイトは邪神に取り憑かれていなかった件について!ババン!」
ホワイトボードにサササッと書く。
達筆すぎて読みにくい。
「ゴクリ…」
翔は神妙な面持ちになる。
「これについてはまず、人間のオーラから説明していくね。あっ、ホノも手伝ってね」
「あー~……、…はいはい」
お腹いっぱいで少し眠くなってきたのか、ホノイカヅチはあくびをしながら答えた。
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人間はオーラ(波動)がある。
ここでは波動で統一する。
まず波動には、高い、低い。
強い、弱いがある。
①波動が高くて強い人間。
②波動が高くて弱い人間。
③波動が低くて強い人間。
④波動が低くて弱い人間。
この四種類に分けられる。
波動が高くて強い人間は、いわゆるカリスマ性があったり、まわりから尊敬される。
波動が高くて弱い人間は、清らかで優れた素質はあるものの、積極性はあまりない。
波動が低くて強い人間は、攻撃的な振る舞いをして、まわりに粗悪な影響を与える。
波動が低くて弱い人間は、低い波動に引っ張られ、とても流されやすい。
◎◎◎
「…と、まあ、大体こんな感じかな~。ザックリだけどね。……でね。波動はより強いものに共鳴するんだ。つまり、カケルくんのクラスは、波動が低くて強い人間の出す周波数に全員が合ってしまったって事」
「え~~…、周波数…?」
「簡単に言うと、集団心理ってヤツだよ。群集心理とも言うな。その中で一番波動が強い人間が言う事、やる事が正しくなって従っていく。カケルのクラスで言えば、堀田ってヤツだな」
ホノイカヅチが言うと、シナツヒコも頷いた。
「そう。邪神に取り憑かれたんじゃなくて、クラス全員の波動が低く共鳴してしまったんだよ。波動は波のように揺らいでいるから、まわりの環境で高くもなるし、低くもなる」
「波動は高くなったり低くなったり…変わるんだね…。強いや弱いも変わるの?」
「うーん。強弱は性格に直結してるから変わりにくいかな。あ、でも、頑張れば変われるよ」
「そうなんだ……。それでクラスのみんなは…」
「クラス中に低い波動がゴォォォォォ~って流れてるわけ」
ゴォォォォォ~………。
クーラーの音がやたらと耳についた。
「あっ、そうそう。邪神ってさ、今の時代だったら人間に取り憑いたら体調不良になるだけなんだ。この前みたいに、正気を失うまで取り憑くなんて、本当に稀なんだよねぇ」
伊達眼鏡をかけなおして、難しい顔をした。
「めちゃめちゃ遠い昔は、医療が発達してなかったから、体調不良からそのまま狂乱しちゃうのが頻繁に起こったけど。現代は病院や薬があるから、取り憑かれてもすぐに治って邪神が消えるんだよ」
「でもまあ…、あの新幹線の時はヤマタノオロチも出てきたし、かなり邪神も強くなってたからな。例外だろ」
ホノイカヅチが溜め息まじりに言うと、シナツヒコはホワイトボードに邪神の性質を書いた。
また、達筆だった…。
◇◇◇
邪神は人間に取り憑き、体調不良を起こさせる。
しかし、病院に行ったり、薬を飲んで治療したら消滅する。
しかし、邪神はもう一つ、特異な性質がある。
それは人間の居場所に住みつく事。
人間の低い波動が好物なため、低い波動が溜まっている場所に住みつくのだ。
邪神が住みついたら、ちょっとやそっとじゃ離れない。
それを人間は時に、<疫病神><貧乏神>と言う。
◇◇◇
「え~~~!?疫病神や貧乏神って聞いた事あるよ~!」
「住みつくと、本当に厄介だよ。波動は低いと本当に危険なんだよ」
翔は嫌悪感でいっぱいになった。
「で……でも、波動が低くても…、全員悪い人じゃない、よね?それでも邪神が…、き、来ちゃうの?」
「……邪神は人間の善悪じゃなく、波動の低さにしか反応しないからな…。確かに、善人でも波動が低いと住みつく可能性はあるな」
「そんな……」
落ち込む翔の頭を、ホノイカヅチがポンポンと軽く叩く。
「理不尽…だよな…」
「あ…。ぼくも…、波動…低いから…、取り憑かれちゃうかな…?」
「いや、カケルは……」
「カケルくんは波動は高いよ」
「ああ。カケルは波動は高くて…、弱いな」
「えっ、そ、そうなの……?」
カッカッカッ!
シナツヒコはまたホワイトボードに殴り書きした。
◇◇◇
カケルくんのクラス
堀田→波動は低くて強い。
卓巳→波動は低くて弱い。
伊織→波動は低くて弱い。
佐々木→波動は低くて弱い。
畠山→波動は低くて弱い。
◇◇◇
「みんな低くて弱いんだ…。堀田くんだけ、低くて強い…」
「こんな感じ…。伊織さんはね、前は波動が高くて強かったんだけど…。何か、だんだん低くて弱い方に引っ張られちゃったね」
「あっ!そういえば………」
翔はあの時を思い出した。
佐々木の一件で、伊織はまるで変わってしまった。
「伊織さん、何かあったのかな…?」
「まあ…、あったんだろうな。人間の波動が変わるのは、感情があるからだからな」
「感情……?」
「人間は感情や環境で波動がぶれまくるからな。
逆に、神の波動は変わらない。常に高くて強い。何故なら感情がぶれないからだ」
「えっ!神様って感情がぶれないの?」
「感情はぶれない。けど………。……まあ、性格の善し悪しはあるから……。強弱は多少はあるかもな…」
シナツヒコを見ながら、ホノイカヅチは曰くありげに話す。
それに気付いたシナツヒコはムッとした。
「何?何か言いたげだけど?」
「いや、別に。性格はそれぞれだからな」
「僕の性格が素晴らしいって事を言いたいの?」
「………」
「ホノには負けるけどねぃ~?」
「………は?」
バチバチと火花を散らす二柱をよそに、翔はブツブツと独り言をもらす。
「クラスのみんなは邪神じゃなくて……、波動のせい……。じゃあ、ぼくはどうしたら……?」
「カケルくんに甘いって言ったのはそこ!」
シナツヒコは翔に向かってビシッ!と人差し指を立てた。
「そこ?え…、どこ?」
「波動が低い集団の中に、波動が高いカケルくんがいたら、低い集団はよってたかってカケルくんを排除しようとするものなんだ。そーゆーものなの。だから、カケルくんはその集団から絶対逃げなきゃダメなんだよ」
「波動が高くて強かったら、その集団と戦う事も有り得るけど…、低い波動の群れは強力だから、一人では危険だ。それに、カケルの波動は高くて弱いから…、もっと危険だ」
ホノイカヅチも急に真顔になる。
「き、危険…?」
「ああ。身体的だけじゃない。精神的にも。どちらも壊れたら命の危機だ。取り返しがつかない事にもなりかねない」
「そ、それは………」
「カケルくんは頑張ってクラスに戻ろうとしてるけど、もう戻らなくていいんだよ。クラスメイトの事も、頑張って悪人なんかじゃないって思いこもうとしてるけど、そんな事しなくていいんだよ」
「で、でも……、ぼく……
ぼくは…………」
☆☆
パンパン~☆と、シナツヒコはまた手をたたいた。
「ではでは続きはおやつを食べてからにしよう!ねぇねぇ、ホノ~。ハーゲンダッツ買ってきて!」
「は?たまにはシナが買ってこいよ」
「ん~。じゃあ、ジャンケンだ!最初はぁ~」
「グー!」
「じゃなくてパー!!はい、ホノの負け~」
「なっ………!マジで性格極悪だな!!」
二柱のワイワイ騒ぐ声を聞きながら、翔はまだぐちゃぐちゃと整理がつかない気持ちでいた。
「ふぅ………」
だけど、だんだんと…だんだんと気持ちが軽くなっていくのも感じていた。