第三十八話 システム説明①
九月になった。
ほとんどの学校で始業式が行われている。
もちろん、翔の学校も。
しかし、今日は登校をしていない。
父が、もう少し気持ちの整理がつくまで…と、休む事を納得してくれた。
翔としても、学校に行きたくないような…、だけど行かなきゃいけないような…。
まだぐちゃぐちゃしていた。
父の理解が嬉しい。
そして---。
父は会社、桜は支援学校へ行き、静かになったリビングのテーブルの前で、翔とホノイカヅチは座っていた。
学校で“イジメ”を受けていた原因は、クラスメイトが邪神に取り憑かれていたから…という考えに至った翔を、一刀両断にしたシナツヒコによる、何かの授業が始まるのを待っていた。
☆☆
「コホン…。では、始めます!」
シナツヒコが咳払いをしたあと、元気に号令をかける。
それに対してホノイカヅチは呆れたように言った。
「何を始めるんだ?」
「授業だよ、授業!カケルくんがさ、クラスメイトが邪神に取り憑かれているって言ったから…。これは一度説明しなきゃって思ったんだ」
「あー……。……まあ、そうだな…」
ホノイカヅチもあっさり同意して、翔は何やら焦ってしまう。
「えー!?何かぼく、変な事言ったかなぁ?」
「変な事っていうか…、カケルの解釈が間違っているんだよ」
「解釈?」
シナツヒコがパンパン~と手をたたく。
「そうなんだ!わかりにくいから、カケルくんがまだ理解出来ないのも無理はないと思う。最初に少しだけ話した内容も含めて、詳しく説明をしたいんだ~」
「う、うん…」
「カケルはヒルコを受け入れられるくらい、魂が綺麗だからな。……前から思ってたんだけど、ヒルコが宿った事によって、カケルから少し神の力のようなものを感じたり、感じなかったりするようになったんだよな」
「あ!わかる!僕も感じたり、感じなかったりする!」
「え?え?どーゆー事?」
「カケルから、神の力のようなものを感じたり、感じなかったりするって事だよ」
「ホノくん!同じ事言ってるよ!どーゆー事なんだってば!」
「とにかく!それもあれも含めて説明するよ!」
このためにわざわざ買ったのか、シナツヒコはホワイトボードに向かって何かを書き始める。
「……にしてもさ……、ホワイトボードはいらないんじゃない?あとで使い道ないよ……?」
翔は溜め息まじりに呟いた。
「シナはカケルに、ユーチューバーをすすめるそうだ」
「え!?無理だから!?」
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シナツヒコの授業が始まった。
まず、異常気象と自然災害についての解釈。
異常気象→人間の発展に伴い、自然が破壊されて起きる事。
温暖化などが該当する。
自然災害→人間と神の周波数が合わずに起きる。
周波数が合わないとは、人間のオーラ(波動)が下がり、神のオーラ(波動)と離れてしまう事。
それと、あともう一つ。自然災害が起きる条件がある。
それは、自然そのものにストレスが溜まり、それがMAXになってしまい、自然災害として発生する事。
人間も、ストレスは万病のもと。
それは自然も同じ。
森羅万象には神が宿る。
イザナキとイザナミによって生まれたこの国は、すべてのものが神となる。
土地そのものが神なのだ。
山も、木も、川も、目に映るものは神なのだ。
◇◇◇
「な…なるほど…」
ホワイトボードの文字をノートに書きながら、翔は頷いた。
◇◇◇
ちなみに、神と人間は住む世界は違うものの、同じ次元に存在している。
一番高い場所に、高天原。
イメージとしては、雲より高い高い高い場所。
そして、人間界の葦原の中つ国。
その下に、死者がいる黄泉の国がある。
暗く、ジメジメして、下に下に下にあるのだそうだ。
かつて黄泉の国に行って帰ってきた者は、イザナキしかいない。
イザナキは、よほどの恐怖だったのか、黄泉の国の事を誰にも口外していない。
そのため、詳細は誰も知らない。
高天原と葦原の中つ国は同じ次元だが、黄泉の国は別次元にある。
しかし、それ以上はわかっていない。
イザナキが黄泉の国の事を話す時が来れば、もう少し、何かわかるかもしれない。
◇◇◇
「あ、あの!シナくん…」
翔はおずおずと手を挙げた。
「何でしょう?カケルくん?あ、それと、僕の事は先生と呼ぶように」
教師になりきっているシナツヒコは、いつの間にか伊達眼鏡もかけていた。
「よ、黄泉の国って…、怖い所…なの…かな?あ、あの…、ぼくのお母さんも…、いるのかな…?」
桜を産んだあと、すぐに亡くなってしまった翔の母。
黄泉の国の、暗い暗い場所に母がいると思うと、とても辛い。
とても苦しい。
翔は胸が詰まって、呼吸が浅くなった。
「大丈夫。カケルくん。安心して」
シナツヒコは優しく微笑む。
「人間は生まれ変わるから、大丈夫だよ」
「えっ!!そうなんだ!ぼくたち、生まれ変わるんだ!………ああ、でも良かった!お母さん、黄泉の国にはいないんだね…」
ホッとしたのも束の間、すぐにハッとした。
「じゃあ、お母さん、もう生まれ変わっているのかな!?」
もしかしたら、生まれ変わった母と会えたりするのだろうか?
翔は胸を踊らせる。
「あっ、ああ~……、…それはないかな~」
ワクワクしている翔から目をそらせ、シナツヒコは気まずそうにした。
それを見て、ホノイカヅチが静かに話す。
「生まれ変わるのは、亡くなった人間を誰も思い出さなくなった時なんだ。率直に言うと、忘れられた時に人間は生まれ変わるんだ」
「忘れられた…?」
「そう」
「え…、でも…、そしたら…、お母さんは今、どこにいるの…?」
「思い出してくれる人の近くにいるんだよ。近くにいて、見守っているんだ」
「えっ…?じゃあ、お母さんは…、ぼくの…、ぼくの近くにいるの…?」
「ああ…。いるよ」
翔は家の中をキョロキョロと見渡す。
(お母さんが……、いる…?ずっと…、ずっと…、いてくれたんだぁ……)
ほんわかしている翔に、シナツヒコはまた優しく微笑んだ。
「ねぇ、カケルくん。人は二度死ぬって、聞いた事ない?一度目は、肉体が死んだ時。二度目は忘れられた時。………でもね、それは悲しい事なんかじゃない。虚しくなんかないんだよ。その時に、人は生まれ変わるんだから」
「うん。うん!そうだよね!……あ、でも、偉大な人とか、有名な人って、生まれ変われないのかな?いつも思い出されたりしてるよね。歴史の教科書とかに載ってたり」
「ああ、うん。それはね、キーワードは、大切な人。大切な人限定だから。
不特定多数に思い出されても、全然意味ないからね。大切な人に忘れられた時。限定だよ」
「そうなんだね………」
悠久の昔から…、この理は続いているのだろうか。
遙か遠い、昔から………。
「少し脱線しちゃったけど、お腹すいたので!
また続きはお昼食べてからね~」
△△△
一旦、お昼の休憩となった。