表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フルコト!  作者: 﨑山翔
38/200

第三十七話 スカイツリー

八月も終わりに近付いた平日。


翔はシナツヒコとホノイカヅチ、リュックにヒルコを入れてスカイツリー展望回廊に来ていた。


今日は快晴。

地上四百五十メートルからは眺望絶景だ。



「凄い凄い!!めちゃめちゃ高い!!」


シナツヒコは興奮して騒いでいる。



「うーん…。シナくん、絶対もっと高い所を飛んでるよね……」


「人間の叡智に感動してるんじゃないのか?」


シナツヒコを遠目で観察しながら、翔とホノイカヅチはリュックの中のヒルコを覗いた。


「ヒルちゃん、よく眠るなぁ…」


「まあ…、幸せそうな顔で寝てるからいいだろ」


『スピー』『スピー』


「確かに…。ヒルちゃんの幸せそうな寝息が聞こえるよ」


ヒルコの寝顔を見た翔は、少し前から考えていた事をふと思い出した。


夏休み前の、あの学校での出来事があってから---。




ホノイカヅチを見上げると、大きな窓から景色を見ている。



「本当に眺めがいいな」


「うん…。そうだね。…あ、あの…。ホノくん。…聞いていいかな?」


「ん?…ああ、聞きたい事ってヤツか?」


「あ、ううん…。それとは別の事なんだけど…」


「何だ?」


「あ、えっと…。ホノくんとシナくんって、ぼくの事を助けてくれるっていうか、凄く見てくれているっていうか…。それって、ヒルちゃんがぼくの中にいたからだよね?」


翔は眠るヒルコを優しく撫でた。


『スピー』


「ヒルちゃんがぼくの中から出てきたのに、どうしてまだそばにいてくれるのかなぁって…」



何故、今まで不思議に思わなかったのだろう。


ヒルコを探していたシナツヒコとホノイカヅチにしてみたら、ヒルコが現れた今、翔のそばにいる必要はない。


葦原の中つ国の視察も、翔のそばにいなくても出来る。


「あ!ぼくは、シナくんとホノくんとヒルちゃんがいてくれて嬉しいよ!でも………」


学校での出来事があって以来、ずっと思っていた。

翔はスゥと息を吸った。



「当たり前な事って、何もないんじゃないかって思ったんだ。学校に行くのが当たり前。家があるのが当たり前。お父さんと桜がいるのが当たり前。ごはんを食べるのが当たり前。息を吸うのが当たり前。……ホノくんとシナくんとヒルちゃんがいるのが当たり前…。

……当たり前なんかじゃないんだ。全然当たり前なんかじゃない。明日、それを失う事もあるんだ」




「カケルくん…」


写真を撮ろうと呼びに来たシナツヒコが、翔を見て小さく呟いた。


「だから、ぼく、思ったんだ。今、ある事や、あるものを大事にしようって」



「カケル……」


やるせなそうに、ホノイカヅチは笑った。


「カケル。俺達がカケルに会いに行ったのは、ヒルコの気配がしたからだ。最初の理由は確かにそれだよ」


「うん…」


「だけど、何て言うか…。カケルの魂が綺麗だから………。凄く居心地が良かったんだ」


「魂…」

(サヨリヒメさんも言ってたような…)


シナツヒコが翔に目線を合わせるようにしゃがみ、続けて話す。


「うん。僕達ってね、魂が綺麗な人間が好きなんだ。最初はヒルちゃんを見つけるまでって思ってたんだけど…、何だかね、だんだんカケルくんのそばにいたいな~って思っちゃったんだ」


「高天原と葦原の中つ国の異変が解決するまで、カケルの近くにいていいか?」


「あ、あと、ヒルちゃんも。ね!」


ホノイカヅチもしゃがんで、翔と目を合わせた。


「う、うん…!!あ、ありがと…」


カァァと目頭が熱くなって、翔は涙を堪える。


「こちらこそ、ありがとう。カケルくんの言う通りだよ。そう…。当たり前はないんだ。すべて、有難いんだよね」


「ありがとな、カケル」


「うん…!!」




□□□


「さてと…!」


シナツヒコはゆっくりと立ち上がると、スマートフォンを取り出した。


「あれ?スマホ!?シナくん、持ってたの?」


「俺も持ってるぞ」


ホノイカヅチもポケットから取り出した。


「い、いつの間に…!!?てゆーか、それ、必要?」


シナツヒコは不敵な笑みを浮かべた。


「ふっふっふっ。必要だよ~。スマホゲームを無課金でどれくらいいけるか楽しすぎだよ~」


(なっ…馴染んでいる!!)


「あとで何か食べよ~か。僕、お腹すいたよ。でも、写真撮ってからね」


「あ、俺も撮る」


(ホノくんまで!)


呆気にとられる翔の車椅子は、ホノイカヅチによって押されて行った。



△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△




スカイツリーの中にあるカフェに入った。


「わぁぁ~!こんな眺めがいい所でご飯を食べられるんだね!」


今度は翔が興奮している。


「そういえば、カケルもスカイツリー初めてなのか?」


「うん。学校の課外授業で行ったんだけど…、僕、欠席したから」


「そうか…」


メニュー表を見ると、やはり少しお高い。

だが、この絶景なら納得のお値段だ。




◇◇◇



「ごちそうさま!あとはデザートだね~」


ソワソワしているシナツヒコに、翔もうんうんと頷く。


「シナくん、何を注文したっけ?」


「パフェだよ~。カケルくんは?」


「苺のショートケーキ!ねぇ、一口ずつ交換しようよ」


「あ!賛成~!」



きゃっきゃっしている会話を聞きながら、静かにコーヒーを飲んでいたホノイカヅチは、翔に向かって切り出した。



「で?カケル。聞きたい事って何だ?」


「あっ……。う、うん。えっと………」


「どうしたの?カケルくん、遠慮しないで聞いてよ」


「う、うん…。あ、あの。学校…の。クラスの。みんなの事、なんだけど……」


「学校のクラスのみんな?」


ホノイカヅチの眉間にシワが寄った。

明らかに気分を害している。


「そ、そう……。あのさ…。クラスのみんなが何か……アレになったというか……、アレしたの、も…?ほら、邪神のせい……だったりしない?」



〈いじめ〉というワードは使いたくない翔は、ぎこちなく誤魔化しながら話した。


シナツヒコとホノイカヅチは顔を見合わせる。




「つまり、カケルくんはクラスメイトが邪神に取り憑かれていると?」


「うん…」


「だから、あんな事をしたって?」


「そう!」




フゥ~~~と、下を向いて長い溜め息をついたシナツヒコは、勢いよく顔をあげて一言。



「甘い!!!」



………と言った…………。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ