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フルコト!  作者: 﨑山翔
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第三十五話 白い光

ゆっくりゆっくり、白い光が翔へ近付いてくる。


嫌な感じはしないのだが…、やはりおののいてしまう。


目を逸らさず、車椅子を少しずつ後ずさりさせる。


「う…、ち、近い…」


白い光は手を伸ばせばすぐ届く距離になった。


どうしても目を逸らす事が出来ず、白い光を凝視する形になった。


「うう…。何なんだろ…」


白い光が、みるみる人の顔へと変わっていく。


「ひぇ……っ!」


翔の心臓は飛び跳ねるほど驚いたが、やはりずっと白い光を見ていた。


(あっ!ヒルちゃん………)


思わず胸を押さえた時、ヒルコの姿がよぎる。


(そうだった!ヒルちゃん、部屋で寝てるんだった…)


新幹線の一件以来、ヒルコは翔の中に戻る事はなかった。


だが、一日の半分以上は眠っていた。


ヒルコがいないと改めて気付き、急に心細くなる翔。


「ど、どうしよう…」


白い光の中の顔は、眉毛、目、鼻、口がある。



(見た事がない人…だよね…?)



「ふう………」


深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、よく見ようとその顔に近付こうとした時。



カッッ!!!と目が開いた。


「ひゃううっっっ!!!」


再び心臓が飛び跳ねた。




「え…………?」


どこか見覚えのある顔。

どこかで見た記憶がある。


「え……………っと………」


翔の脳内で記憶の電子回路を探っていると、その光の中にある口が開く。



『助け…て…………』


「えっ…。えっ…?助け…て?」


『救われたい…。救って…ほし…い…』


「す…、救う?」


その言葉には、重い重い悲しみが込められているようだ。

今にも泣きそうな瞳だった。



(悲しみが伝わってくる……。ぼくも…、泣きたくなる……)





「わっ!?」


パアアア…!!


突然、光が粒になった。


「え…!?」


そして光の粒は群青色の空へと消えて行った。


「……!?」




翔はしばらく空を見上げていた。


(な……何だったんだろう………?)




(誰だっけ………?)




ボーッと空を見上げていると、かなり速いスピードで落ちてくる何かを見つける。


「ん?何だ?あれ………」


目を細めていると---。




「カー!ケー!」


「ん?」


「ルー!くー!ん~~~!」


「シナくん??」



勢いよく着地する直前、風が巻き起こり、シナツヒコはトランポリンで跳ねたように飛び上がり……、

着地した。



「ゴホ…。お……、ゴホゴホ…。おかえり…。シナくん…。」


砂ぼこりでむせる。


「聞いてよ聞いてよ聞いてよ聞いてよ!!アマテラス様への報告!!またホノが途中で行方不明になったんだよ!!また僕一人で行く羽目になったんだよ!!」


翔に抱きつきながら、シナツヒコはわんわん喚く。



「そ、そうなんだね……。それは大変だったね…」


「も~~~!!ホノって本っ当にずるいよね~~!!僕だって嫌なのに!!今度、めちゃめちゃ高いご飯・デザート付きを奢らせてやる~!!」



「あ…あはは…。ね、ねぇ、シナくん。アマテラス様って、そんなに怖いの?」


「うーん…。怖いっていうか…。圧が凄いんだよね……。めちゃめちゃ綺麗な女神様なんだ…。だからこそ、それ故の、圧が……」


「あ、何かわかるかも…」


綺麗な女性に睨まれたら、すぐに蛙になってしまいそうだ。


「それに、規律正しくて曲がった事が嫌い。自他共に認める優等生な感じなんだよね…」


「そっか…。シナくん。新幹線の事…、アマテラス様は何か言ってた?」


「それが、スサノオ様と宗像三女神が来て助太刀してくれましたって言ったらさ、…何か、ゲッ!みたいな顔しててさ」


「ゲッ!って…、嫌そうな感じって事?」


「うん…。何か~、関わりたくないオーラが出てたよ」


「へ、へぇ…?何でだろう?」


「アマテラス様とスサノオ様は姉弟なんだけど、何かね、むかーし昔に、何かね、ケンカしたとかしないとか…、誰かに聞いたんだよね」


「そうなんだ?…あ、でも…。ふふふ、神様も姉弟ゲンカするんだね」


「三貴神の姉弟ゲンカだから、結構凄まじかったみたいだけどね…。あ、そうそう。アマテラス様にはツクヨミ様っていう弟もいるよ」


「あ、そっか。三貴神、だもんね」


「ほら。ツクヨミ様は月の神だよ。夜の世界を統べる神」


シナツヒコは月を指差した。

いつの間にか日はとっぷり暮れている。


「月…。ぼく、お月様好きなんだよね。よく部屋で一人お月見してるんだよ」


「え~!そうなの?え~!風は?風は好き?」


優しく月を見上げている翔に、シナツヒコは頬を膨らませて詰め寄った。


「あはは…。もちろん好きだよ。特に、晩秋に吹く風が好きだなぁ。ちょっとヒヤッとする感じ」


「へぇぇ~。そ~なんだぁ。カケルくんはツウだねぇ~」


「えぇ?ツウなの?」


二人でクスクスと笑った。



ふと、翔は先ほどの白い光を思い出した。


「あ!そうだ!さっきね…。白い光があってね。それが近付いてきてね。その中に顔が浮かんできたんだ」


「え?何それ?大丈夫だった!?」


「うん、大丈夫だよ。何かね、全然嫌な感じはしなかったよ。あ…。でも、顔が出てきた時はちょっと驚いたけど…」


「それで……、どうしたの?」


「うん。すぐに消えたんだけど…。助けてって、救ってって、言ってた……」


「ふぅん…。そう…。カケルくんに伝えたかったのかな?」


「ううん…。わからないんだ…」




シナツヒコはブランコに腰掛けた。


黄昏時(たそがれどき)ってあるじゃない?昼間と夜の、ほんの少しのあの時間。それはね、逢魔が時(おうまがとき)とも呼ばれているんだよ」


「逢魔が時…?」


「不思議なものが見えやすい時間なんだ。もちろん、あやかしも見える。

カケルくん、この黄昏時は気を付けて」


「え……。う、うん……」


「やっぱり、何かが始まってる気がするんだ。何が始まっているのか…、まだわからないけど…」


「………うん…」


翔が心許なげに頷くと、シナツヒコはニッコリ微笑んだ。


「大丈夫!大丈夫!」


ブランコから立ち上がると、うーんと背伸びした。


「帰ろっか!」


「うん…」



○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○



人通りが少なくなった歩道を、シナツヒコは車椅子を押しながらゆっくりと歩く。



「ねえ、カケルくん。ヒルちゃんてさ、やっぱり寝てる?」


「うん。ほとんど眠ってるよ」


「そっか……。

僕…さ…、あ、ホノもそうなんだけど。まだヒルちゃんに謝ってないんだよね…」


「謝る…?……あっ、そうだ。シナくんとホノくんはヒルちゃんを探してたんだよね?」


「そうなんだ。謝りたくて。…でも、結局まだ謝ってなくて…」


「昔、何も言えずに離ればなれになっちゃったんだよね…?」


「うん……。今度、ヒルちゃんが起きた時に謝るよ」





(あ。考えてみたら…、ぼく、まだヒルちゃんの事とか…、シナくんやホノくんの関係とか…。全然ちゃんと知らないかも…)



振り向き、シナツヒコを見上げる。



「ねえ、シナくん。また…、良かったら…。ヒルちゃんの事とか………、色々…、教えてほしいな」


「うん。わかった」






クラスメイトが邪神に取り憑かれているかもしれない…という事も聞きたかったが、今日はやめておこうと思った。



白い光の中の顔が言った、『助けて』『救って』という言葉も気になったが…。



翔はシナツヒコやホノイカヅチ、ヒルコの事を知りたいと思った。



シナツヒコのもの悲しい声が、頭から離れなかった。







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