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フルコト!  作者: 﨑山翔
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第三十四話 夏の幻

「よし!!邪神も消えたな!!シナツヒコとホノイカヅチも浄化し終わったようだな!!」



スサノオは新幹線の上にあぐらをかき、わはははと笑う。



オキツシマヒメは空を仰いだ。


「はい…。このあたりの空気も、通常に戻りました」


「サヨリお姉様も…、戻られましわ」


タギツヒメの視線の先に、暗闇から現れたサヨリヒメがいた。


「サヨリお姉様。お疲れ様でしたわ」


「はあ~~~~。根の国のしょうきもかなり強まってて…。危うく新幹線が引きずり込まれそうになったよ…」


肩をすくめ、大きなため息をつく。


宗像三女神は、海を守護する神。(何故かスサノオから託された…)


海上交通の守護神のため、軌道修正は得意。

知識や情報、コミュニケーション力も強い。




「邪神も力が強くなっていましたし…。

スサノオ様?葦原の中つ国で、一体何が起きているのでしょうか?高天原の異変と、どんな繋がりがあるのでしょう?」


オキツシマヒメが不安げに言うと、スサノオが珍しく真面目な顔になった。


「ふむ。ヤマタノオロチの幻影のようなものも現れるしな。…まあ、肩すかしではあったが…。しかし、ただごとではないのは確かだなぁ。ふむ。どうしたものか?」




「あの人間の男の子と、まるい不思議な子との関係も…。わかりませんわよねぇ…」


「あ!タギツ、タギツ。あの子はね、カケルくんて言うの。でね、まるい子はヒルちゃんだって」


サヨリヒメがタギツヒメに説明していると、オキツシマヒメが眉をひそめた。


「サヨリ。人間と話をしたのですか?」


「え?うん。カケルくん、とってもいい子だよ。何より、魂が綺麗だったし」


「…………アマテラス様に、あまり人間と関わるなと言われたでしょう?」


「シナツヒコとホノイカヅチなんて、めちゃめちゃ関わっているじゃない?」


「シナツヒコ様とホノイカヅチ様は問題行動だとされています。いくら葦原の中つ国の視察だといっても、行き過ぎています。

しかも、そのまるい物体の件すらも報告していないようですから!」


「ヒルちゃんだってば!」


「名前なんてどうでもいいのです!」



「…まあまあ…。オキツシマお姉様も、サヨリお姉様も落ち着いて下さいましですわ」



オキツシマヒメとサヨリヒメの言い合いに、タギツヒメはゆったりと割って入った。


二柱の言い合いは日常茶飯事のようで、タギツヒメも慣れまくっていた。


真面目で少し気難しいオキツシマヒメと、おおらかで細かい事は気にしないサヨリヒメは正反対の性格だ。

末っ子のタギツヒメはその真ん中の性格で、おっとりとしつつ、しっかりもしている。




「はっはっはっはっ!!まあ、いずれすべてがわかるだろう!!今日のところはこれでよしとしよう!!」



スサノオの豪快な笑い声が、夏の夜空に響き渡る。




「わーっはっはっはっはっ!!!!!」






翔達が東京駅に着いたのは、夜が明けて朝日が顔を出す頃だった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




大変な帰路から翌々日---。


新幹線車内の暴動事件(…という事になっている)は、夏休み前の教室の件と同様、全国ニュースでしばらく騒がれた。


しかも、邪神やヤマタノオロチの退治の時に放たれたシナツヒコやホノイカヅチやスサノオの壮大な力は異常現象とされ、その事も話題になっている。




だけど、翔にとって京都旅行は本当に楽しかった。


真夏の夜空を車椅子で散歩した思い出も、ファンタスティックで今でもドキドキする。




しかしながら---。



八月下旬の暑い昼下がり。

みるみる現実に引き戻される。



「宿題終わらせなきゃ…、だし…」


独り言を呟きながら、脳裏に浮かぶのは………。


クラスメイトに無視されている事。

夏休み直前の出来事。

邪魔だと言われた事。

卓巳に車椅子を蹴られた事、だった。



卓巳は小学生の頃から、一番仲が良かった。


翔は車椅子という事があり、学校以外で遊ぶ事はなかったが…。


いつも気遣ってくれて、とても話しやすい友達だった。



まさかその卓巳に車椅子を蹴られるとは…。



「ううん…。でも…。多分、卓巳は命令されて蹴っただけだと思う…から……」


机に顔を伏せた。


「それに…。伊織さんも……」


伊織や佐々木の態度も急変していた。



「はぁ…………」



ミーンミーンミーンミーン…。



蝉の鳴き声を聞きながら、不意に思い付く。


「邪神………のせい、とか………」



バッと顔を上げる。


「そのせいかも?邪神のせいかもしれない…。

だとしたら…、シナくんとホノくんに浄化してもらえたら、クラスのみんなが戻るかも……?」



そう思った翔は、いてもたってもいられない。


シナツヒコとホノイカヅチはバイトが終わったら高天原に新幹線での出来事を報告しに行くと言っていた。


(もうすぐ戻るかな…?)


時計を見る。

バイトは終わっている時刻だ。


(今日は…、お父さんが直接、放デイに桜を迎えに行ってそのまま病院だったよね…)


少しの間なら、家を開けても大丈夫だ。



(近所を散歩しながら、ホノくんとシナくんを待とうかな…)



翔は玄関のドアを開けた。



夕方になっても暑さが和らぐ事はなく、むわっとした空気に包まれた。


「うわぁ、暑いなぁ………」


西日も強く、日陰を探しながら車椅子を動かす。




◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎



カナカナカナカナカナカナカナカナ……。


公園に行くと、ひぐらしが鳴いていた。


まだまだ暑くても、お盆が過ぎると少しずつ秋の気配も訪れる。



「あっ、月だ……」


南の空に、月がぼんやりと浮かんでいた。


群青色と茜色のコントラストがとても美しい空だった。



公園にある、大きな桜の木を見上げる。


(シナくんとホノくんに最初に会った場所…なんだよね…)


緑の葉っぱが風にそよぐ。

何だか感慨深い。


(そういえば…。あの時…季節はずれの桜が咲いていたのは、サクヤヒメっていう神様がいたからって言ってたよね……)


そう思いながら、翔は何となくサヨリヒメを思い出す。


(サクヤヒメも…きっと綺麗なんだろうなぁ……、なんて……)


ポッと頬を赤らめて、照れ笑いをした。


「あはは………。変な事思っちゃった…。って…ん?…………あれ…?何だろう………?」




桜の木の陰に、何かが見えた。


「えっ……?何か………いる?」


白い光のようなものが見えた。



「何だろう………?」



恐ろしさや忌まわしさは何も感じない。



白い光はゆっくりと翔に近付いてきた---。










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