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フルコト!  作者: 﨑山翔
32/198

第三十一話 ヒルちゃん

新幹線の車内---。





先ほどから、轟音、暴風。

雷が鳴り響いている。


ヤマタノオロチの姿は少数だが見える人がいる。

しかし、シナツヒコとホノイカヅチ、スサノオは完全に見えてはいない。


大半の人はヤマタノオロチも見えないため、新幹線の外で起こっている事は異常気象の自然災害だと思っていた。


新幹線の速度もかなり遅くなっていき、間もなく一時停止する、というアナウンスも流れていた。


乗客が騒ぐのは無理もないが、どんどん騒ぎが大きくなってきていた。



ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ…---。

ザワザワザワザワザワザワ…---。





「………ホノくん…、シナくん…、大丈夫かな……。

それに…、何か凄い騒ぎになってきているような…?」



確かに前代未聞のような異常気象だが、翔はそれとは別の違和感を覚えていた。

そわそわと、いてもたってもいられない。



入り口の引き戸に右手に手をかける。


「でも………。ぼくが行っても……」


ため息をつく。


窓から外を見るが、真っ暗で何も見えない。





「あ…。でも………?」


少し静かになった感じがした。


「もしかしたら、シナくんとホノくんがヤマタノオロチを退治してくれたかも…?」



もう一度、窓の外を食い入るように見つめる------。









ガラリ!!!!!





かなりの勢いで多目的室の引き戸が開いた。



「わ!?ホノくん!?シナくん!?」



飛び上がるくらい驚いた。

が、すぐに安堵感の方が勝り、喜んで振り向いた……。





「………え?」



知らない男性が立っていた。



「え……?だ、誰…………ですか?」



多目的室は内側から鍵がかかっているため、内側から鍵を開けない限り入る事は出来ない。


何故開けられたのかも奇妙だが、翔はもっと奇妙なものを目にした。




その男性は顔面蒼白で、両方の黒目がぐるぐると回っている。


肩は右が上がり、左は下がり、体全体で貧乏ゆすりをしていた。


呂律が回っておらず、何を言っているのかわからない。




「ひっ………!!!」


反射的に車椅子を後方に動かしたため、壁にドンとぶつかってしまった。



狭い個室。

逃げ場がない。


明らかに尋常ではない、見知らぬ男性と二人きり………。




(な…、何……!!?ど、どうしよう……!?)


「あ…っ。助………っ」


(声が出ない………………!!!)




その男性はジリジリと近付いてきた。


「ひっ………!!やっ…………!?た…………す………!!」



翔は助けを呼ぼうと必死に声を出そうとしても、かすれて消え入ってしまう。



(も………!ダメだ………………!!!)



男性の両手が、翔の首に届く…。

その距離まできた、その瞬間。



翔の胸から桃色の物体が出てきた。



「うわぁ!!?」


翔は思わず叫んだ。

(あっ!声が出た!)


男性も驚き、後ずさりする。


「あ!!ヒルちゃん!!!」





翔を守るように浮かぶヒルコの体の色が、みるみる赤い色に変わっていく。


ヤマタノオロチの、鬼灯のような赤い目の色に変わる。


怒りを感じる。



「ヒル…ちゃん…!!」



『さ…れ…。さ…れ…!さ…れ!!!』


ヒルコの声量に合わせるように、ヒルコの体がどんどん光りはじめた。



目が開けられなくなる。


「ヒルちゃん!!」




『され!!!!』


まるで真夏のギラギラした太陽の光が、目の前で破裂したかのように。


目が潰れるくらいに、真っ白になった。






バタン!!!!!


倒れる音---。



おそるおそる目を開くと、男性は泡をふいて倒れていた。



「あっ………!?」




ヒルコは桃色の体に戻り、ふわふわとゆっくり翔の膝の上に落ちてくる。


「ヒルちゃん!大丈夫!?」



『だいじょうぶ…。ぼく…。だいじょうぶ…』



「え…?ヒルちゃん…?」



一番最初、翔の中から出てきたヒルコは滑らかに話をしていたが、今のヒルコは少しカタコトな話し方をしている。


「ヒルちゃん…。疲れてるよね?ありがとう。助けてくれて………」


『じゃしん…。にんげんのなか。はいりこんでる…』


カタコトの話し方が気にかかるも、ヒルコの言葉に翔はゾクッとした。


「え!?邪神が人に入り込んでる!?えっ!?どういう事!?」


『はどう…。ひくい。にんげん。じゃしん。はいりやすい…』


「は…、はどう?」


(た、確か前にシナくんとホノくんに聞いたような…!?な、何だっけ…)


『にんげん。こころ…。よわくなる…。じゃしん…。はいる…』


「なっ、なるほど!心が弱くなると、邪神が入ってきちゃう……って、あれ?でも、病気になっちゃったりするだけじゃないの?」


『じゃしん。つよくなってる…』


「えええ~!?どういう事~~!」


『わからない…』



「ね、ねぇ、ヒルちゃん。ヒルちゃんのしゃべり方が前とちょっと違う感じなんだけど…、大丈夫?」



…というより、翔の中にいた、まだ目を覚ましきっていない状態に戻っている。


シナツヒコとホノイカヅチの怒りを止めた時のヒルコは、完全に目覚めたように思えたのだが…。



『う…ん。だいじょうぶ…』


にっこり笑うヒルコに、翔は少しホッとする。






☆☆☆


スゥ!!




「カケル!!」

「カケルくん!!」



ホノイカヅチとシナツヒコが霧のように現れた。



「大丈夫だったか!?カケル!!」

「カケルくん!!」



「あっ!えっと、大丈夫だよ。えっと、ヒルちゃんが助けてくれたから!」


ヒョイっとヒルコを抱き上げる。


「ヒルコ!?」

「ヒルちゃん!?」


『シナくん…。ホノくん…』



ヒルコはまたにっこりと微笑んだ。























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