第三十話 スサノオ活躍中
新幹線の上に堂々と降り立つ。
切りっぱなしのクセのある赤みの帯びた髪の毛が、暴風になびく。
強靭な体つきに、武骨な顔つき。
それでも、さすがは三貴神の一柱。
どことなく気品が感じられる、不思議な荒神・タケハヤスサノオノミコト。
豪快に笑っている。
「スサノオ様……!どうしてここに?」
ホノイカヅチの問いに、スサノオはますます豪快に笑った。
「はーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
「……………………」
「よくぞ聞いた!ホノイカヅチ!どうしてここにいるのかと言うと……………!!」
「………………………?」
「忘れた!!!」
「何で忘れるんですか!!?」
スゴー。
よ○もと○喜劇ばりに、シナツヒコはコケた。
「ア…アレですよね!?アレがいるから来たんですよね!?」
シナツヒコの指が差した先にいる、うにゃうにゃと蠢くヤマタノオロチに視線を向けた。
「そうだそうだ!!あのヤマタノオロチの気配を感じたからだー!!!」
「良かったですよ…。思い出してくれて…」
スサノオは腰にぶら下げていた剣をゆっくり抜く。
「はっはっはっ!!まさかまた貴様と相まみえるとは思わなかったぞ…!!
ホノイカヅチ!シナツヒコ!お前達はあの群がる邪神を消すのだ!
ヤマタノオロチは俺が倒す!!」
「あっ!待って下さい、スサノオ様!あのヤマタノオロチ、実態がないようです!」
「何と…!?実態がないとな!?」
わすがに目を見開き、少し思案した。
「うむぅ…。ならば納得は出来るな。確かにヤマタノオロチは俺が倒したからな!」
「そうですよね。何か知らないけど、あの時スサノオ様、自慢しまくってましたよね。山の神のオオヤマツミが十回聞いたって愚痴ってましたよ」
「何だと!?」
「あれは幻なんでしょうか?だけど…、禍々しい力はバシバシ感じますよね」
「おい!!増えてるぞ!!」
ホノイカヅチは数百万に増えたであろう邪神を、鋭く睨み付ける。
「考えるのはあとだ!!!シナツヒコ!ホノイカヅチ!まずは一掃するぞおお~!!!」
三柱が同時に飛び立った。
◇◇◇
「神風!!!」
シナツヒコは巨大な風を巻き起こし、邪神を竜巻の中に取り込んだ。
「オオイカヅチ!!!」
その竜巻の中にマンモス級の雷を落とした。
耳がキーンとするよな叫び声とともに、邪神は塵の如く消えた。
だが、すぐにまた数十万ほど現れる。
「薄々わかってたけど…。消しても消しても涌き出てくるパターンだよね…」
「………ヤマタノオロチを消さないと、邪神も消えないかもな……」
「じゃあ、スサノオ様が終わらせるまで頑張りますか!ホノ、また一気にいくよ!」
「わかった!」
◇◇◇
「ふむ…。あいつらもなかなかやるなぁ!」
風と雷の威力を見て、スサノオは満足そうに頷く。
白い不気味な息を吐きながら、十六個の鬼灯のような赤い目が、目と鼻の先にいるスサノオをねめつける。
“コォォォォォォォォォ”
ヤマタノオロチが奈落の底から這い上がるように喉を鳴らした。
「ふっふっふっ!実態がないくせに、偉そうにしてくれるなぁぁ!!!
今回は酒はいらんだろう!!!」
スサノオは剣をふりかざし、ヤマタノオロチの八つの頭の真上に飛んだ。
「どりゃああああああああああ!!!!!!」
躍動感みなぎる動きで首を斬り刻む。
「うおおおおおおおおおおおおお~!!!!!」
八つの首を斬ったあと、暴れまくる八つの尾も切り刻んだ。
「あっはっはっはっはっ!!!昔はここから太刀が出てきたな!!!幻のお前からは何も出てこないよなあ!!!」
最後に胴体を真っ二つにする。
あっけなく終わり、あまり手応えが感じられないスサノオだったが、とりあえず良しとしようと思った。
“ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!”
ヤマタノオロチが忌まわしく叫びながら、急激に、何かに吸い込まれるように消えた。
◇◇◇│
「はーっはっはっはっはっはっ!!!」
スサノオの笑い声が夜空一面に響き渡ると、邪神はザァァァァァと消え去った。
「はぁ~~~!!やっと終わった~~…」
「…ちょっとアレだけど…、はぁ…。さすがスサノオ様だな…」
「あれ?ホノ~、アレって?」
「は?」
「いけないなぁ~。ホノ~。そんな事言ったら!」
「はあ!?」
邪神が消え去り、禍々しい空気が一変し、清々しいものに変わった。
ホッとして、いつものようにシナツヒコとホノイカヅチが言い合いをしていると---。
「キャー!!!」
「ぎゃーっ!!!」
新幹線内から人間の叫び声がした。
シナツヒコとホノイカヅチがすぐに新幹線へ瞬間移動する。
「何だ…!?」
操られているような…、マリオネットのような動きをしている人間が客席で暴れていた。
発狂しながら乗客に襲いかかり、他の数人の乗客達で押さえ込んでいる。
車内は騒然となり、恐怖で泣き出したり、怒号を飛ばす者もいた。
「…この気配…、邪神…!?」
暴れいる人間から、かすかに邪神の気配がしていた。
「いつの間に…!入り込んでいたのか!?」
シナツヒコとホノイカヅチに戦慄が走る。
「………カケル!!!!」