表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フルコト!  作者: 﨑山翔
20/196

第十九話 勇気を出して

「ふぅ…ふぅ…ふぅ…」


教室の前で、翔は呼吸を整える。


ホノイカヅチにもらった上履きを履いて、胸に手を当てヒルコを感じてみる。


ヒルコの反応はないが、確かに翔の中に存在する。


シナツヒコの優しい笑顔も思い出す。


(勇気を出して…)



ガラリ!

教室のスライドドアを開けた。



翔が入った瞬間、ガヤガヤとした雰囲気は消え、ヒヤリと静かになった。

…が、すぐに教室は騒がしくなる。


違和感を感じながらも、翔は自分の席につく。


机の上も、何か変な感じがした。

何かが書かれていたような、ペンの切れ端のようなものが見える。

そしてそれを消したかのような痕跡があった。


「卓巳…」


何だろうと思い、前の席の卓巳に声をかける。


「………」


卓巳は返事をしないし、振り向かない。


「卓巳…。おはよう。…卓巳?」


微動だにしない卓巳の背中に、翔の不安は募る。


「卓…」


もう一度呼ぼうとした時に、担任の宮本先生が教室に入って来た。



「おはよう!!ホームルームはじめよう!」


元気に挨拶し、今日の日直の生徒に合図をする。

それを受け、日直の生徒が「起立…」と言おうとしたと同時に、伊織が勢いよく立ち上がった。



「先生!!」

「お、おう。どうした?」


その剣幕に驚いた先生は目を丸くする。


「今日の朝、翔くんの机に落書きがしてありました!」



(え!?)


翔はビックリして固まった。


(落書き!?)


再び机の上を見る。


(やっぱりこれ、何かが書いてあったのか…)


翔の心臓が早くなる。

何が書かれていたのか…、嫌な想像が巡ってくる。


「私が気付いて消しました。これはイジメです!誰が書いたのかわかりません」


伊織がはっきりと言った。


(えぇ!?)


翔の心臓はますます早くなる。

どうしても認めたくなかったものが、伊織の言葉で浮き彫りになった。



「そ、そうなのか?何が書いてあったんだ?」

「そ…、それは…」


宮本先生に聞かれ、伊織は口ごもる。

翔と目が合い、言いにくそうに困っている。


(ひどい内容だったのかな…)


思わず手のひらに冷や汗をかいてしまう。


「よ、よし。わかった。ホームルームが終わったら、伊織と…、翔は職員室に来なさい」


状況を察し、宮本先生が言った。

伊織は頷いて席に座ろうとした時、今度は伊織の友達の佐々木礼子が突然立ち上がった。


しーん…と、異様に静まり返る教室に、佐々木の声が響く。


「い…、いじめではありません!ちょっといたずらで…。浅野くんの机に落書きしただけです!」


声を震わせながら、叫ぶように訴える。


「れ…、礼子?」


伊織が佐々木に向かって名前を呼ぶが、見向きもせずに続けた。


「わ、私が書いたんです。す、すみません。でも、いじめとかじゃないです…」


宮本先生は、佐々木に慎重に尋ねる。


「何を書いたんだ?」


「そ、それは…。えっと…。イ、イラストを書いたんです。すみません!もう二度としませんから!」


佐々木は涙を浮かべていた。


「そ、そうか…。わかった。とにかくだ!この件はあとで職員室で話そう。三人は昼休みに職員室に来るようにな!」


宮本先生はこの場をおさめる。



しばらくの間、クラス中に異様な空気が流れたが、授業が始まると徐々に薄れていった。





それでも、翔の心臓はずっと高鳴ったままだ。


何が起きてるのか…。


(どうしよう…)


不安に押し潰されそうになる。


怖い。苦しい。


そんな感情で身体中がいっぱいになる。




『こわ…い?』


(あっ…!!)


不意に聞こえたヒルコの声。


(ヒルちゃん?)


翔は心の中でヒルコに話しかけた。


『だ、だ…いじょう…ぶ』


優しくてかわいいヒルコの声が、脳に響く。


(ありがとう…)




ほんの少し落ち着いた翔は、昼休みに職員室に向かった。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




昼休み。



職員室に行く前に、伊織と佐々木は非常階段の隅で話をしていた。


「礼子、どういう事?礼子が机に落書きなんて…、イラストなんて書いてないでしょ?…“邪魔”、“いなくなれ”って書いてあったんだから…」


伊織は佐々木の両肩を揺する。


「あれを書いたのだって、堀田君達に決まってる。体育祭以来、何か変な雰囲気だったし。なのに…何で礼子が罪をかぶるような事をするのよ?」


「……………い、伊織…。だって…」


佐々木は泣きながら伊織にすがりついた。


「お願い!伊織!堀田君に逆らわないで!堀田君、もうクラス全員を味方につけてるし…!」


「え…?何?どういう事?」


「堀田君、伊織が好きだから伊織には何もしないけど…。わ、私は弱みを握られてて…」


「弱み?礼子、何かされたの?」


「私、同じクラスの畠山君に携帯のメールで告白したの…。フラれちゃったけど…」


「畠山君に?」


「伊織を堀田君のグループに連れていかないと、メールをネットにばらまくって言われて…」


「何よ、それ!脅迫じゃない!?そんなの、尚更先生に言わないと…!」


伊織はカッとなり、佐々木の手を掴んで職員室へ行こうとする。

それを必死に止める佐々木。


「待って!!やめて!!」

「どうしてよ?そんなひどい事、許せない!」


伊織はますます激昂している。


「こ、告白のメールのやりとりで、畠山君に言われて…、その…。写真を送るように言われて…」


「え?写真?」


「写真を送ったら、付き合ってもいいとか言われて…。わ、私…。どうしても畠山君と付き合いたくて…。それで…」


「どんな写真…?」


「し、し…下着姿…」


「………送っ…た…の?」


伊織の声が消え入りそうになる。

佐々木は小さく頷いた。


「伊織!お願い!!あんな写真、ネットにばらまかれたら…。私…。

それに、それにね!堀田君のグループに行かないと、私達もいじめられちゃう!…もうクラス全員が堀田君側だし…」


「…ク、ラス全員?」



「堀田君のお父さんの会社が増えるみたいで…。親から臨時収入があったからって、ブランド品とか…、みんなにあげてて…」


「な、何よそれ…。物で人を釣ってるの…?」


「私達、附属校でしょ?高校も大学も、ほとんど同じ人間関係なの!伊織もそうでしょ?それに…。

ネットに写真なんて…絶対に嫌ぁ……」


「礼子………」


愕然とする伊織に、佐々木は抱きついて泣いていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



翔と宮本先生は、職員室で伊織と佐々木を待っていた。



キーンコーンカーンコーン…。



二人は来ないまま、昼休みが終わった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ