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フルコト!  作者: 﨑山翔
139/200

第百三十八話 話をしよう

~~~ナオビノカミの社~~~





ろうそくの灯火と、お香が仄かに薫る部屋。


翔、シナツヒコ、ホノイカヅチはゆっくりと眠りについた。






ツクヨミが手のひらを翳す。


その中から夜の(とばり)が下りた。


満天の星が競うように輝いて、プラネタリウムのような空間が広がる。



「彼の者たちを夢へと(いざな)え」



翔、シナツヒコ、ホノイカヅチの脳内に力を注ぎ込む。






「願わくば、優しく…癒される夢を…」


ナオビノカミも力を注ぎ込んだ。






すると、眠っていた翔、シナツヒコ、ホノイカヅチの身体の中から、もう一つの身体が浮かび上がった。


いわば幽体離脱のような現象が起こる。






そして、それはやがて霧のように消えていった。








「無事、ホッタという人間の夢の中に入ったようだ……。

……ナオビノカミ。

そなたもご苦労だった」



「はい……。あ、いや、このくらい…。

朝飯前ですので…」



ツクヨミに労われ、ナオビノカミは若干所在をもて余す。


 



「……はぁ。

シナたちが夢の中から出るまで…。

時間がありそうだから…。

どこかで休ませてもらいたいのだけど」


「はっ、はい。

どうぞ、こちらの部屋をお使い下さい……」





案内されて歩き出す際に、ツクヨミは翔とシナツヒコとホノイカヅチの寝顔をチラリと見下ろす。



(何事もなければ良いのだけど……)





しかし、この懸念は程なく現実のものになる。








□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□




~~~堀田の夢の中~~~





翔はパッと目を開けた。



「!!??」



ギュオオオ~~~~~~~~~~ン!!!


ものすごい勢いで急降下していた。



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




シナツヒコとホノイカヅチは、車椅子の肘掛けを左右にわかれてぎゅうっと掴む。



「カケルく~ん!大丈夫!?

てゆーかさ!?

僕達、めちゃめちゃ強い力で引っ張られていない!?」



「うっ、うっ、うっ、うんっ!!

引っ張られてるよー!!」




引力に抗うことが出来ないまま、一体どこまで落ちるのだろうか?


スピードも早く、真っ暗で何も見えない。


奈落の底まで行ってしまいそうだ。









「何かさ~!?

僕の風の力が使えないんだけど!?」


シナツヒコがホノイカヅチに向かって叫ぶ。



「やっぱりそうか!?」


「どういうコト~!?」



「いや…、違う!

使えないっていうより…、力が相殺されるんだ!」


「え~~!?何で!?」



ますますスピードが速くなっていく。







「カケル!言霊(ことだま)を使え!

言霊と俺達の力を…、霊産(むすび)の力で繋げ!!

何故かわからないが、俺達の力が相殺されるんだ!」




「こっ、こっ、こっ、こと…言霊………!!

むっ、むっ、むっ、むす………霊産!!」





無我夢中に、翔は意識を集中させる。





「言霊と…、シナくんとホノくんの力を……、繋ぐ…!!

風の力と雷の力を解放する!!」




次の瞬間。





ビュオオオオオオオオオオオ!!!!!


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!



突如として、雷鳴と雷光を纏った烈風が翔達を包み込んだ。




引力がなくなり、スピードが徐々に遅くなる。



ふわふわと車椅子が落ちていく。





地面にタイヤがついた。



「よ、良かった…………」


安堵の息を吐いた。


一時はどうなる事かと思った。







ぐるりとまわりを見渡す。



「ここが…、堀田くんの夢の中………?」



以前見た明晰夢(めいせきむ)と雰囲気がまるで違っていた。



「あ…。そうか。前の明晰夢は僕の…」




卓巳と話をしたあの明晰夢は、翔の夢に卓巳の生き霊が入ったのだった。


今回の場合と状況が少し異なる。



これは堀田の夢の中。


その中に、翔とシナツヒコとホノイカヅチの肉体のない魂が入ったという事になるのだ。







「……暗い………」


くぐもった灰色の世界は、目を凝らしても霧の中にいるみたいで何も見えない。



「と、とにかく…、堀田くんを探さないと…」


翔は車椅子を動かそうとするが、正直どこに進んだら良いかわからない。


やみくもに探しても見つからないだろう。





「ん~。こういう時はさ、直感を使えばいいんだよ、カケルくん」


「ちょ…、直感?」


「ほらほら。目は閉じて、第三の目を開いて!」


「う、うん…」



促されるまま、翔は目を瞑り松果体(しょうかたい)に意識を向ける。


直感=第三の目=シックスセンス。




「うーん…!こっちだ!」



右方向へと指を差す。



「よーし!行ってみよう!」


シナツヒコは車椅子を押した。




「で、でも、自信ないよ…?

間違ってるかも……」


「だったら引き返せばいいだけだ。

気楽に考えろって」


「う、うん。ホノくん、ありがと…」






薄暗い、霧が立ち込める灰色の世界をしばらく歩いたその時---。


気配を感じた。







「…………何だろう…」



立ち止まる。




「……………」


ホノイカヅチは無言のまま、三百六十度見渡す。


「……………」


何も見えない。


物音一つしない。



しかし。


「何かいる…………」





何か…、なにか…、ナニカ…………………。





「え。ナニカ……………」




翔の目の前に。



「ナニカ!?」







出し抜けにナニカが現れた。


巨大な身体に、無数の目、鼻、口、耳がついている。


紛れもない、あのナニカだ。




「ど、どうして……。堀田くんの夢の中に……?」



霧の中に浮かび上がるように突然現れたナニカは、ゆらゆらゆらゆらと体を揺らしていた。



「……ど、どうしよう…?」



しかし。


慌てたのも束の間。


大人しい。


攻撃してこない。


何故だ?


どういう事だろう?












「う~ん…。

ナニカがここにいる理由はわからない……けど…、

ここで暴れられたらマズイかも…」


シナツヒコは、翔とホノイカヅチにコソッと耳打ちした。



「え…?どうして…?」



「ツクヨミ様から聞いたんだ。

ナニカを切ると、その中から人間の憎悪や怨念が飛び散っちゃうんだって」


「えええ?そ、そうなの?」


「うん。そうなんだって。

溜まりに溜まった憎悪と怨念だって。

葦原(あしはら)(なか)(くに)と高天原に蔓延しちゃうんだって」





「……確かにそれはマズイな…。

シナ。……だったら…、どうするんだ?」



「…………。

さあ?」




ホノイカヅチがシナツヒコの両肩をグワングワンと揺らした。




「おいっ!シナ!対処法、聞いてないのか!?」


「聞いてないよ~。

ツクヨミ様、言わなかったんだから」


「お前から聞けよ!」


「忘れたんだから仕方ないでしょ~!」




「ホノくんっ。落ち着いて落ち着いて…。

ねぇ、シナくん。ツクヨミ様からナニカについて他に聞いていない?」



「ほかに…?

そうだなぁ…。ナニカは子供の思念体って事かな。

あ、これはカケルくんも知ってるよね?」


「うん」



「じゃあさ………、その思念体の中身は…詳しく知らないよね?

何か…、何かね、虐待……とかされた子供たちの憎悪や怨念が積み重なって出来たみたいなんだ………」



「ぎゃ………、虐待…………?」


「……らしいよ」


「そう……なんだ……」






ナニカはただ左右に揺れながら、無数にある目はぼんやりと遠い場所を見つめている。




子供が大人達によって理不尽に受けた虐待、ネグレクト…。

子供の頃に体験したイジメ、無慈悲、虚無感…。


たくさんの負の感情が混ざり混ざって出来た思念体。









(救いたい…。ナニカも救いたい…)


翔は胸が張り裂けそうになる。


楽しいとか、嬉しいとか、幸せとか。

何故、そんな感情の思念体は作られないのか。



(きっとそういう感情は軽いからだ。

悪い意味ではなく、いい意味で軽いからだ…。

幸せな感情は軽くて華やかで優しいから、上昇気流に乗って高く高く舞い上がるだ…)


だけど、憎い、恨めしい、呪ってやる…という感情は、暗くて重くて湿っている。


だから溜まって溜まって溜まって溜まって、鉛のように重い塊になって消えていかないのだろう。


(あ………。もしかして…。ナニカって………)



胸に手を当てて、翔は目を閉じた。



ナニカは誰の心の中にもいる。


傷付いた子供の頃の記憶は、ナニカとなって誰の心の中にも存在するのかもしれない。













「とにかく、わからないよな…。

何故…、ホッタの夢の中にナニカがいるんだ?」


「だよね…。

でもさ、対処法がわからないし。

ナニカは大人しくしてるし。

このまま放っといてホッタを探しに行かない?」


「……それもそうだな…。

今はそれがいいのかもしれない……」


「よし!そうと決まれば早々にここを立ち去ろう!

……ねっ?カケルくん!」



ホノイカヅチとシナツヒコが翔に視線を向けた。







「……………」


「カケルくん?」


「……………」


「カケル?」






「………………たい。

救い…たい。救いたい。ナニカも……」



シナツヒコとホノイカヅチの両手を翔はギュッと

握りしめた。




「ナニカを…、ここに放ってはおけないよ。

だから…、助けようよ!」


「カ、カケルくん…。言ったでしょ?

ナニカを切ったりしたら怨念や憎悪が高天原や葦原の中つ国に飛び散っちゃうって。

凄く危険なんだよ?」


「カケル。

ホッタの心を救ったあと、改めてナニカの対処について考えた方がいい。

今は手を出さない方が無難だ」



「……ううん。違う。

堀田くんはきっと…、きっとナニカの中にいる」






「え?カケルくん、どういう事?」


「ナニカは思念体なんだよね。

だから無数に存在すると思うんだ。

………子供の頃に傷付いた人の中に……、ナニカはいるんだと思う」


「カケル…。どうしてそう思うんだ?」


「……ホノくん、根拠はないんだ。

だけど…。

それこそ…、直感で思うんだ。

ナニカは誰の心の中にも存在して、普段はじっと身を潜めてる。

でもね…、何かをきっかけにその存在は姿を見せて、心の中すべてを取り込んでしまうんだ。

…その心の持ち主もろともに」


「……!」






シナツヒコとホノイカヅチは少し驚いた表情になったが、すぐに微笑んだ。



「……カケルくんの直感かぁ…。

それならきっとそうなんだろうね」


「……俺もカケルの直感を信じる。

カケルがそう言うなら…。それが真実なんだろう」



「……え。え?

本当……に?し、信じてくれるの?」



「あはは~。やだな~、何言ってるの~?

カケルくんが心からそう思っているんでしょ?

だったら僕達も信じるよ」


「あ、ありがとう!シナくん!ホノくん!」








「………カケル。一つ、一つ…いいか?

カケルの中に…、

ナニカは………、いるのか?」



「あ…。うん。…本来なら…、絶対に、いた…、と思うんだ…」


「本来なら?……いた?……どういう意味だ?」


「ほら、ぼくにはヒルちゃんがいたから。

ぼくの心の中にナニカは作られなかったと思うんだ。

ヒルちゃんがぼくから出てきたあとも、ホノくんとシナくんがいてくれたから…。

ナニカはいなかったと思う」


「………そうか」


「ありがとう、ホノくん。

シナくんも。ありがとう。

帰ったらヒルちゃんにもありがとうって言わなくちゃ」







それはさておき。

一体どうしたらいいものか。


体を切ってしまえば、その中から怨念や憎悪が撒き散らされてしまう。









「…あ。

……もしかしたら…。

カグだったら………」


ホノイカヅチはあの日を思い出した。


以前、高天原の上空に現れた二本の白い手。



気配と波動からして、あれはナニカの手である可能性が高い事に気付く。


あの時、カグツチの炎で焼き払われた。


怨念や憎悪が出る間もなく、激しい火の力で焼却されたのだ。




「え~。でもそれはダメでしょ。

ナニカの中にいるホッタまで焼かれちゃうよ?

それはさすがにダメでしょ」


「あ。

それもそうか…」




シナツヒコの突っ込みに、一同は再び腕組みをして対策を考える。




「そう考えるとさ~、ナニカの目的を知りたいよね~。

今までの事を整理してみない?」




「そうだな…。

まずは…、カケルの教室、だろ。

クラス全員の波動を下げたんだよな」


「そうそう~。

それと、新幹線のヤマタノオロチ事件~」


「あ、あとは…。

今、ホノくんの言った二本の白い手…。

雹が降った時だよね?」



「……………」





ダメだ。

一貫性がまるでない。







「こうなったら…、もう…、聞くしかない…かな?

ナニカ…に」


翔はもう一度ナニカを見上げる。


「話……、通じるかな?」


シナツヒコも見上げる。


「やってみるしか……、ない……よ、な?」


ホノイカヅチも見上げる。




ゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらと揺れ動くナニカ。


このナニカの中に堀田もいるはずだ。



誠心誠意、問いかけてみるしかない。






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