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フルコト!  作者: 﨑山翔
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第百三十七話 織り成すハーモニー

ナオビノカミの料理のリクエストは、ザ・日本食だった。


卵かけご飯、焼き魚、味噌汁、納豆、冷やっこ。


どこか懐かしい、だけど一番の定番のメニューだ。






「おっ!いい匂いがしてきたなぁ」



翔のマッサージが終わり、仰向けになって寝っ転がっているナオビノカミ。


「カケルのマッサージもなかなか筋が良かったぜぇ」


「良かったぁ。どういたしましてです」










バタン!!



思い切りドアを開けてシナツヒコが中へ入ってきた。




「シナ!もっと静かにドアを開けやがれ!

修理したばっかりなんだぞ!」



「ナオビノカミ様~!

赤字覚悟の大サービスでめちゃめちゃ薪を割っときましたよ~~」



「おぅ。ご苦労さん」



「あー、お腹すいた!

さっきおむすび食べたばかりだけどね~」




つい先刻、大量のおむすびを平らげたシナツヒコと翔。


翔はまだお腹の中のおむすびが消化されていないのだが、シナツヒコの方は燃費が悪いようだ。









「出来ましたよ、ナオビノカミ様。

冷めないうちにどうぞ」


ホノイカヅチが茶碗にごはんをよそっていく。




「カケルはまだ腹減ってないんだろ?

納豆だけにしとくか?」


「うん。ありがとう、ホノくん」






「あっ!ホノ~!僕は食べるよ~。

ごはん大盛り、卵は二個ね!」


「……はいはい」


シナツヒコ用のどんぶりに、ごはんをぎゅうぎゅう詰め込んだ。






「シナ。おめぇは少しくらい遠慮しやがれ」


「ナオビノカミ様が薪割りをさせるからですよ~。

動いたらお腹すいたんですよ~」








なんやかんやと騒ぎつつ、食卓には料理が並べられて食事が始まった。


「いただきまーす!!」





納豆をよく混ぜた方が好きなタイプの翔は、真剣に箸を動かす。




「そんなに混ぜるのかぁ?」


「はい!その方が美味しいですよ!

ナオビノカミ様も是非!」


「ホゥ…。んじゃ俺もよく混ぜるかねぇ」


「あ、ちなみにナオビノカミ様は右まわりで混ぜますか?それとも左まわり?」


「…は??

何だ、そりゃ?」


「右まわりで混ぜると、キリッとした美味しさになって、左まわりで混ぜると、まろやかな美味しさになるんですよ」


「はぁ??

そんだけで味が変わるってのかぁ?」


「ふふふ。

試してみて下さいよ」


「………ま、俺は騙されねぇけどな。

ここは一つ暇潰しにやってやるぜぇ」



ナオビノカミは左まわりに納豆を混ぜる。


そして一口…。




「んっっ!?

確かにまろやかな風味が口の中に広がりやがる!!」


「やっぱりそうですよね!?」






シナツヒコとホノイカヅチは黙って味噌汁をすする。


実際はどうあれ、物事はまずは思い込みが先行する。


偏った見方からもしれないが、このご時世、まずは何事も疑ってから受け入れて、良し悪しの判断は自分の頭で考える必要がある。



テレビもメディアも、公平でない報道しかしないというのは否めない。






「……ナオビノカミ様って案外信じやすいよね…。

カケルくんもだけど」


「ナオビノカミ様は自分で判断はしてるけど……。

ハナっから思い込んでるから意味はないよな…」



盛り上がるナオビノカミと翔を、生暖かい目で見守っていた。










「ごちそうさん!

ホノ、なかなかうまかったぜ!」


ナオビノカミは満足そうに手を合わせた。


ヤカンから番茶を湯呑みに注ぎ、ごくごくと飲み干す。




「………ああ。そうだ。

言い忘れたけどな。

お前ら、夢ん中に入る時にはな、ツクヨミ様のお力も必要だからな?

ちゃんと頼んでおけよ?」



「え!!!!?」



ほぼ同時に声を張り上げて、翔とシナツヒコとホノイカヅチは互いの困惑気味な顔を見合わせた。


堀田の心を救う事に対して、ツクヨミはあまり良い顔をしなかった。


いや、むしろ不快感をあらわにしていたのだ。





「ナ、ナ、ナオビノカミ様…。

ツクヨミ様の力って…。

あ…、あの時、卓巳と話が出来た夢……も、ツクヨミ様の力を……?」


「ああ?当たり前だろうがよ。

俺はもともと穢れを祓う神だぜぇ?

夢を司る神はツクヨミ様なんだよ」




月の神であり、夜の世界を統べるツクヨミ。


夢は眠りについてみるもの。

眠りを誘うものは夜。


「た、確かに…。その通りですよね……」


ごもっともである。





「ホノくん…、知ってた?」



「いや…、俺も初耳だ。

考えた事もなかったな。

だけど…、言われてみると当たり前ではあるか…」









「ん~。じゃあさ~、ナオビノカミ様は何をするの?

夢を司る神がツクヨミ様なら、ナオビノカミ様は関係ないんじゃない?」


「シナめ…。失礼だな…。

俺はなぁ、その夢に癒しや安らぎを提供してんだよ。

そうでなかったら、いい夢を見るにも賭けになるだろうが。

夢には悪夢もあるんだぜぇ?」


「あ!そっか!

ナオビノカミ様、めっちゃ重要じゃない!」



「ふふん。そうだろう?

……まあとにかく。いいか、お前ら。

ツクヨミ様に力を送ってもらうか、直接来てもらうかどっちかだぞ?

……俺は今から昼寝する。

準備が出来たら起こせよ」









◇◇◇



ナオビノカミが別室に行った。





シーンと、不穏な空気が流れる。






「ねぇ、シナくん、ホノくん。

ツクヨミ様、頼んだら…来てくれるかな?」



「う~~~ん。

とりあえず…、力をここに送ってもらうだけでもいいんだよね?

頼んで頼んで…。

拝み倒せばワンチャンあるかなぁ……」


「……そうするしかないよな。

…気乗りはしないが…、直接行った方が心証はいいよな?」




シナツヒコとホノイカヅチは立ち上がった。




「カケルくんはナオビノカミ様と待っててよ~。

僕とホノでツクヨミ様の所に行ってくるからさ」


「えっ!?

ぼ、ぼくも行くよ!」



「カケルはここで待ってろ。

ツクヨミ様に苦言を受けたばかりだろ?

口八丁手八丁のシナに任せておけばいい」


「………ホノ?

それ、どーゆー意味?

絶対褒めてないよね?」




「…………。

とにかく行ってくる。

その間、カケルは休んでろ」


「すぐ戻ってくるからね~!カケルくん!」




「えっ、でもっ!ホノくん!シナくん!」






ホノイカヅチとシナツヒコは穴のあいた天井から空へと舞い上がると、粒子を散りばめて消えていった。



「ホノくん、シナくん…」



二柱の消えた姿の残影がなかなか消えない。


翔はしばらく天井から空を見上げていた。








◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




~~~高天原の上空~~~




「あっ!?

ねぇ、ねぇ、ホノ!

あれ、ツクヨミ様じゃない!?」


「え………っ?

…あ。確かにツクヨミ様だな」



「でしょ?

ちょうど良かったよね~」


「…ん?

…なぁ、スサノオ様も一緒にいないか?」



「ホントだ!

何をしているのかな?」





シナツヒコとホノイカヅチはゆっくりと近付いていく。


だんだんとツクヨミとスサノオの話し声が聞こえてきた。






「スサ。

高天原と葦原の中つ国に起こる、異常気象や怪異の根本原因の特定…。

今はどんな感じ?」


「…はい。

出雲に集まる神々と情報交換をしていますが、なかなか真相の究明には至りません」


「…そう」


「ここ最近は何事もないですからね。

少し気を抜いてしまう状況かもしれません」


「……それは仕方ないけど…。

ありとあらゆるものは忘れた頃にやってくる…というのは割りとテッパンだから。

神々に肝に銘じるよう伝えて」


「はい。兄様」












「ツクヨミ様~、スサノオ様~、こんにちは~」



シナツヒコはブンブンと手を振りながら二柱のすぐそばに降り立った。



「おお!シナツヒコ!久しいな!」


「そうですか?この前会ったばかりですよ~」


「はっ!はっ!はっ!そうだったかな!?」



スサノオの笑い声が高天原の空に響いた。




「シナ、ホノ。

珍しいね。こんな場所で会うとは」



ツクヨミは訝しげな表情になった。




ここはアマテラスの神殿から程近い、小高い山の頂上だ。


このあたりは高天原の神々も滅多に来ない。


もちろん、シナツヒコとホノイカヅチもアマテラスからの呼び出しの時以外は絶対に来る事はない。




「はい…。

実は…、俺達、ツクヨミ様に会いに来ました」


「僕に?

なに?」


「…はい。実は………………」











ホノイカヅチはツクヨミに説明した。


堀田の夢の中に入るため、ナオビノカミの社に力を送ってもらいたい。

もしくは、ナオビノカミの社まで来てほしい旨を話した。



案の定、ツクヨミの顔はみるみる険しくなった。





「……カケルに言ったはずだけど。

ホッタという人間を助ける気はない、と」


「はい…。それはカケルから聞いています。

しかしながら……、カケルはどうしてもホッタの心を救いたいと……」


「………。

ホノ、わかっている?……そこにいるシナもだけど。

ホッタという人間はカケルをいじめたって事。

性格的にも魂的にも終わってる」


「はい、わかってます…」


「……それに。

言うまでもなく、一家全員の魂は汚れきっている。

それなのに助ける意味ある?」


「………。

俺も…、カケルをいじめていた人間を助ける事は…、納得出来ませんでした。

…今も納得していない自分はいます。

だけど…。カケルを見て確信しました。

人間の魂は…、人間が人間を思いやり、救い合う事によって磨かれていくのだと」


「…それはそう。往古来今(おうこらいこん)

……今さら何を…」


「俺達…。神は…、その本来の意味を見失っていたのかもしれません。

人間が自分の犯した過ちに気付き、反省し、やり直したいと決めたのなら。

自分と自分以外の人間を大切にすると決めたのなら。

神が力を貸す事は当たり前ではありませんか?」


「…………何故?」


「俺はカケルのそばにいて実感しました。

神がいるから人間がいるのだと。

それはつまり、人間がいるから神がいる……とも考えられます」






「それ!それ、僕も同感です!」


ツクヨミに向かって、シナツヒコは首を大きく縦に振った。




「よくわからないけど、僕もカケルといて思いました。

神の存在理由と人間の存在理由は同じだなって。

神と人間も、もしかしたら寄り添って生きているのかなって。

人間は…、僕達神の姿は見えないけど、葦原の中つ国には八百万の神々がいるから。

目には見えなくても、何となく感じているはずです」


「………だから?」



「だから、神も人間を思いやるんです。

そうしたら、神の魂はもっと輝きますよって話なんですよ~!」


「は?

シナ、何を言っている?

神の魂は充分磨かれている」


「だから~!もっともっともっとですよ!」


「……………はぁ」




呆れ返ったように、ツクヨミは溜め息をつく。


やはりシナツヒコとホノイカヅチは、翔という人間に毒されたか……と、考えてしまう。


神が人間にいいように操られるなど、あってはならぬ……と。






そんなツクヨミを見たスサノオは、豪快に笑いながら助け舟を出した。




「はっ!はっ!はっ!はっ!はっ!

兄様!いいではないですか!

手を貸してやっても!」


「…またか…。スサまで一体何を…」


「古来より、人間は花見であったり祭りであったりと、神事により祈りを捧げてきた。

それを受け取り、俺達神々も恩恵を与えてきた。

カケルも同じような行為をしたというのであれば、それはそういう事でしょう!」


「……………はぁ」



ツクヨミは降参したと言わんばかりの深い溜め息をついた。




「わかった。

ナオビノカミの社に行く。

……仕方ないから」





「やった~!

ありがとうございます!」


「ありがとうございます!」



喜ぶシナツヒコとホノイカヅチをツクヨミは軽く睨み付けつつ、ナオビノカミの社に向かって飛び立った。








「スサノオ様も~!

ありがとうございます!

スサノオ様のおかげです!」


「本当にありがとうございます。

感謝します、スサノオ様」





「はっ!はっ!はっ!

良い良い!

シナツヒコとホノイカヅチの言葉、この俺にも熱く胸に響いたからな!

それを返しただけだ!

…………おい、それより早くお前達も行け。

兄様が見えなくなるぞ!」





「はい!スサノオ様~!」


「では失礼します」





シナツヒコとホノイカヅチはスサノオに何度も頭を下げたあと、ツクヨミのあとを追った。



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