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フルコト!  作者: 﨑山翔
134/196

第百三十三話 少女の回顧

伊織の家からの帰り道。



翔とホノイカヅチ、カグツチは歩道をゆるゆると歩いていた。








「…………はぁ」


「カケル?どうした?溜め息ついて……。

疲れたのか?」


「あ…。う、うん。……少しだけ。

色々…、緊張しちゃって……」


「……そうだよな。

言霊も使ったし……。疲れただろ」


「うん……。

でも……。佐々木さんの気持ちがちょっとでも軽くなったらいいなぁ」


「そうだな……」










交差点を通り過ぎて程なく、桜の木がある公園が見えてくる。


珍しく誰もいない。


ブランコが風に揺れてキィキィと鳴っている。



何となく、翔は車椅子を止めた。










「……カケル?」



この公園、近隣地域の中ではそれなりに大きい規模にあたる。 





「カケル?

公園が………どうかしたか?」



「うん………。

前にね、……えっと、マガツヒノカミが現れた時なんだけど……。

その…、マガツヒノカミが現れる前にね、ハンカチを貸してくれたおばあさんと女の子がいたんだ」


「…ああ…。確か…前に言ってたな」


「うん…。

ぼく…、まだハンカチを返してなくて……。

少し気になってて……」







胸の奥がモヤモヤするのを感じていた。


身体中がザワザワと蠢いて、気分が悪くなる感覚を覚える。



目には見えない、不安と不満の塊のようなものが押し寄せてきているようだ。












「あっ!!見て見て!!なにあれ!?」



カグツチが空を指差した。





南の上空に、固まった黒く大きな雲がぐるぐると渦を巻いていた。


雷も発生しているようで、渦を巻いた雲のまわりをパチパチと放電している。


あからさまに、通常の雲とはまるで違う。












「何だ……?あの雲…………」










「っ!?」


突然、ホノイカヅチの意識が朦朧とした。


《オモイダセ---》









「うっ…………………!!!!?」



猛烈な頭痛がホノイカヅチを襲った。



「ぐ………………っ!!!!!」


立っていられなくなり、膝をついて頭を抱える。


(な…、何だ……これは…………!?)







「ホっ、ホノくん!?大丈夫!?」


「ホノ兄!?」






脳神経が焼き切れそうだ。


圧迫されてそのまま爆発してしまいそうだった。









「ホノくん!?どうしたの!?ホノくん!!」


激痛に抗うのに必死で、翔の声が聞こえていない。





「どっ……、どうしよう!?どうしよう!?」




ホノイカヅチの意識がどんどん遠のいていく。



「ホノくん!ホノくん!?しっかりして!!」








ドサッ!!!



その場に倒れ込んだ。




「ホノくん!?」




車椅子に座ったままでは届かない。


翔は車椅子からずり落ちるように降りて、ホノイカヅチの心臓の音を聞いた。




トクン…、トクン…。


微弱だが動いている。



「よ、良かった………」





しかしこのままでは危ない。



シナツヒコに知らせるか…。


ナオビノカミの所に行くか…。



「カ…、カグくん!!どうしたらいいかな!?

早くホノくんを助けなきゃ……………」






翔は振り返ってカグツチを見上げた。





「カ…カグ……くん………?」





カグツチは渦を巻いている雲をぼんやりと眺めて、その場に立ち尽くしていた。


ブツブツと何かを言っている。



「カ、カ、カグ…く…………」










ボゥ!!!!!





突如、カグツチの身体から炎があがった。



「うわっ!!?」



火の粉が飛び散る。


カグツチを包み込むように、炎はぼうぼうと激しく燃え上がった。




「………母様だ…。

母様だ…。見つけた。やっと見つけた…。

母様、母様、母様、母様…………………」






「カグくん!?カグくん!!」


叫ぶ声は燃え盛る炎の轟音にかき消された。




「………アイツはどこにいるんだ?

…………アイツはどこにいるんだ?

…………アイツはどこにいるんだ?」






「カグくん!?どうしちゃったの!?

カグくん!?カグく……ん!」



涙がどんどん溢れてくる。

もうどうしたらいいのかわからない。



「ううっ…、ううっ…!

ホノくん!!ホノくん!!」




翔はただ泣き叫ぶ事しか出来なかった。












◇◇◇◇◇











(俺は…………、どうしたんだ…………?)



ホノイカヅチは重たい瞼を開ける。


暗くて湿った場所に倒れていた。



ぼつん、ぼつん、とつらら石から水滴が落ちる。



(洞窟……か?)








「「「ホノくん!ホノくん!ホノくん!」」」




洞穴に、微かにこだまする翔の声。




「カケル………!!」



猛烈な頭痛はおさまったが、こめかみにズキズキと痛みが走る。



「くっ…!」



立ち上がり、耳をすます。





「「「ホノくん!ホノくん!」」」



翔の声のする方へ、歩き出したその時---。







「どこへ行く。

ホノイカヅチ」




声がした。




振り向くと、そこには。






「だ、誰だ………、お前……」




子供のような、大人のような…、可憐な容姿の少女がいた。


しかし見た目とは裏腹に、態度と話し方は尊大なものだった。





「クッ、クッ、クッ。

お前………とは心外だな。

わらわを忘れたか」



「………は?」



「クッ、クッ、クッ。

面白い。

何と滑稽であることか」



「だ……、だから…、

誰なんだよ!?」



「その浅ましさに免じて、今の無礼は許してやろう。

…だが、二度はない。

覚えておけ」



「………は?

何…、言って………」



「覚えていないのか。

わらわはそなたを生んだ母である」



「………な!?

何を………!?」



「信じられぬか?

それとも、信じたくない…と言うのか?」



「あ……、当たり前だ!!

一体…、何を根拠に…………!」



「クッ、クッ、クッ。

笑わせてくれるな。

根拠もなにも、わらわの中に流れている血が、そなたの中にも流れているだけだ」



「…デタラメだ………!!」



「…………良い。

時がきたらわかる。

ここでそなたと押し問答をする暇などない」










ッ!!!






「はっ!?」



瞬きをする間だった。


少女はホノイカヅチの目の前にいた。





「いいか、ホノイカヅチ。

もうすぐだ。

もうすぐ…、わらわの願いを果たす時が来る」



「ね、願い……?」



「その時がきたら、そなたは必ずわらわのもとへと来い。

良いな?」



「……何を…、言っている…!?

せ…、説明しろ…。

どういう事なの……か…」





再び、強烈な頭痛がホノイカヅチを襲った。


痛みのあまり、目の前が霞んで見える。






「説明?

そんなものは必要ない。

母の命令に従わないとでも?」




ズキンズキンズキンズキン!!!…と、容赦なく痛みが走り続けた。




「母………な……んて、知らない………!

お前は…、誰なんだ………?」





少女は一瞬、嘲笑うかのような表情をした。





「わらわはイザナミ。

そなたの母だ」



「!!!??」










◇◇◇◇◇









「あっ!!ホノくん!気が付いた!?」



「カケル……………?」




目を開けたホノイカヅチの顔面に、翔は思い切り抱きついてワンワン泣いた。



「良かった~~~!良かった~~~!

ぼく、ぼく…………、何にも出来なくて………!!」




シナツヒコの携帯電話に何度も何度もかけたのだが、すぐに留守電になってしまった。。


ホノイカヅチを抱えて移動が出来ない翔は、シナツヒコが電話に出るまでかけ続ける事しか手段がなかった。



「うわ~~~ん!!うわ~~~ん!!」





幸か不幸か、公園やその近辺に全く人が来なかった。





「……カケル。

ごめんな…。もう…、大丈夫だから」


「ホノくん!頭は?大丈夫?痛くない?」


「頭……。…あ、ああ……。今は痛くない…」


「そっか…。……うううっ!うううっ…!

良かったよ~!!うわ~~ん!!」



安心しすぎて、どこかのネジがはずれてしまった翔。


また泣き喚いた。


涙がどんどんどんどん溢れてきて、涙が枯れるまで泣くしかなかった。







「カケル…。もう大丈夫だから…。

泣くな……」


(俺は……。何をしていた?

今……、何を……?

…………夢を見ていたのだろうか?)




今しがたの出来事を何故か思い出せない。



歯がゆく、もどかしい。







「ホ…、ホノくん?

………どうしたの?」



「あ…。いや、何でもない。

……カケル。ようやく泣き止んだか?」



「う、う、うん…。

もう……、落ち着いたよ……」



鼻をズズズとすすった。






「そういえば……。

カグは、どこに行ったんだ?」



「カグくん?

カグくんならそこに………って、

あ、あれ?」



空を見上げて立ち尽くていた場所にカグツチがいない。







「ホノ兄~~~!!」



カグツチが大声で呼んだ。


缶ジュースを抱えて走って来る。。






「はぁ…。はぁ…。

ホノ兄、大丈夫?」



「ああ。もう大丈夫だ。

心配かけたな」




「それなら良かったよ!!

はいっ!ジュース!」



「カグ、ありがとな」



ホノイカヅチは缶ジュースを受け取ると、ゆっくり立ち上がった。




「カケル。車椅子に座れるか?」


「う、うん。

ごめん、ホノくん。

引っ張ってもらえる?」



地べたから車椅子に座り直した。






「ホノ兄~。カケ兄~。公園で一休みして行こうよ!」



カグツチはブランコに向かってまっしぐらに走った。







ベンチに座り、ホノイカヅチは溜め息をついた。


(…………夢…、だったのか…?

夢だとしたら…、俺は一体どんな夢を……)














「ねぇ、ねぇ、カグく~~ん」



翔はブランコを漕いでいるカグツチに話しかけた。



「………ねぇ、カグくん。

さっきの事なんだけど…。

どうして……、身体中に炎を出したの…?

……何か理由があるの?」




身体中に炎を纏って、ブツブツと何かを言っていたカグツチ。

様子が明らかにおかしかった。




「………………」





「…?

カグくん……?」







ブランコを全力で漕いでいるカグツチ。

聞こえていないのだろうか?






やがてブランコが止まる。










「カケ兄。

それ、何のコト?」


「え?あっ…、いや、だからさ。

カグくん…、さっき……」


「知らないよ。

ボク、何にもしてないよ」


「ええ?だって…、カグくん…」


「カケ兄、気が動転してたからさ、幻覚でも見たんじゃないかな?」


「げ、幻覚?

…え、え、そ、そんなはずは……」


「ボク、知らないよ~~!!」




カグツチは笑いながらすべり台の方へ走って行った。





「カグくん…………」







カグツチは嘘をついた。


確信して言える。


どうして嘘をついたのか。


それは、知られなくない何かがあるから。




「カグくん………」









北の上空にあった、暗く大きな雲の渦巻きは跡形もなく消え去っていた。




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