第十二話 ホームルーム
桜も終わり、新緑がキラキラと眩しい季節になった。
シナツヒコとホノイカヅチは、毎日のように翔の家に来るようになった。
時間は決まっていないようで、好きな時に遊びに来る、近所に住む親族のような感覚だ。
(ここでは好意的な意味合いで)
ただくつろぐだけではなく、時には家事を手伝ったり、桜のお世話を手伝ったりと、翔と父にとって頼りになる存在となりつつあった。
シナツヒコとホノイカヅチのケンカのようなじゃれあいを見て、父は楽しそうに笑っている。
翔もいつの間にか友達のような、兄弟のような感じになっていた。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい!カケルくん」
「気を付けてな、カケル」
いつもの朝のあいさつが、何とも心地よくなっていた。
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☆キーンコーンカーンコーン☆
学校ではもうすぐ体育祭がある。
今日のホームルームでは、体育祭について話し合う。
「では、各自出たい種目を決めてくださーい」
学級委員の伊織は、黒板に種目を書き終えてパンパンと手をたたく。
クラスメイトは隣の席や、近くの席の人達と、どうする?などと話し始めている。
「いいか!みんな!」
担任の宮本佳浩先生が、急に立ち上がる。
筋肉がたくましい、いかにも体育会系の先生だ。
「体育祭は勝ち負けではない!クラスのみんなが一丸となって戦う素晴らしい行事だ!クラスの団結力を見せようじゃないか!!」
シーン。
「…………………えーっと…。じゃあ、順番に、窓際の席の人から希望の種目を言ってください。とりあえず今は、他の人と被ってもいいからね」
宮本先生が自分の言葉に感動している隙に、伊織はテキパキと話をすすめる。
(ぼくは…。去年と同じ、応援合戦でいいかな…)
頬杖をついて、ぼーっと黒板を見ている翔に、前の席の卓巳が振り向く。
「翔。決めたか?」
「去年と同じ。応援合戦。応援合戦は本当は全員参加だけど、特別に種目として扱ってもらったんだ」
応援合戦は、体育祭午後の部最初のメインイベント。
赤、青、黄、緑、紫の色別対抗で、これは全員参加のため、本当は原則種目としては扱われない。
「ああ、そうか。そういえばそうだったな」
「うん。だから今年も。卓巳はどうするの?」
「うーん…。どうしようかな…。障害物にしようかな。運が良ければ、結構いい線いくだろ」
「あ!いいんじゃない。卓巳ってハードルとか得意だよね」
☆☆
パンパンと伊織がもう一度手を叩いた。
「はーい。とりあえず、みんなから聞き終わったんで、出場種目人数がオーバーしている所を話し合って決めていきまーす」
すると、クラスのリーダー的存在の堀田智之が教室中に響き渡る声で言った。
「うちのクラスは青組だ!みんなで青組を優勝に導こうぜ!」
堀田は父親が社長らしく、金持ちの坊っちゃんだった。
見た目もなかなかの男前で、カリスマ性がある。
堀田にゴマをする男子多く、女子からもある程度はモテていた。
それ故、自信満々で少し人を見下すような振る舞いもするが、それを含め憧れる者も少なからずいるようだ。
「先輩や後輩たちより活躍してやろうぜ!」
一年生、二年生、三年生の、一クラスずつが同じ色になる。
ちなみに翔のクラスは、二年三組なので、一年三組、三年三組と同じ青組という事だ。
堀田のセリフに、一部の男子が歓声をあげながら盛り上げる。
「………それじゃあ…、種目オーバーしてる人達は、前に出てジャンケンしてくださーい」
伊織は少し怪訝そうな顔をして、その場を取り仕切った。
数人が黒板の前でジャンケンをしている。
「卓巳は人数オーバーしてないから決定だね」
黒板を見ながら翔は卓巳の背中をツンツンした。
「お~。障害物って意外と人気ないんだな~。
……なぁなぁ、それにしてもさ、堀田って凄いな」
卓巳は堀田に視線をうつした。
「うん。本当、リーダーって感じだね」
同意しつつ、翔も堀田をチラッと見た。
机の上に座り、数人の男子に囲まれて談笑している。
なかなか決まらないのか、黒板の前のジャンケンが白熱していた。
「翔!」
突然、宮本先生が叫ぶ。
パタリ…と、さっきまでのクラスの喧騒が静まり返る。
「えっ…!」
びくっと驚く翔に、まくし立てるように宮本先生は続けた。
「応援合戦は種目じゃないぞ!翔も何かに出場しないと!」
「えっ…?」
思わず卓巳と目を合わせた。
「あ、先生…。翔は去年も応援合戦でした…」
卓巳が小さい声で答えてくれた。
「去年は去年。今年は今年だ。何でもいい。参加してみないか?」
宮本先生の熱い視線が、翔にギラギラ突きつけてくる。
(い、嫌だなぁ…)
車椅子の翔にとって、体育祭は出来れば欠席したいところだ。
「先生~。浅野には無理だろ。応援合戦でいいじゃん」
堀田がいかにも面倒臭そうに吐き捨てる。
助け船ではない事は明らかだが、翔はホッとした。
今の言葉はすぐには処理できない、かなりモヤモヤするものだったが、今の状況に置いてモヤモヤは無視しておく。
「どうして?翔くんにも出来るよ!ねぇ、翔くんも何か出ようよ」
伊織は少し怒っていた。
堀田の言葉にカチンときたようだ。
「玉入れはどうかな?男女混合で、私も出るの。今、1人あいてるし」
「え?いや、ぼくは…応援合戦で…」
まさかの展開に翔はついていけず、卓巳に助けを求めたが、卓巳もびっくりしてついていけない。
「おお!いいな!玉入れ!そうしよう!」
宮本先生が上機嫌で納得し、すぐに伊織が黒板に翔の名前を書いた。
玉入れなんて、やった事があるはずもなく。
翔は冷や汗ダラダラになる。
「あ、あの、ぼくは…」
慌てて断ろうとすると、堀田は翔を睨んだ。
「浅野。足引っ張んなよ。俺達の目標は優勝なんだからな」
その冷たい物言いに、何も言えず目を伏せていると、かわりに伊織が答えた。
「堀田くん、足が早いんだから大丈夫よ。堀田くんが最後の色別対抗のリレー出るんでしょ?」
「あ?ああ…」
「一番得点高いんだから、それで一位をとれば大丈夫よ!」
「伊織は色々甘いんだよな…」
堀田は伊織に惚れているらしく、足が早いと褒められて照れている。
卓巳は面白くなさそうにしていた。
その横で翔は、思いがけない体育祭参加が不安で不安で仕方なかった。
(ちゃんと断れば良かった…)
後悔で頭がグルグルだ。
☆キーンコーンカーンコーン☆
いつもより大きく聞こえるチャイムが鳴った。
(断れば良かった………)
後悔で頭がグルグルだった。




