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フルコト!  作者: 﨑山翔
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第百九話 自分自身

四つん這いで睨み付けている卓巳は、もう翔の知っている卓巳ではなかった。


容貌が変わってしまっている。



よだれを垂らし、鼻と口から激しく息を吐いていた。



複数の人間の怨念に取り憑かれて、ひどく変貌してしまった。



一刻も早く、卓巳の中から怨念を取り除かなくてはならない。








邪神が人間に取り憑つく場合と、人間の怨念が人間に取り憑つく場合とは少し違いがある。




邪神が人間に取り憑つくと、病気になってしまったり、それに伴い最悪死んでしまうケースがある。


場所そのものに邪神が取り憑けば、貧乏神・疫病神へと変化して、その場所にいる人間に災いが訪れる。



人間の怨念や憎悪が人間に取り憑つくと、それらが更にまた別の人間の怨念や憎悪を磁石のように引いてくる。


この怨念の好物は人間の生気。

複数の怨念に取り憑かれた人間は、徐々に生気を吸い上げられて死んでいく。



どちらも命の危機に関わるのだが、邪神と怨念の違いは死んでからだ。


怨念によって生気を搾り取られた人間は、新たな怨念となって彷徨い続ける。


未来永劫、生まれ変わる事が出来なくなるのだ。









「でも…。何で卓巳に怨念が取り憑いてしまったんだろう………?

ねぇ、シナく…………、

………あ」



翔の目に映るシナツヒコは、顔に笑顔を貼り付けてはいるものの、怒りのオーラで満ち溢れていた。


貼り付けた笑顔も剥がれそうだ。




「シナくん……。ぼく、もう…だい、大丈夫なんだ…。

卓巳と話が出来たし……」



卓巳によってクラス全員から翔が総スカンを食らった経緯を聞いた、シナツヒコとホノイカヅチとカグツチは怒りをあらわにしていたのだ。



ヒルコはいつの間にか翔の頭上で昼寝中…。


(ヒルちゃん寝ちゃった!)







「カケルくん。本当にいいの?

結局さ、原因は何だったの?

ホッタくんの理解不能な嫉妬?」


「あ………。う、うん。どうかな…。

それだけじゃないと思う…」


「それだけじゃないのなら、一体何なのかな?

カケルくんが車椅子って事に関係してるのかな?」


「そうかも………、しれない…。

色々…、クラスの足を引っ張っていたし…」






毎日の学校生活の中で、どうしてもハンデを持っている人は統一性を乱してしまう時がある。


車椅子の人だけじゃない。


様々な特性を持っている人達もそうだろう。


周りと同じように協調性を持ちたくても、どうしても出来ない人もいるのだ。





《多様性》

今の時代、当たり前のように流通している言葉。


確かに、一昔前よりはダイバーシティな世の中になってきているだろう。



しかし植え付けられた文化や価値観は、そう簡単に覆せない。


特に学校や会社など、小さな世界に組織が作られているところでは、異質なもの、違うものには容赦なく攻撃をして排除していく。


集団心理。

同調圧力。


強くて低い波動は、大きな悪の感情を振り撒く。

それはその場にいる人間の波動も影響されて流されて、やがては同じように染まってしまうのだ。








「だったら余計にクソだよな。

自分と違う人間、自分が気に入らない人間がいたら虐げても構わないって事だろ?

反吐が出る」


「……………でも…。でもね、ホノくん。

ぼくも良くないところはあったかもしれない。

遠慮したり、卑屈になったり………」





いつの頃だったか。


雨上がりの校庭で、課外授業が行われた。


雨上がりの校庭はぬかるんでいて、車椅子では大変だった。


手伝うよ、と声をかけてくれたクラスメイトがいたが、申し訳なくて翔は断った。


案の定、ぬかるみにタイヤをとられて転倒する大惨事。


この日の課外授業は中止になってしまった。



素直に感謝して、差しのべてくれた手をとれば、また違った方向へと進んだのかもしれない。








「カケル。そうやって己の非を認めるのは立派だし、お前の長所だ。

………でもな、だからと言ってホッタのした事は許される行為じゃない」


「………。

だったら…、卓巳…とか…は、仕方ないんじゃないかな?

だって…。従わなかったら今度は自分もって……」


「従ったヤツ、ただ見てたヤツ、知っていて何もしなかったヤツ、全員同罪だ。

当たり前だろ。

何でそんなヤツらが無罪なんだ」


「だって…、それは………」







『カケルくん』



いつの間に目が覚めたのか、ヒルコが頭の上からフワリと降りてきた。

手のひらを差し出すと、その上に乗った。



「ヒルちゃん…?」


『カケルくんがカケルくんを責めちゃダメだよ。

カケルくんがカケルくんの気持ちを隠さないで』


「ヒルちゃん……」




ホノイカヅチが翔の頭を撫でる。



「感情が複雑にもつれたら、それを修復するのは困難だ。時間もかかると思う。

結局うまくいなかい時もあるだろう。

だけど事実は事実だ。

人間社会ではイジメは犯罪。

この事実を根底として、これからを考えていくんだ」


「う……ん…。わかった…」



ヒルコも優しく笑っていた。









「ねー、ねー、ねー、ねー!今からどうするのー?

火の力を出しちゃっていいのー?」



カグツチはすっかり飽きてしまったようだ。



「ちょっ、ちょっと待って!カグくん!

もう少し待って!!」


「カケ兄は甘すぎるんだよ~。

たまにはガツンと言わなくちゃ!

弱腰すぎると相手はどんどんつけあがるだけだよ」


「う……ん。わかって…はいるんだけど……」



ガツンと言うのは勇気がいる。


特に、アウェイの空間では鋼の心臓の持ち主でない限り、足がすくむと思うのだ。





「ボクはそのホッタって人間も知らないし、状況を見てはないけどさ。

話を聞いていて、一つだけわかった事があるよ」


「わかった事?」


「みんなさ、カケ兄の事を下に見てるんだよ。

ハンデがあるからって理由で、カケ兄を蔑んでいるんだよ。

だからさ、そんなカケ兄が自分達より優れているところを見たらどう思う?」


「あ…………」


「そのホッタって人間は、その感情をモロに表面に出しただけでさ。

まわりの人間も、そーゆーのを心のどっかで思っていたんだよ。

だから簡単に波動が染まっちゃったんだよ」


「う…………………」




カグツチは見た目は少年だが、頭が良く洞察力がある。


翔自身、薄々感じていた違和感はまさしくこれだろう。

教室中に、このような感情が入り乱れていたのだ。




「カ…、カグ!!

そんなにハッキリ言う事ないだろっ!」


「そっ、そうだよ!カグ!!

もっとオブラートに包まなきゃ…!!」



ホノイカヅチとシナツヒコは大慌てでカグツチの口を押さえる。




「………ううん。

ホノくん、シナくんありがとう。

いいんだ。

わかってる。

…わかっていたんだ」





「ぷはぁっ!」


二柱の手を払いのけたカグツチは、ほっぺたをプゥと膨らます。



「ホノ兄もシナ兄も甘いよねっ。

カケ兄も甘いしっ。

本当に甘々だよねっ」




「ねぇ、カグくん。

カグくんならどうする?

ぼく、これからどうしたらいいのかな?」




「……………。

…………人間の真価を決めるのは、その体を所有している人間のみだ。

他人が定めるなんて、神にでもなったつもりなのかな?

身の程を知らなすぎる」



カグツチの身体から炎がたぎる音が聞こえてきた。


燃え盛る火があたり一面真っ赤にする。





「カ、カグ……、カグくん……?」


「ボクなら殺しちゃうかなー」


「えっ!?」


「手始めに、アイツ殺してみていい?」



卓巳を指差してニッコリ笑った。



「待って!!待って!!待って!!待って!!」


「もー。また待つの?

それならどうするのさー?」



翔に全力で止められて、再びほっぺたを膨らませた。

燃え上がっていた火がシュワシュワと弱まる。





卓巳から怨念を取り出したい。


しかしその方法として、神々の提案は少々…、いやかなり荒々しいものだ。


複雑な気持ちを整理出来ず、正直混乱している。

戸惑いもある。



…とはいえ、卓巳に怪我を負わせてしまうのは何か違う気がするのだ。



懸命に考える。





「あっ、あの!そう!そうそう!

ぼく、思ったんだ!

卓巳の家を壊しちゃう可能性があるからさっ!

もう少し穏便な方法はないかな!?」



「……別にいいんじゃない?

壊れても」



カグツチが無邪気な瞳で答える。

このキュルンとした瞳が逆に怖い。



「よっ、良くないよっ!

ほら、家は大切でしょ?

だってほらっ、家も神様なんでしょ?」



八百万の神(やおよろずのかみ)の神。

この世界にあるものはすべて神なのだから。




「あ……。そうかぁ。

……かわいそうだもんね、お家」


「うん!うんうんうんうん!!」


納得してくれたようだ。



「じゃあさ。

家を壊さないように、アイツだけ狙うよ。それならいいでしょ?」


「えっ!!!?」



そうくるか。

翔はぐるぐると頭の中で弁解を探す。


(なんて言おう!?)





「カグ。多分それは難しい。

タクミの中の怨念がどんどん増してきている。

暴れ出したら厄介だ」



ホノイカヅチが目交ぜする。


気が付けば、卓巳の背後から黒くて暗い影がゾワゾワと集まってきていた。


おとなしく待っていたわけではなかった。



「卓巳………」



「フシュー……、フシュー……」


吐く息は白く、完全に凶暴化した獣のそれだった。





「本当だ……。

う~~~ん、どうしようか?

外に連れ出す?

カケルくん、この辺に広い場所とかはないかな?」


「え……。そうだなぁ……。

あるかなぁ……?」


ここは都内の住宅地。

暴れまわっても問題がない広い空き地など、心当たりがあるわけがない。




「あっ!!そうだ!!

パラレルワールド!!」



アマテラスとツクヨミ、スサノオの誓約(うけい)で創ったパラレルワールド。


パラレルワールドを創った目的は、現実世界の被害を避けるため。


今の状況にドンピシャだ。




「そっか!

ナイスアイデア!カケルくん!」



「あ…!!

でもっ、パラレルワールドに移行するには波動が高くなきゃいけないんだ……」



今の卓巳の波動はめちゃくちゃ低い。




「それなら大丈夫だ。

一時的にタクミの波動を強制的に高くしてパラレルワールドに引っ張っていくから」


「それじゃあタクミくんはホノに任せる。

カグは一瞬タクミくんの気を逸らして。

僕とカケルくん、ヒルちゃんでパラレルワールドに先導するよ」


「了解だよ~!」


『パラレルワールド、行こう~』


「うっ、うん!!」




パラレルワールドに出発だ。









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