69「帰郷」
大金持ちになったティーパ一同。
均等に分けた金貨(大金貨は、全て金貨に両替した)を渡した上で、マーサとリカをそれぞれ実家に送り届けた後――
ティーパとアンは、ウェーダン王国の孤児院へと帰って来た。
王都へ向かう細道から開けた場所――孤児院の敷地内に入り、二人が歩いて行く。
左手の家庭菜園スペースでは、声を上げ、元気一杯に働く金髪セミロング少女――サンの隣で、青髪幼女――アクが、屈んで、「えいっ!」と、一生懸命に雑草を抜いており――
そこに――
「……ただいま!」
――アンが明るく――しかし、僅かに震えた声で、声を掛けると――
「「!!!」」
――目を見開いた二人が、振り返って――
「にぃに! ねぇね!」
――とてとてと駆け寄って来て、脚にギュッと抱き着くアクの頭を、「ただいま」と、いつも通り無表情のティーパが撫でると――
アクは、屈んだアンに抱き着いて――
「おかえりいいいいいいいいいいい!」
「……ただいま、アク……。……寂しい思いをさせて、ごめんね……」
ポロポロと大粒の涙を流すアクを、瞳を潤ませたアンが、強く抱き締めた。
そんな光景に、少し遅れて歩み寄って来たサンは――
「意外に早かったじゃん! 〝聖魔石〟を手に入れるのって、案外ちょろかったんだね!」
――両手を頭の後ろで組みながら、元気一杯に軽口を叩くが――
「待たせたな、サン」
「!」
――そう語り掛けるティーパに――
「……うん……。……ちょっとだけ……待ってたかな……」
――目に涙を浮かべたサンは、声を震わせて――
「……おかえり、ティー兄……」
「ただいま」
――静かに抱き着いた。
と、そこへ――
「もう帰って来たんですね」
――ロープに吊るした大きめの野鳥三羽を手に、赤髪ショートヘア少女――ファイが、右側――森の方から戻って来た。
「ただいま、ファイ」
立ち上がったアンが、アクの頭を優しく撫でながら、微笑む。
「お帰りなさい、姉さん」
背負っていた弓矢と獲物を地面に置いたファイは、チラリとティーパを一瞥すると、顔を顰めた。
「帰って来るのは、姉さんだけで良かったんですけどね。もう一人は、どっかで野垂れ死んでくれる事を期待していたんですが」
「コラ! またそういう事言って!」
相変わらず嫌悪感を全く隠そうとしないファイに、ティーパは――
「あの日、お前が才能を開花してくれたお陰で、俺は冒険に旅立つ決心がついた。それまでは、才能開花を確認した事は無かったからな。この冒険が成功したのは、お前のお陰だ。ありがとう、ファイ」
「!」
――静かに語り掛けて――
――ファイは――
「ふ、ふんっ! 無理矢理パンツを脱がせて食べるような変態に御礼なんて言われたって、嬉しくも何ともないです! キモいだけですから、やめて下さい!」
――そう言って後ろを向くと――
「……変態の癖に、変なこと言わないで下さい……」
――頬を赤らめ、誰にも聞こえない程の小さな声で、ぽつりと呟いた。
そんな、彼女たちの感動的な再会を、少し離れた場所で見守っていたシャウルと、その腕に抱かれた魔王は――
「フッ。兄妹愛! ああ、麗しく尊いものだな! 流石の我も、涙を禁じ得ない!」
「放すまお! 何で魔王がお前なんかに抱かれないといけないまお!」
――サンに指差されて――
「ところで、ティー兄、何あれ?」
「気にするな。ただの〝真性ドMド変態勇者とポンコツ魔王〟だ」
「え? 何それ? 大道芸人か何か?」
「ああッ! 嘗て世界を救ったこの美しい我が、そのような罵詈雑言を浴びせられるとは! ああッ! ああああああああああッ!!!」
「魔王はポンコツじゃないまお! 人類を滅ぼす、偉大で最強且つ恐怖の象徴まお!」
――ティーパの冷たい言葉によって、一刀両断された。