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68「シャウルが指差したもの」

 シャウルが芝居掛かった動作で指差したのは、広大なグロモラージ平野――を埋め尽くす勢いで死屍累々と転がっている、夥しい数のモンスターの死体だった。


 マーサ、魔王、そしてディクセアが仕留めたそれらは――

 討伐が難しい多数の〝上級モンスター〟であり、中には〝最上級モンスター〟すらいる。


 各国の冒険者ギルドは、モンスター討伐の〝クエスト〟や〝依頼〟を数多く扱っており、その報酬は〝難易度〟に比例する。


 つまり――


「フッ。貴様らが目にしているのは、正に〝宝の山〟という訳だ」


 一体何匹いるかも分からない。

 文字通り数え切れない〝上級モンスター〟と〝最上級モンスター〟の亡骸を前にして――


「モンスターの死体が、〝金銀財宝〟に早変わりなの!」

「どわはははははははは! 換金だけで何日掛かるか分からないな!」


 気分が高揚したリカがブンブンと銀杖を振り回し、じっとしていられないのか、マーサが腹筋を始める。


「これで、アクたちが明るい未来を歩いて行けるわ……!」

「ああ、そうだな」


 貧困に喘ぎ、誰よりも妹たちの事を案じていたアンが涙ぐむと、ティーパも頷いた。


※―※―※


 モンスター討伐によって収入を得ようとする場合、直ぐに思い付くのは、〝クエスト〟や〝依頼〟をこなす、という事だろう。


 だが、〝クエスト〟や〝依頼〟が出されていないモンスター(もしくは、〝クエスト〟や〝依頼〟に書かれているモンスターではあるが、要求されている以上の数)を倒した場合でも、その角や牙を商業ギルドに売る事によって、金に換えることは出来る。


 それは、それを欲する人間――主に富裕層の――がどの国にも一定数おり、市場価値があるからだ。


 ただし、スライムのような低級モンスターでは、数が多く入手難易度も低く、希少価値が低いため、最低でも中級モンスター以上で、ある程度入手難易度が高い獲物である必要があるが。


 ちなみに、グロモラージ平野に横たわる星の数程のモンスターの骸は、〝上級モンスター〟と〝最上級モンスター〟で、入手難易は間違いなく高い――が、その数が多過ぎるが故に、その全てを市場に流してしまうと、値崩れを起こしてしまう。

 よって、その全て(の角や牙、場合によっては眼球など)を買い取ってもらえたわけではない。


 が、〝モンスターを直接売る事〟よりも、遥かに割の良い事があった。

 

 実は、各国の冒険者ギルドが、「どうせ無理だろう」と決め付けて、『人類の安寧を脅かす〝グロモラージ平野のモンスター〟を全滅させた者には、()()()()を与える』と、長年明言して来たのだ。〝他の全ての〝クエスト〟と〝依頼〟を合計した金額よりも多い額の報酬〟を提示して。


 そこに、ティーパたちがやって来た。

 「グロモラージ平野のモンスターを殲滅した」と言いながら。


 そして、明らかに疑っている様子の各国の担当者たちと冒険者ギルド長を、順番に、力を取り戻したシャウルの〝空間転移魔法〟でグロモラージ平野へと連れて行った(ちなみに、魔王の〝空間転移魔法〟は、近距離限定である)。


 そして、口をあんぐりと開けて愕然とする彼ら彼女らを、再び〝空間転移魔法〟で冒険者ギルドの建物内へと連れ帰って、蒼褪めて全身を震わせる彼らから、報酬を貰った(無論、一ヶ国ではなく、きちんと全ての国から)。


 かなり大きな金額ではあるが、グロモラージ平野のモンスターを殲滅した事で、〝モンスターに対する最終防衛ライン〟としての役割は必要無くなり、チェイフォレート共和国の都――プロサガーデに対する他国からの援助は全く要らなくなったため、それにより、ある程度今回の支出と相殺出来たであろう(援助金によって潤っていたプロサガーデの長は、「急にそんな事を言われても困る」と、大いに不満を訴えていたが)。


 〝グロモラージ平野のモンスター殲滅〟という千載一遇の機会に対して、ティーパが打った手は、〝冒険者ギルドからの報酬〟と〝角や牙等の商業ギルドへの売却〟に留まらない。


 世界中の国から出た、「ダンジョン内のモンスターは、絶滅させないで欲しい」という、経済的な見地からの要望に対して、ティーパは、「魔王城内に、モンスターを生み出すシステムを発見して壊してしまったが、自分たちなら、それを直す事が出来る」と述べた。


 無論、各国首脳たちは、「とても信じられない」と述べた。

 そこで、ティーパは、「これから一年間、ダンジョン内のモンスターの増減を、常に注視する事だ」と伝えた。


 実際、魔王が力を取り戻すために、その魔力を奪ってしまった〝黒魔石〟は、魔力が枯渇しており、このまま放置すれば、モンスターはもう生まれず、減る一方だ。


 魔王に聞いたところ、「魔王が〝黒魔石〟に魔力を注入すれば、また使えるようになるまお!」との事だったので、ティーパは、暫くは魔力は注入せず、一年後、モンスターがいなくなって経済的な打撃を受けている世界各国に対して、「ダンジョン内のモンスターを復活させてやるから、金を寄越せ」と伝える予定だ。


 尚、魔王城は爆発してしまったので、〝黒魔石〟は、〝聖魔石〟を安置して来た物と同じ台座の上に保管する事にした。


 そして、〝聖魔石〟共々、ティーパ一行以外の誰も触れないように、シャウルが再び最強の巨大魔法障壁を展開し、更に、〝物体修復魔法により復元した神殿〟を、球体状の魔法障壁で覆って、陸・空・海全てから守り、地下からの侵入も防いだ。


 だが、それを見たティーパは――


「これじゃあまだ十分じゃない」


 ――そう言うと、俯き、思考して――


「そうだ。()()()()()()()()()()()()

「………………は?」


 ――そう告げた。


 そして、後日。


「〝聖魔石〟に関して、重要な相談がある」


 含みを持たせた言い方で気を引き、世界中の国家、その首脳を集めて、ティーパは国際会議を開いた。

 本来ならば、一冒険者の戯言など、と一蹴する所だろうが、〝グロモラージ平野のモンスター殲滅〟を成し遂げ、一夜にして世界一の財を築いたティーパは、もはやただの冒険者ではなかった。そのため、各国とも、決して無視出来なかったのだ。


 普段と違い、正装したティーパは、会議の冒頭にて、まず、「〝グロモラージ平野のモンスター殲滅〟を達成した自分たちだが、それ程の力を以ってしても、〝聖魔石〟があるであろう神殿の前に展開されている巨大魔法障壁は、破壊出来なかった」と述べた。


 「自分たちの力では破壊出来なかった」という点では真実だが、「巨大魔法障壁は破壊されず、〝聖魔石〟を入手する事は出来なかった」という事に関しては、明らかに嘘だ。


 が、ティーパたち以外でその事実を知っているのは、ディクセアのみであり、彼女であれば、放っておいても、他言する事は無いだろうと踏んでいた。


 何故なら、〝王族としての権威や特権は一切使わずに、常に単身で行動して来た〟その性格からすると、四百年間誰にも破られなかった巨大魔法障壁の破壊も、彼女にとっては、気分の赴くままに、一人で勝手に行った事であり、「ちょっと市場で大根を買って来ますわ」程度のものでしかないと考えられるからだ(彼女が達成感を感じたのは、〝ティーパ殺害〟に関してであり、巨大魔法障壁破壊に関しては、特に何も感じていなかったため、彼女にとっては大したことではないのだろう)。


 さて。

 国際会議の場で、ティーパは、各国首脳に問うた。


 「今後、〝聖魔石〟を求めて、大規模な軍隊を編制して、巨大魔法障壁破壊を目論んだりしないだろうな」と。


 数百年前。

 人類は、〝聖魔石〟争奪のための戦争を起こし、滅亡し掛けた。

 同じ轍を踏むなどという愚行は犯さないだろうな、と。


 首脳たちは、「勿論、そんな事はしない」と言った。

 「戦争など、誰も望んでいない」「民の事を考えれば、平和が一番だ」と。


 しかし――


(嘘だな)


 ――〝グロモラージ平野にて跋扈していた上級モンスターと最上級モンスター〟という脅威が排除された今、残る障害は、魔法障壁のみだ。


 それを突破すれば、何でも願いが叶う宝物が手に入るとなれば、ディクセアのような狂人を除いて、渇望しない王族などいる訳が無い。


 ティーパは、表面上は、「それは何よりだ」と同意しつつ、一つの提案をした。


「では、全ての国から商人たちを派遣して、〝聖魔石〟があるであろう神殿を守る魔法障壁の前に店を構えさせて、観光地化してはどうだろうか? 観光地化による利益を各国で共有するんだ。これにより、戦争も抑止出来ると思うのだが」


 もしも世界各国が、〝聖魔石〟を求めて魔法障壁を破壊しようとしても、その前には自国の商人たちがおり、大規模魔法を使わなければ決して突破出来ないという構造上、自国民を殺さずに成し遂げることは不可能だ。


 すると、首脳たちの表情が変わり、何人かは難色を示すだろうことが予想出来た。


 だが、彼らが口を開く前に、ティーパは――


「ちなみに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「「「「「!?」」」」」


 ――と、ぽつりと呟いた。


 ティーパの後方にて、豪奢なドレスに身を包み、未だにアンデッドであるが故に目立つ出血や目の下の濃い隈は〝魔力を付加した化粧〟で誤魔化したシャウルが、何食わぬ顔で、ずっと映像魔法を使っていた。


 その証拠にと、白く輝くディスプレイのようなものが、円卓の真上に出現すると――


「へ、陛下!? これは一体……」

「こ、国王様!?」

「「「「「!」」」」」


 ――遠く離れた自国にて、映像を通して自分たちを見ているらしい、困惑した臣下たちの顔が映し出されて――


 ――更に――


「〝聖魔石〟の神殿、観光地化するんだって!」

「面白そうじゃん!」

「行ってみたい!」

「へぇ~。確かに、それだったら、戦争を防げるかもしれないわね!」


 ――世界各国の全ての都市と村の中心部にて、魔法により生み出された巨大スクリーンの映像を見ている市民たちの様子が映されて――


 狼狽する首脳たちに対して、ティーパは、「さて。もう一度問おう」と、いつも通りの無表情で迫った。


「全ての国から商人たちを派遣して、神殿を守る魔法障壁の前に店を構えて、観光地化する。利益は各国共有。戦争も抑止出来る。それで、異論は無いよな?」


 苦虫を噛み潰したような顔で、首脳たちは、首肯せざるを得なかった。


 このような経緯を経て、ティーパたちは、漸く戦争防止のための大きな抑止力を手に入れることが出来た。


 ちなみに、それとは別件だが――


 ――〝聖魔石〟の直ぐ傍に〝黒魔石〟を置いた事で、そう遠くない未来に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだが、それはまた別のお話。

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