67「約束」
吹っ飛ばされたティーパが、戻って来た後――
「……ふわぁ~あ……腹減ったまお……『物体創造』……もぐもぐ」
欠伸をしながら、魔王が、物体創造魔法で〝パンツ〟を創り、食べながら、ふよふよと飛んで、ティーパの頭の上に着地して寝そべった。
そんな彼女が、「……『物体創造』……もぐもぐ」と、何度もパンツを生み出しては食べているのに気付いたティーパは――
「……『物体創造』……まお? ……『物体創造』……もぐもぐ」
「もぐもぐ」
時折頭上の魔王が手元に生み出したパンツを、目にも留まらぬ早業で奪って、自分の口に放り込んで食べていた。
不憫な目に遭いながらも、寝惚けていて何も気付いていない魔王を――
「……まお?」
――アンは背伸びして両手で持ち上げて奪い、自分の胸に引き寄せると――
「ほら、見て! こうやって並んだら、まるで親子みたいじゃない! フフフ」
魔王を抱きつつ、赤ん坊をあやすかのように身体を小さく揺らしながら、ティーパを含め三人で並んだ自分たちの姿に、笑みを零した。
と、その時――
「調子に乗るのもいい加減にするの!」
――背後から声が聞こえた。
振り返ると、リカが、怒髪天を衝く勢いで声を荒らげて――
「さっきから、いやらしい事ばっかりしてるの! ああ、いやらしいの! 汚らわしいの!」
いつの日かティーパを〝癒やす〟ために、舌を使った〝特別なキス〟を夜な夜な練習していた者とは思えない発言をした後――
「今は、ほんの一歩――じゃなくて、ほんの〝半歩〟だけ先を行ってるかもしれないけど、今に見てるの、この泥棒猫! リカが、お兄ちゃんを絶対に取り戻してみせるの!」
腰に手を当てながらアンを銀杖で指して、そう宣言するリカに――
「分かったわ。楽しみにしているわね」
――穏やかな微笑を浮かべながら、アンがそう応じると――
「キー! もう、何なの何なの何なの! 余裕ぶってるの! 気に食わないの!」
――リカは、金切り声を上げつつ、地団駄を踏んだ。
※―※―※
「そんな事より」
「いや、そんな事て。結構修羅場だったわよ?」
二人の少女に取り合われている事に気付いているのかいないのか、いつもの無表情に戻ったティーパに、アンが突っ込む。
ティーパは、〝打撲で顔がパンパンに腫れあがって、鼻血を大量に流しながらも、何故か幸せそうな表情で地面に横たわっているシャウル〟の横に転がっている〝聖魔石〟を拾い上げた。
「〝聖魔石〟は、あと数年は使えない。流石にそこまで待ってはいられないからな。冒険者家業で、地道に金を稼ぐしかないか」
「覚えてたのね!」
「約束したからな」
仏頂面のティーパに、アンが微笑む。
孤児院から旅立つ際に、ファイたちと交わした『大金を稼いで、帰って来る』という約束。
涙と共に送り出してくれた妹たちを笑顔にする。
そのためにも、しっかりと働いて稼がねばならなかった。
「どわはははははははは! 〝数年〟使えないって、具体的には何年だ?」
「いや、あんた、筋トレするか会話するかどっちかにしなさいよ!」
戦闘が終わって、〝これでゆっくりとトレーニング出来る〟とばかりに、腕立て伏せを始めたマーサが問い掛ける。
「いや、俺も詳しくは知らな――」
ティーパがそう答え掛けると――
「フッ。その問いには、この美しい我が答えよう」
――シャウルが立ち上がり、大仰な仕草で、横から口を挟んだ。
見ると、回復魔法も使えたのか、いつの間にか先程の傷が全て治っている。
今まで治さなかったのは、十中八九、彼女がつい最近目覚めた〝性癖〟によるものだろう。
シャウルは、両手を広げて、仰々しく続けた。
「フッ。〝聖魔石〟が力を失い、休眠状態に入っている期間。それは――」
「それは?」
「……フッ。この美しい我にも分からぬ」
「いや、あんたも知らないんかい!」
シャウルによると、最初は覚えていたようだが、四百年間一人孤独に過ごしている内に、「誰かと喋りたい!」「会話したい!」と、そればかりが頭に思い浮かんで来て、いつしか忘れてしまったらしい。
「フッ。数年という事だけは確かだ。それさえ分かっていれば、特に問題もあるまい」
シャウルは、必要なのかよく分からない身振り手振りを交えつつ、「それよりも」と、更に話を続けた。
「金を稼ぐという話だが、貴様らは、何かを忘れているのではないか?」
そう言いながら、彼女が優雅に指し示した先を見たティーパとアンは――
「「あ」」
――顔を見合わせ、揃って声を上げた。
※―※―※
それから、数日後。
ティーパたちは――
「金貨がたくさんなの! 一攫千金なの! これぞ冒険の醍醐味なの!」
「どわはははははははは! それ、ほとんど〝大金貨〟だぞ! 〝世界〟を丸ごと買えそうだな! どわはははははははは!」
――世界一の大金持ちになっていた。




