65「孤高の存在」
「お兄ちゃんが〝生首アンデッド〟になっちゃったの!」
「ティー兄、痛くないのか、それ? っていうか、生きてるのか、それ?」
衝撃的な光景に、顔面蒼白になるリカと、戸惑いを隠せないマーサに、ティーパが反応する。
「何を言っているんだ、二人とも。生首アンデッドだなんて、そんな冗談……冗……談……を……」
と、そこまで言った後、ティーパは――
「首から下が無い」
「今気付いたの!?」
――漸く自分の身体の変化に気が付いた。
――直後――
「うっ」
「お兄ちゃん、どうしたの!?」
「ティー兄、大丈夫か!?」
呻き声を上げるティーパに、二人が心配して駆け寄ると、彼は――
「首の切断面が地面と触れて、冷たくてちょっと気持ち良い」
「変な所で、快感を感じないで欲しいの!」
「心配して損したぞ!」
――いつもの無表情でそう呟き、リカたちに突っ込まれた。
――次の瞬間――
「ぐはっ」
「きゃああああああ!」
「うわああああああ!」
――突如、ティーパが、大量に吐血して――
「お兄ちゃん!」
「ティー兄!」
リカとマーサが、悲痛な叫び声を上げた。
――が。
「あれ?」
「え?」
「へ?」
――気付くと――
「元に戻ってる……?」
――ティーパは、元の状態――五体満足に戻っていた。
首を触ってみるティーパだったが、斬首されたのが嘘であったかのように、そこには傷一つ無く――
「一体何が……?」
ティーパが、そう呟くと――
「テッテレー! ドッキリ大成功!」
――陽気な叫び声が聞こえて――
――リカとマーサが振り向くと、そこには――
物体創造魔法で創った〝ドッキリ大成功!〟と書かれた看板を掲げながら笑みを浮かべるシャウルがいた。
「フッ。驚いたか? この我が仕掛けた美しいサプライズに! 首を切断されたように見えたのは、全てこの我の美しい幻覚魔法だ!」
指をパチンと鳴らして看板を消したシャウルは、大仰な身振り手振りで説明を続ける。
「フッ。ティーパによってパンツを食べられた我は、魔力を取り戻し、魔法を使えるようになった。そして、目に見える形で魔力を操って、恰も〝聖魔石〟が再起動したかのように見せ掛けたのだ! 本当は、この通り、休眠状態のままにも拘らず!」
そう言ってシャウルがこれ見よがしに見せ付けた、その手中にある〝聖魔石〟は、確かに全く輝いておらず、ティーパの身体を縛めていた漆黒の光も消えている。
天を仰ぎながら、滔々と語るシャウルは――
「フッ。勇者として異世界転生して四百年間余り。元ヒキニート――もとい、〝孤高の存在〟だった我だが、存外、寂しがり屋でもあったらしくてな。長い間誰とも話していなかったため、どうしても、ちょっぴり御茶目なコミュニケーションを取ってみたくなってしまったのだ。そのため、サプライズを仕掛けた。まぁ、貴様らにとっても、良い刺激になったであろう。フハハハハハ! フハハハハハ! フハハハハハボブベッ!」
――無言で近付いて来たマーサに殴られて、吹っ飛んだ。
「何をする武闘家幼女ぶぼはっ!? ……いやいや、膨張した闘気を纏っての殴打は、本気で死にかねんから止めて欲しぎがぼっ! ……あと、ローブ少女よ、杖の尖った方で人の顔面を突くのは危ないから止めでぐぶっ!」
怒り心頭のマーサとリカによって、シャウルは、ボコボコにされて――
「うるさい!」
「死ぬの!」
「ああッ! この美しい我が、このような責苦を味わう事になろうとは! ああッ! ああッ!! あああああああああああああああああああッ!!!」
――その嬌声が、グロモラージ平野に響き渡った。