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63「願い」

 ティーパたちのやり取りに全く興味を持っていない魔王が、「おねむまお」と、ティーパの頭上から近くの瓦礫の上へと移動し、スヤスヤと眠り始める中。


 ティーパから発せられた言葉に反応したのは――


「〝人格が消えちゃう〟って……それって、〝死ぬ〟のと同じって事なの! お兄ちゃんはそれで良いの?」


 ――意外にも、恋敵であるはずのリカだった。


「ティーにぃ、本気なのか? アンねぇが死んじゃうんだぞ!」


 マーサも、狼狽を隠せない。


「勿論、無理矢理そんな事をしたりはしない。あくまで、アンが了承したら、の話だ」


 ティーパの答えに、「そんなのOKする人間なんていないの!」と、リカが、どこか安堵したような明るい声を上げる。


 と、その時。

 黙っていたアンが、口を開いた。


「……ティーパ、一つ聞かせて。『パンツ(ミューチュアル・)相愛(パンツ・ラブ)』が発動したって事は、杏奈アンナちゃん程ではないにしろ、あんたの中に、あたしに対する想いもあるって事よね?」


 その問いに、ティーパは――


「ああ、ある」


 ――静かに頷いた。


「正直、お前に対して、『パンツ(ミューチュアル・)相愛(パンツ・ラブ)』の条件を満たせるだけの気持ちを、俺が持っているとは思っていなかった」

「でも、あるのよね?」

「ああ」


 その答えに、アンが微笑む。


「じゃあ……言葉にして……」

「言葉に?」

「うん。だって、そうじゃないと、分からないし……」


 黙って、上目遣いで待つアン。


 ティーパは、息を一つすると――

 ――アンの瞳を――

 ――真っ直ぐに見詰めた。


「好きだ」

「!」


(やっと……)

(やっと、聞けた……!)


 アンは小さく息を呑み、身体の奥から何かが込み上げて来るのを感じる。

 自然と、目が潤み――

 少しでも気を抜くと、感情が爆発してしまいそうになる。

 だが、それでも――

 必死に泣くのを堪えつつも――

 心が、身体が――

 〝それ〟を、もっと欲して――


「もう一回言って」

「好きだ」

「もう一度」

「好きだ」

「もう一回だけ」

「好きだ」


 何度もそう告げるティーパにゆっくり近付いたアンが――


 ――ティーパに抱き着いて――


 ――ティーパは、優しく抱き留めて――


「もう一回だけ」

「好きだ」

「もう一回だけ」

「好きだ」

「もう一回だけ」

「好きだ」


 ――いつもなら、「〝もう一回だけ〟と言っておきながら、何回言わせるんだ」と、中断されただろうが、そんな事はされず。


「あたしの事……大切に想ってる?」

「ああ」


 ――〝本当に?〟などとは聞かない。

 何故なら、ティーパがアンの事を大切に想っているのは、今まで共に過ごして来た時間が、証明しているから。


 ただ――

 

 ――〝自分よりも、もっと大切な存在〟がいた。

 ただ、それだけ――


 アンは、微かに震える声で――


「約束して。杏奈ちゃんの意識が覚醒した後も、ファイを、サンを、アクを――あの子たちの面倒を、ちゃんと見るって……」

「ああ、約束する」


 ――約束を取り付けると――


「じゃあ、良いわ」


 ――徐に、ティーパから身体を離して――


「この身体、杏奈ちゃんにあげる!」


 ――涙に濡れた瞳で――無理矢理笑った。


「感謝する」


 ティーパが感謝を伝えて――


「本気なの!?」

「本当に良いのか、アンねぇ!?」


 リカとマーサが、アンに詰め寄るが――


「良いのよ。異世界転生までしたアイツが、十六年掛けて目指して来た目標に、やっと辿り着いたのよ? 最悪の最期を迎えた実の兄妹が、少しでも幸せになるための手助けが出来るんなら、本望よ」

「アンねぇ……」


 ――アンの決意は固く、揺るがない。


「それに、アイツに〝好きだ〟って、言って貰えちゃったし。それも、何回も。恋の戦いは、あたしに軍配が上がったようね、リカ」

「………………」


 ――リカは顔を顰め、言葉を失う。


「さ、あたしは準備できてるわよ、ティーパ!」


 ――努めて明るく振る舞うアンの声に、ティーパが頷いた。


「分かった」


 ティーパは、シャウルに向かって近付いて行くと――


 ――彼女がその手に持つ〝聖魔石〟に手を伸ばして――


 ――光り輝くそれに触れると――


「………………」


 ――〝聖魔石〟が、一際眩い光を放ち――


「フッ。では、願いを告げるが良い」


 シャウルが促すと、ティーパは――


「………………」


 ――アンを一瞥して――

 

 ――願いを口にした。


「〝()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()〟。それが俺の願いだ」

「「「!」」」


 ――思わず瞠目するアン。


「……え? ……何で……?」


 ――掠れた声でそう問い掛けるアンに、ティーパが答える。


「俺はずっと、杏奈のために生きて来た。俺はアイツの事が好きなんだって。そう思って来た」


 ティーパの視線が――


「だけど、この世界で十六年生きて来て、気付いたんだ」


 ――アンに真っ直ぐに向けられて――


「アン。俺は、()()()()()()

「!!」


 ――滅多に感情を見せない彼の瞳から、明確な〝心〟が感じ取れて――


 ――アンの頬を涙が伝う。


「まぁ、本当は、〝経済的に、何不自由暮らせるように〟っていうのも、願いに入れたかったんだが、叶えられる願いは一つだけだから仕方ない。『これから一生、幸せに生きていけるように』って言ったんだから、それで〝裕福になる事〟もカバー出来るだろう」

「ティーパ……」


 胸が一杯になり、思わず駆け寄ろうとするアンだったが――


「フッ」

「――――ッ!?」


 ――それを、シャウルが、〝聖魔石〟を持っていない方――右手で制して、止める。

 全身から凄まじい重圧プレッシャーを放つシャウルに、思わず硬直するアン。


 シャウルが――


「フッ。ティーパよ、一つ言い忘れていた。本来ならば、数年間は休眠状態のままである〝聖魔石〟を、無理矢理〝再起動〟したがために、一つ弊害が出るのだ。それは――」


 ――ティーパに――


「〝()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()〟というものだ」

「「「!!!」」」


 ――そう言うと――


 ――それまでとは異なる、どす黒い光が〝聖魔石〟から溢れ出し――


「ぐっ」


 ――漆黒の光が、まるでロープのようにティーパの身体を拘束して――


「ティーパ!」

「お兄ちゃん!」

「ティーにぃ!」


 ――アン、リカ、そしてマーサが近付こうとするも――


「くっ!」

「何なの!?」

「ティーにぃ! ティーにぃ!」


 ――突如出現した黒く輝く魔法障壁によって、妨げられ――


 ――ティーパは、藻掻くも、ビクともしない漆黒の光に――


 ――抵抗を止めると――


 ――いつも通り――


 ――能面のようなその顔で――


「俺は、杏奈を生き返らせるために、お前を犠牲にしようとした。だから、ばちが当たったのかもな」

「……ティー……パ……?」


 ――アンを見詰めるティーパの背後で――


 ――〝聖魔石〟から迸る漆黒の光が――


「ごめんな」

「!」


 ――一瞬で、刃の形を取って――


「がはっ」

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 ――()()()()()()()()()()()

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