57「生き返らせたい人物」
夕陽が照らす中。
つい先刻まで神殿を構成していた物――地面に散乱する瓦礫に、思い思いに座ったティーパたち。
「で、何でそっちに行くのよ、まーちゃん!?」
悲し気に声を上げるアンが縋るような視線を向けるのは、ティーパの頭の上という定位置に戻った魔王だ。
「ソイツは、死にそうだったまーちゃんを見殺しにしようとしたのよ! あの時、まーちゃんを助けようとしたのは、この中であたしだけよ!」
必死に訴え掛けるアンに――
「こっちの方が慣れてるまお!」
――そう答えた魔王は、ぽつりと付け加えた。
「それに、お前からは、あの〝頭おかしい僧侶娘〟と同じ匂いがするまお……」
「うっ!」
――悍ましい物を見るような目付きをする魔王に、アンは、一瞬硬直する。
「あ、あたしがあんな事する訳ないじゃない! お願いだから、信じて、まーちゃん!」
「プイッ、まお!」
「ガーン!」
――そっぽを向かれて、ショックを受けるアン。
「プププ。好いザマなの! 下心って、隠しててもバレるものなの!」
「ティーパを襲うために、夜な夜な〝ベロチュー練習〟していたあんたにだけは言われたくないわ!」
「なっ!? リカはただ、お兄ちゃんを癒やすために特訓していただけなの!」
「あんなんで誰が癒やされるかああああああ!」
リカに全力で突っ込んだアンの声が、周囲に響く。
「どわはははははははは! アン姉たちは本当に面白いな! どわはははははははは!」
――それを見ていたマーサが、大口を開けて笑う。
ぜぇぜぇと息を切らしたアンは――
「………………」
――徐にティーパに視線を投げると――
「……そう言えば、あんた。さっきの……〝アレ〟って、……どういう事よ?」
――頬を紅潮させて、どこか聞き辛そうにしつつ、上目遣いで質問した。
ティーパは、「〝アレ〟……」と復唱しつつ、斜め上を見上げて、思考した後――
――はたと手を打った。
「『俺の本当の目的は、とある人物を生き返らせる事だ』と言った事だな」
「『パンツ相愛』の発動条件に関してよ! 確かに、そっちも気になるけど!」
見当外れの答えに声を荒らげるアンだったが、ティーパは相も変わらず、感情の読めない顔で――
「俺が生き返らせたい人物は――」
「あ、そっちから話すのね。別に良いけど」
――アンを真っ直ぐに見据えると――
「お前だ、アン」
「!?」
――そう告げた。