54「魔王覚醒」
「ま、まお……! それじゃあ……〝究極魔法剣〟を使われちゃうまお!」
顔面蒼白になった魔王は――
「イヤまおおおおおおおおおおおおお!」
――半狂乱になり、緑髪を振り乱して――
「死にたくないまおおおおおおおおおおおおお!」
――咆哮すると、高空に舞い上がり、天を仰ぐと――
「まお!? この力は……!」
――不意に、その全身から、どす黒いオーラが大量に溢れ出して来て――
「これなら……勝てるまお!」
――眼下のアンを見下ろすと、勝ちを確信した笑みを浮かべ、勝利宣言をする――
「まおーはっはっは~! 人間どもよ! 平伏すまお! 魔王は覚醒し、真の力に目覚め――」
「逃げたな、アイツ」
――が、それをティーパが遮った。
「に、逃げてないまお!」
「逃げただろ」
「逃げてないまお!」
「じゃあ、何で空に舞い上がったんだ?」
「そ、それは……」
「やっぱ逃げたんじゃないか」
「逃げてないまお!」
「いや、逃げた。お前は逃げた。魔王の癖に逃げた。敵前逃亡した。腰抜けだ」
「うぅ……ぐすっ……。……魔王は……に、逃げてない……まお……!……ぐすっ……」
涙ぐむ魔王。
「ほら、あんたが意地悪するから、まーちゃん泣いちゃったじゃない。ちゃんと話を聞いてあげましょ。まーちゃん、話を遮ってごめんね。さっき、何を言おうとしてたの?」
アンの言葉に、「な、泣いてないまお!」と、グシグシと涙を拭った魔王は――
「まおーはっはっは~! 聞いて驚くまお! 魔王は覚醒し、真の力に目覚めたまお! これなら、〝究極魔法剣〟でも止められないまお!」
――大口を開けて笑うと――
「そこのパンツ男が、魔王のパンツを二回も食べたからだまお! 〝封印されていた力〟が〝聖魔石〟により解放されただけじゃなくて、そこに〝『パンツ増幅』〟の力が上乗せされてたまお! お前のせいで、魔王は真の力に目覚めたまお! 人類が滅亡するのは、お前のせいまお! 自分の軽率な行いを、深く後悔しながら死ぬまお! まおーはっはっは~!」
――詠唱を始めた。
「混沌より生まれ――」
それを聞いたアンは「これは!」と、何かに気付き、リカとマーサも声を上げる。
「アレ、結構長い詠唱だったはずなの!」
「どわはははははははは! 詠唱を終える前に、攻撃すれば良い!」
詠唱ありの魔法の弱点を突こうとする――
――が。
「以下略、まお!」
「ズルいの!」
――途中で詠唱を破棄した。
――そして――
「『漆黒大炎焔』!」
――突如、周囲が闇に包まれて――
――暗黒の炎が、魔王が翳した左手から噴き出すと――
「並びに、『魔王ビーム』!」
「「「!」」」
――更にそこに、右手の二本の指から、漆黒の光線が放たれて――
――その二つが、空中で合体して――
「『漆黒大炎焔魔王ビーム』!」
「「「!!!」」」
――暗黒の炎を纏った漆黒光線となり、眼下のアンたちに向かって、飛んで行った。