52「起死回生」
「ちょっと! 何捕まってるの!? お兄ちゃんのお陰でリカの回復魔法も強化されたけど、生き返らせることは出来ないから、何とか自力で生き延びるの! でも、強くはなってるから、生首とかになっても、生きていれば回復は出来るの!」
「生首で生きてるって、どういう状態よ!?」
リカの叫び声に、捕らえられているアンが叫び返す。
「まおーはっはっは~! 心配しなくても、確実に殺してやるまお!」
(大きくなったまーちゃんも可愛いけど、殺されるのは勘弁よ!)
高笑いする魔王に――
「させない!」
『パンツ増幅』の恩恵を受けて、元々ずば抜けていた膂力が更に増幅されたマーサが、身に纏う闘気を膨張、一瞬で魔王の背後に回り込んで――
「たあああああああ!」
「ぐごぁッ!」
――その背中に、右拳による強烈な一撃を食らわせる。
バキバキバキ、という、骨が同時に何本も折れる音と共に吐血する魔王だったが――
「痛過ぎまお! じゃなくて、全然効かないまお!」
――ボロボロと涙を零すものの、それでも核には達することなく、直ぐに回復されてしまい――
「ふんぬっ! まお!」
「ぐっ!」
――アンを捕まえているのとは逆――左拳を魔王が猛スピードで振り回すと、咄嗟に両腕を交差させて防御するも、マーサは吹っ飛ばされてしまった。
「頭に来たまお! もう、殺すまお!」
顔を真っ赤にして怒った魔王が、アンを両手で握り直すと、力を込め始める。
「きゃあああああああああああああ!」
――全身が軋む中――
(このままじゃ、殺される! 助け――)
アンがティーパを見ると、その瞳は――
(――って、〝自分でどうにかしろ〟って、何よそれ!?)
(普通、こういう時は、「俺が助けてやる」って言うもんでしょ!)
――そう告げており――
(本当、いつも無茶振りばっかなんだから!)
(どう考えても無理な場面で、『誤魔化せ』って言ったりとか!)
――と、そこまで思考したアンは――
(……え? 今、あたし、何て……?)
(……『誤魔化せ』……?)
(……そうよ、もしかしたら、これなら……!)
――何かを思い付いた。
――全身が砕かれる寸前という、極限状態で――
――アンは、起死回生を狙い――叫んだ。
「あ! ディクセアが戻って来たわ!」
――すると――
「ヒイイイ! イヤまお! 化け物怖いまお!」
――一瞬で蒼褪め、怯えた表情を見せた魔王は、屈んで頭を抱えて、プルプルと震え出した。
アンは、魔王の手から逃れて――
「な~んてね、嘘よ! 簡単に引っ掛かるまーちゃんも可愛いわ!」
「……まお? 騙したまお!」
――着地したアンは、ふらつきながらも、何とか倒れずに持ち堪えて――
「まおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
――怒り狂った魔王が、再び捕らえようとして伸ばす手よりも早く――
(身体は……動くわ……!)
(それなら、するべきことは……一つだけ……!)
――素早くパンツを脱いだアンは――
「ティーパああああああああああああああああああああああああああ!」
――全力で投げて――
――肌が青紫色に変色し、呼吸もままならず、しかし、高速で飛んで来る〝最後の希望〟に反応したティーパは――
「良くやった」
――手でしっかりと受け止めると――
――流れるような動作で、瞬時に口の中に放り込んで、咀嚼して――
ごくん。
――飲み込んだ。
――次の瞬間――
「まお!?」
――アンを捕まえようとした魔王の手が、弾かれて――
――瞠目する魔王が目にしたのは――
「!」
――共に眩い光に包まれた、アンとティーパだった。