49「勇者vs魔王」
「フッ。パンツで先読みとはな。恐るべき異能力、と言った所か」
シャウルは、髪を優雅に掻き上げると――
「だが、それも相手が凡百の戦士だった場合だ! 我には通用せん!」
「いや、結構通用してたぞさっき」
――両腕を広げ大仰に告げて、ティーパに突っ込まれる。
「そんな事より」
シャウルは――
「魔法を封じられた今の我には、遠距離攻撃が出来ないと踏んでいるのだろうが――」
――両手で銀剣を握り締めると――
「はあああああああ!」
――咆哮と共に、身に纏った闘気を膨張させて――
「はああああああああああ!」
――それが、刀身へと集束して行き――
「行くぞ! はあああああああああああああ!」
「「「「!」」」」
――闘気を纏った斬撃を、連続で飛ばした。
「うわっ! 危ないわね!」
「きゃあ! なの!」
「どわはははははははは!」
「まお!」
慌てて避ける仲間たちと、ティーパ(魔王は、ティーパの頭上で焦っていただけだが)。
(折角行動を先読みしても、遠距離から波状攻撃されたら、意味が無い、か)
「御返しまお! 『魔王ビーム』!」
――魔王が、漆黒の光線を放つが――
「甘い! はあああああああああああああ!」
「まお!?」
――シャウルの光り輝く斬撃により、呆気無く迎撃されてしまった。
「フッ。どんどん行くぞ! はあああああああああああああ!」
シャウルが繰り出す斬撃の数が増えて行き――
「くっ!」
「きゃあっ!」
「ぐっ!」
――回避し切れずに、仲間たちの腕や脚が、少しずつ傷付けられて行く。
「『セイクリッドヒール』!」
リカが、自分を含めて、仲間の傷を回復させるが――
「どうした? 守ってばかりでは勝てんぞ」
――シャウルの猛攻に、ティーパたちは防戦一方となり――
「これじゃあ、攻撃出来ない! どわはははははははは!」
――マーサが必殺の殴打を食らわせようとするも、近付く事さえ出来ない。
と、その時、魔王が口を開いた。
「仕方ないまお! 魔王のパンツをもう一度食わせてやるまお! それで、魔王がパワーアップすれば、アイツにも勝てるまお! この魔王が、一肌脱いでやるまお!」
「脱ぐのは、肌じゃなくてパンツだがな」
「やかましいまお!」
魔王は、ティーパの頭をポカポカと叩きながら、「お前の言いたいことは分かるまお」と、先回りして言葉を継ぐ。
「先刻の赤髪化け物娘のように、パンツを二回食われると、身体に負担が掛かり過ぎるんじゃないか、という心配まお? 案ずることは無いまお! 魔王は魔王まお! それくらい、屁でも無いまお!」
シャウルの猛撃に対してひたすら回避行動を取り続けるティーパの頭の上で、仁王立ちして得意顔をする魔王に向かって、同じく必死に攻撃を避けながら、仲間たちが声を掛けて――
「確かに、それは良い考えなの! その結果死んでも、魔王なら別に問題ないの!」
「どわはははははははは! パンツ食われ過ぎて死ぬ魔王って、面白いな!」
「ああ! 調子に乗って二回もパンツ食べさせて死んじゃうまーちゃんも、素敵よ!」
「誰一人として心配してないまお! お前たちには、人の心が無いまお!?」
――ショックを受けた魔王は、涙目で喚き散らした。
「フッ。悪巧みか? 無駄な足掻きだ! はあああああああああああああ!」
――更に苛烈になって行くシャウルの攻撃を見て――
「一刻の猶予も無いな。じゃあ、脱がすぞ」
――ティーパがそう語り掛けると――
「まーちゃんの神聖なる裸を見ちゃ駄目よ!」
「無茶言うな。ていうか、〝魔王〟に、〝神聖〟て」
――斬撃の嵐を何とか避けながらも、横からアンが釘を刺し――
「ふっ」
――器用にも、頭上を一切見ずに、魔王が着用する漆黒の服を脱がして、短剣で素早くパンツを切って奪い、口の中に放り込んで咀嚼しつつ、魔王の服を元に戻したティーパは――
ごくん。
――パンツを飲み込んだ。
「『パンツ増幅』」
――すると――
「まおーはっはっは~! やはり、痛くも痒くもないまお!」
「鼻血出てるぞ」
――腰に手を当てて高らかに笑う魔王に対して、上から落ちて来た血から何が起きているかを察したティーパがすかさず突っ込む。
魔王は、その全身から、膨大な魔力を迸らせると――
「すごいまお! 力が湧き上がって来るまお!」
――不敵な笑みを浮かべて――
「勇者よ! 今ここで、四百年前の借りを返してやるまお! 八つ裂きにしてやるまお! 覚悟するまお!」
「フッ。面白い。受けて立とう」
――シャウルに対して、宣戦布告をした。
――直後。
「な~んてね、まお」
――空間転移魔法を発動した魔王が、シャウルの背後にある台座上空――左手に一瞬で移動、舌を出しながら、〝聖魔石〟に手を伸ばす。
――が。
「魔王相手に、この我が油断などすると思うか?」
「!」
――それを読んでいたらしく、俊敏に背後を振り返り、間合いを詰めたシャウルが――
「我の背後を取ろうなどと、四百年早いわ!」
――銀剣を一閃、真上から振り下ろした剣撃により――
「がぁっ!」
――魔王は左右に真っ二つにされて――
「今度こそ、仕留める! はあああああああああああああ!」
「ぐぁっ!」
――更に、真横に薙ぎ払われた魔王は、四個の肉塊になり――
「魔王、敗れたり!」
――シャウルが口角を上げた――
――次の瞬間――
「確か、『この我が油断などすると思うか?』だったまお?」
「!」
――シャウルの背後から、声が聞こえて――
「それは分身まお。残念だったまお。本体であるこの魔王には、ダメージは一切無いまごぶはっ!」
「いや、めっちゃ吐血してるけどな」
――分身と本体とが、ある程度感覚や機能が繋がっていたのか、大量に吐血する魔王に、ティーパが突っ込む。
「させるか!」
――シャウルが背後を振り返って、今度こそ本体である魔王を斬り殺そうとするが――
「甘いまお!」
「なっ!」
――切り刻まれた魔王の分身の肉塊それぞれの断面から触手が生えて、シャウルを背後から拘束して――
「こんなもの! 我には通じん!」
――ほんの数瞬で、シャウルは触手を切断し、解放されるが――
「それだけ時間があれば、十分まお!」
「!」
――その間に、魔王は〝聖魔石〟に触れてしまっており――
「〝聖魔石〟よ! 封印されていた魔王の力を、解放するまお!」
――魔王の叫び声が響き――〝聖魔石〟から膨大な光が溢れ出した。