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47「勇者シャウル」

「貴方が、勇者……? でも、勇者がいた時代は、四百年前のはずでしょ? 生きている訳がないわ!」


 アンによる尤もな指摘に、シャウルは仰々しく両腕を広げて、天を仰いだ。


「フッ。我の美しさは、時を超越するのだ」

「あ、そう言えば、アンデッドだったわね」

「フッ。そうとも言う」


 胸に手を当てて答えるシャウル。


 すると、リカがシャウルを銀杖でビシッと指した。


「でも、何で勇者がアンデッドになってるの? リカは騙されないの! あなたは、本当は勇者じゃないの! 宝を守るただのボスで、勇者を騙ってるだけなの!」


 得意顔で胸を張る彼女に、横からティーパが口を挟む。


「いや、アイツは勇者だ。このパンツの匂いからすると、間違いない」

「パンツ……なるほど、特殊能力持ち――つまり、貴様は異世界転生者、と言った所だな」


 勇者には特殊な力があるのか、洞察力が優れているだけなのかは分からないが、シャウルはティーパの素性を難無く看破した。


「どわはははははははは! 何で勇者が、アンデッドなんかやってるんだ?」

「フッ。良いだろう。四百年振りの邂逅だ。貴様らに教えてやろう」


 マーサの問いに、右手を差し伸べるような仕草で応じたシャウルは、左手を頭上に翳しながら、再び天を仰いで、語り始めた。


※―※―※


 四百年以上前。

 人類は、長年、魔王によって苦しめられていた。


 人智を超えた魔王の力と、数多の凶悪なモンスターたちにより、人間たちは、その数を減らしていった。

 

 このままでは、滅んでしまう。

 そう危惧するも、人間たちには、為す術も無く――


 と、そこに。

 勇者が現れた。


 勇者シャウルは、激闘の末、魔王を倒した。


 ――が、尋常ならざる力を持つ魔王を完全に打ち滅ぼす事は出来ず、その力を〝封印〟する事になった。


 ちなみに、この時シャウルは、〝黒魔石(モンスターを生み出していた元凶だったらしい)〟を破壊しようとしたが、自分の力を復活させるための一つ目の鍵であるためか、魔王が最後の力を振り絞って、魔王城からシャウルを締め出して、認識阻害魔法を掛けて、見る事も触れる事も出来なくしてしまったため、それは叶わなかった。


 仕方が無いので、シャウルは、代わりに、全世界にある全てのダンジョンを一つずつ回って、〝モンスターにだけ効果のある、不可視の魔法障壁〟を、入口に設置して行った(各ダンジョンと魔王城は地下で繋がっており、〝黒魔石〟によって生み出されたモンスターたちが、それぞれのダンジョンへと送り込まれ続けているようだ)。


 魔王が封印されたことが、世界各国に知れ渡り――

 これで、世界に平和が訪れる。

 誰もが、そう思っていた。


 ――だがしかし。

 現実はそう甘くは無かった。


 グロモラージ平野のど真ん中にある魔王城は、〝何でも願いを叶える〟という〝聖魔石〟がある、ダーグローツ大陸の最北端へ行く途中の、最大の障害だった。


 それが無くなった事で――

 ――人間の王たちの〝欲望〟が露わになった。


 それは、〝強大な軍事力を手に入れたい〟〝他国を侵略したい〟〝世界征服をしたい〟という、〝力〟への渇望だった。


 グロモラージ平野には、数多の上級モンスターに、最上級モンスターまでいる。


 しかし、大規模な軍隊を編制して、「誰か一人でも辿り着ければ良い」という考えで、人的損失を全く考慮しなければ、踏破は不可能では無かった。


 各国の王たちが、同じ考えに至った結果――

 ――〝聖魔石〟の取り合いになり――


 ――人類は大規模な戦争を起こし――


 ――()()()()()()()()


 シャウルは、考えた。

 どうすれば、愚かな為政者たちを、踏み止まらせる事が出来るか、と。


 そこで思い付いたのが、〝聖魔石〟がある神殿を、〝誰も入れない聖域〟とする事だった。


 シャウルは、どれだけ強力な軍隊であろうが、魔法使いであろうが、決して破れ

ない魔法障壁――〝光の壁〟を設置した(神殿前(南側)の平野を横断し、西から北、そして東へと至る海岸線に沿って聳え立つそれは、海からの侵入も阻み、更に上空にも展開されているため、空路での攻略も不可能)。


 その上で、シャウルは、再び思考した。


 「果たして、これで十分だろうか?」と。


 〝光の壁〟に対する、絶対的な自信はある。

 誰にも打ち破られないはずだ。


 ――が、念には念を入れるべきではないだろうか、と。


 そこまで思考したシャウルは、諸悪の根源を絶つことにした。

 即ち――〝聖魔石〟を破壊するのだ。


 だが、いざ〝聖魔石〟に攻撃しようとすると――


「ぐっ!」


 ――反撃を食らった。


 〝光の壁〟を発動して、かなりの魔力を消費したばかりであった事もあり、シャウルは、〝聖魔石〟が放つ、圧倒的な光の奔流により、()()()()()()()()()()()()()()――


(マズい! このままでは――!)


 シャウルは、咄嗟に――


「我の願いを叶えろ、〝聖魔石〟! 我を〝アンデッド〟にしろ! 我はもう、貴様を破壊しない。代わりに、我が貴様を守ってやる! 未来永劫な!」


 ――そう叫んだ。


 〝殺されないため〟に。

 そして、〝破壊〟が不可能であれば、せめて〝番人〟として、何人たりとも、〝聖魔石〟に近付けさせないようにするために。


 〝聖魔石〟は――

 ――シャウルの願いを聞き入れた。


※―※―※


 その後。

 シャウルは、四百年間ずっと、〝聖魔石〟を守り続けて来た。


※―※―※


「フッ。まぁ、我が設置した〝光の壁〟が強過ぎて、この四百年間、ここまで辿り着けた者は皆無だったのだがな」


 そこまで語った後、シャウルは優美に髪を掻き上げた。


「話は分かったわ。でも、あたしは、他の国の侵略なんてしないし、世界征服なんて興味ないわ。あたしはただ、妹たちと平和に暮らしたいだけ」

「どわはははははははは! そうだな、冒険者にはなれたし、僕も、父ちゃん母ちゃんと一緒に暮らせれば、それで良い! 後は、毎日筋トレして、父ちゃんみたいに強くなるだけだ!」

「リカは、お姉ちゃんに恩返しするの! そして、お兄ちゃんと二人で、大きな家で、仲睦まじくいつまでも幸せに暮らすの!」

「だから、あんただけ夢がおかしいのよ!」


 仲間たちが夢を語る中――

 残った一人に、シャウルの視線が移る。


「貴様はどうだ?」


 ティーパは、相変わらずの無表情で答えた。


「俺が〝聖魔石〟を得たい理由は、〝究極のハーレム〟を作るためだ」


 「何度聞いても、酷い理由よね」と、アンが溜息をつくが――


()()()

「!」


 ――先程までとは打って変わって、シャウルが鋭い眼光でティーパを刺す。

 思わず、アンが瞠目する。


「見縊るなよ、青二才。我は、人間時代に、腹に一物――どころか、二物三物あるような、世界各国の首脳や重鎮たちと何度も相見まみえた。眼前の人間が本当の事を言っているかどうかなど、一目見れば分かる」

「………………」


 無言のティーパに、「……ティーパ?」と、困惑するアン。


「本当の事を言わぬ限り、我はここを退かぬ」


 戦う前から分かる、明らかに〝強者〟特有の威圧感を身に纏うシャウルに、仕方が無いとばかりに、ティーパは――


「………………」

「…………?」


 ――アンを一瞥すると――


「……俺の本当の目的は、()()()()()()()()()()()()()()


 ――シャウルに視線を戻して、そう答えた。


「え? 誰? お爺ちゃんのこと? それとも、パパのこと?」


 自分たちが孤児院で世話になったリットス神父とザーファ神父の話を持ち出すアンだったが、ティーパからの反応は無く――


「その人物とは、誰だ?」

「………………」

だんまりか。まぁ、良い」


 シャウルは――


「フッ」


 ――表情を和らげると、流麗な動きで――


「今度の言葉は、嘘ではないようだが――人間とは、移ろいやすい生き物だ。手に入れた瞬間に、気が変わるやもしれん」


 ――腰の銀剣を引き抜くと――


「やはり、貴様らに〝聖魔石〟を渡す訳にはいかん。ここから立ち去れ。もし去るならば、危害は加えん。だが、それでも諦めぬと言うなら――我が剣の錆にしてくれよう」


 ――底冷えのする殺気を放った。


 離れていても肌にビリビリと感じる程の殺気と、重圧プレッシャー


 その場にいる誰もが、動けずにいると――


「動かないと言う事は、諦めないという事だな?」


 シャウルが――


「ならば、覚悟する事だ」


 ――その全身から放つ殺気と重圧プレッシャーを、更に膨張させた――

 

 ――直後――


「ところで、何だ、貴様がその頭の上に乗せている犬っころは?」

「犬じゃないまお! 魔王まお!」


 ――予想外のやり取りが為されて、思わずアンはズッコケた。


「酷いまお! お前、山の中で〝声だけ〟だった時も、魔王の事を〝子犬〟って言ったまお! 言って良い事と悪い事があるまお!」


 地団駄を踏む魔王に、「人の頭の上で足踏みするな」と、ティーパが苦情を言う。


「フッ。魔王だったか。無論、分かっていたとも」

「嘘ね」


 先程驚かされたことに対する意趣返しなのか、そう断言するアン。


「そうか、封印が解け掛けているのか。無理もない。もう四百年だからな」


 遠い目をしたシャウルが――


「だが、中途半端に封印が解けているのならば、むしろ好都合だ。今度こそ完全に殺してやる」


 ――そう呟くと――


 ――いつの間にかその身体は、闘気に覆われており――


 ――次の瞬間――


「ぐぁっ!」

「まずは一匹」

「「「!」」」


 ――一瞬でティーパの眼前に移動した彼女は――その頭上にいる魔王の身体を薙ぎ払い、一刀両断していた。

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