45「炎」
「いやあああああああああああああああああああああああ!!!」
――後ろに倒れる直前、ティーパは――
「まおっ!?」
――頭上に乗っかっている魔王の身体をむんずと掴むと、投げて遠ざけて――
――突き刺さったままの炎槍がその猛炎で襲い掛かり、地面に倒れたティーパは全身を燃やされて――
「あー! すっきりしましたわ!」
――興奮でもしていたのか、言葉とは裏腹に、ディクセアは鼻血を出しながら――
――飛行魔法で空に舞い上がると――
「すっきりしましたわああああああああああああああああああ!」
――歓喜の雄叫びを上げながら、南の方へと飛び去って行った。
「ティーパ! ティーパ!! ティーパ!!!」
炎に包まれるティーパに、目に涙を浮かべたアンが駆け寄ろうとするが――
「危ない! アン姉まで巻き込まれるぞ!」
「放して! ティーパが! ティーパが!!」
小柄なマーサがアンの腰に抱き着き、尋常では無い膂力で止める。
「リカ! 最上級回復魔法を! 早く!」
マーサの束縛から逃れようと藻掻きつつ、アンが叫ぶ。
「残念だけど……これじゃあ、もう、回復魔法を掛けても、手遅れなの……」
恐ろしい勢いで燃え続けるティーパを見て、辛そうに首を横に振るリカに――
「良いから掛けるのよ! 早く!」
――悲痛な声でそう繰り返すアンに、リカが折れる。
「わ、分かったの!」
――が。
「ちょっと待つまお」
ふよふよと飛んで戻って来た魔王が、横から口を挟んだ。
「……いつまで燃えてるまお?」
「「「!」」」
あの〝岩で出来たゴーレム〟でさえ、燃やし尽して屠ったディクセアの炎が、たかが人間であるティーパを、これだけ時間を掛けても焼き尽くす事が出来ず、未だにティーパは、骨になる事も無く、黒焦げになる事も無く、人間の形を保ち続けている。
それどころか、何故か、服すらも燃えておらず――
「そんなのどうでも良いから! 早く!! 回復魔法を!!!」
――何度目か分からない、アンの絶叫に――
――改めてリカが、銀杖を掲げた――
――次の瞬間――
「ファイの炎よりも熱いな。流石ディクセアだ」
「お、お化けまおおおおおおおおおおおおおおお!」
――むくりと立ち上がったティーパに、魔王が悲鳴を上げる。
「だから、〝魔〟の〝王〟の台詞としてどうなんだそれ?」
未だに炎に包まれたままの姿で、平然と喋るティーパに――
「お兄ちゃん!」
「ティー兄!」
――リカとマーサが明るい声を上げるが――
「へ? え? は?」
――アンはただ呆然として、立ち尽くす。
その眼前で、ティーパは――
「あちちちち。よっと」
「「「「!」」」」
――自身の腹部に突き刺さっていた炎槍を、無造作に抜くと――
「ふん」
――転生前にテレビで見た槍投げの映像を思い出して、身体を仰け反らせた上で、全力で投擲――
――炎槍は、遠くの地面に突き刺さると――周囲の地面を火炎で黒焦げにして――
――消滅した。
「あ、あんた……何で平気なの?」
愕然としながら問い掛けるアンに、炎が消え、腹部に槍傷――穴も無く、多少火傷しただけのティーパは、仁王立ちしながら答える。
「俺は、自分がパンツを食った女の攻撃では、絶対に死なないからな」
「「「「!」」」」
「まぁ、正確には、〝傷も負うし、痛みもあるが、致命傷には絶対にならない〟って感じだな。あと、服が燃えてないのは、身体のついでに服も守られているんだろう」
孤児院を出る前、ファイの炎魔法を食らった際に軽い火傷で済んだのは、それが理由だったらしい。
「さすがお兄ちゃんなの!」
「どわはははははははは! ティー兄、面白い!」
リカとマーサが笑顔を見せて――
「ディクセアの中で、俺は死んだ。これでもう、俺に構う事は無いだろう。我ながら、惚れ惚れする作戦だ」
――ティーパが自画自賛する中――
――俯いていたアンは、バッと顔を上げると――
「だったら、最初からそう言っておきなさいよね! バカ!!」
「ぶぼはっ」
――〝パンツを食べられていない〟がために、致命傷をも与え得るその拳で、ティーパを殴り飛ばしたのだった。




