44「籠絡」
流石にかなりの魔力を消費したのか、全身を覆っていた猛炎が消え、虚空に静止しつつ、肩で息をするディクセアに――
「ディクセア」
空を見上げたティーパが、語り掛けた。
「俺たちの背後にあった光の壁は、今まで、誰にも破壊出来なかった代物だ。何せ、人々を恐怖のどん底に落とし、震え上がらせた彼の魔王を封印した、史上最強の〝勇者〟が設置した魔法障壁だ。数百年もの間、数々の猛者たちが、この魔法障壁に挑み、散って行った。誰一人として、突破出来た者はいなかった」
いつになく真剣な声色に、ディクセアは、静かに聞き入る。
その様子を確認しつつ、ティーパは、更に言葉を紡ぐ。
「そんな、最強防御を誇る光の壁を、初めて破壊したんだ」
ディクセアは以前、突如才能が開花してしまったせいで、『無限に溢れ出す自分自身の力を持て余してしまい、どれだけモンスターを狩っても癒やせない』と言っていた。
ティーパの狙いは、恐らく、人類史上初の偉業を称える事で、達成感を味わわせて、鬱憤を晴らさせる事なのだろう。
「………………」
ディクセアは、無言で地上に舞い降りると――
「誰が行ったか。それは、他の誰でもない、お前だ、ディクセア」
――ティーパへと近付いて行き――
「お前は、歴史上、誰にも成し遂げられなかった偉業を成し遂げた」
――眼前で立ち止まると――
「ウェーダン王国第一王女、ディクセア」
――ティーパの言葉に――
「お前が、史上最強だ」
――憑き物が落ちたような表情を浮かべて――
(あの化けも――やんちゃな王女さまを籠絡するなんて、すごいじゃない! これが狙いだったのね!)
――アンが内心で賞賛する中――
――晴れやかな顔をしたディクセアは――
「俺は、お前を誇りに思うよ」
――そう語り掛けるティーパの――
「がはっ」
「「「「!?」」」」
――腹部を、炎槍で貫いた――