41「ディクセア」
被っていたパンツを脱いで、とうとう観念した――
――かに思われたティーパだが――
「俺は何も悪い事はしていない。ただパンツを被るだけで罪になるのか?」
「いや、あの子のパンツ無理矢理脱がして食べたでしょ、あんた」
両手を広げて開き直るティーパに、半眼のアンが横から冷たく指摘する。
「問答無用、ですわああああああああああああ!」
ディクセアが吼えると、上空から炎槍・氷槍・雷槍が猛スピードで投げつけられ――
――着弾までの僅かな時間で、敏捷性が高いティーパが――
「来るぞ」
「きゃっ!」
「まお!?」
――プレートアーマー姿のアンを左腕に抱き抱え、頭上の魔王の首根っこを右手で掴んで、左側へと倒れるようにして、回避し――
「どわはははははははは!」
「どうせなら、お兄ちゃんに助けられたかったの!」
――同じく素早さで勝るマーサが、その幼女の見た目に反する恐ろしい膂力で、リカを抱えて跳躍して、避けると――
――炎槍・氷槍・雷槍は、ティーパたちの背後にある、巨大な光壁にぶつかって――
――次の瞬間、炎が膨れ上がり、氷漬けになり、雷撃が襲って――
――最初の衝撃と魔法効果により――
「「「「!」」」」
――光壁に罅が入った。
『魔王ビーム』でも、闘気を纏ったマーサの殴打でもビクともしなかった光壁に。
――だが、直ぐに――
「自己修復機能か……」
――光壁は自らを修復して、傷は跡形も無く消えてしまった。
「………………」
何事かを思考しつつ、ティーパは走り出して――
「俺はここだ。逆恨み王女」
「だから、性犯罪犯してるでしょって!」
――アンたちから距離を取って、狙いを自分の方に誘導しつつ――
「さぁ、おパンツ男! 私の渇きを癒やして下さいましいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
――瞳孔が完全に開きっ放しになっているディクセアの両手から、炎槍・氷槍・雷槍の連撃が繰り出されて――
「あたしたちに攻撃が当たらないようにって……格好つけちゃって……あのバカ……」
アンが切なそうな表情で呟く中――
「何で魔王だけ一緒まお!?」
――魔王だけは、その首根っこを未だにティーパに掴まれ、プランプランと運ばれており――
「どうせ死ぬなら、道連れだ」
「酷いまお! 外道まお!」
声を嗄らして魔王が抗議した――
――直後――
「死ぬのですわああああああああああああああああ!」
――ティーパの進行方向に炎槍、回避を予想して逆方向に氷槍、更に、現在位置に雷槍が同時に飛ばされて――
(ヤバいな。こうなったら――)
――ティーパは、猛スピードで飛んで来る雷槍に向けて――
「『魔王シールド』」
「まお!?」
――ガシッと両手で掴んだ魔王を、掲げて――
「酷いまお! イヤまお!! イヤまお!!!」
――ブンブンと泣きながら首を振って、魔王は――
「イヤまおおおおおおおお! 『魔王ビーーーーーーーム』!!!」
――二本の指から漆黒の光線を放つと――
「やったまお!」
――雷槍を迎撃する事に成功した。
「良くやった」
「『良くやった』じゃないまお! 危うく死ぬ所だったまお!」
――が。
「きいいいいい! 小賢しいですわあああああああああああああああああああ!」
「!」
――初めて攻撃を防がれたディクセアは、怒髪天を衝き――
――その魔力は無尽蔵なのだろうか、先刻モンスターたちを全滅させた〝回転攻撃〟で、幾多の魔法槍を――
「さっさと死ぬのですわああああああああああああああああ!」
――全方位に向けて放って――
「怖いの! お兄ちゃん助けて欲しいの! そして、リカを優しく抱き締めて欲しいの!」
「どわはははははははは! ピンチだ!」
「あ……あれはもう、人間じゃないまお! ば、化け物まお!」
「〝魔〟の〝王〟の台詞として、どうなんだそれは?」
「涙目のまーちゃん、そそるわ!」
――辺り一帯を、炎で焼き尽くし、かと思えば、氷漬けにし、更に雷撃で黒焦げにしていき、ティーパたちは、皆、逃げ惑った(時折、マーサが荒野に転がっている岩を投げ、魔王が魔王ビームを放つが、どちらも迎撃されてしまい、効果が無い)。
「あんなの食らったら、一溜まりも無いわ!」
ディクセアの操る炎槍・氷槍・雷槍の恐ろしい点は、それ自体のスピードと貫通力も然る事ながら、最も危険なのは、着弾直後に、炎・氷・雷で追撃される事だ。
槍自体の攻撃に対して、辛うじて致命傷を避けられたとしても、一瞬の時間差で襲い掛かる魔法効果によって、全身が焼かれ、氷漬けにされ、黒焦げにされ、絶命するのだ。
「あれじゃあ、リカの回復魔法が間に合わないの!」
荒野を埋め尽くす程のモンスターの死体に目を向けて、リカが悲痛な声を上げる。
「攻撃力が高過ぎるのよ! 何か、弱体化させるような方法があれば良いのに……」
祈りにも似たアンの呟きに、ティーパは――
「いや、逆だ」
「え?」
「アイツを更に強化する」
「!?」
――そう告げた。