40「一騎当千」
「『顔パンツ』」
――即座にパンツを被って、顔を隠すティーパ。
ディクセアが、空中で静止すると――
「「「「「ガアアアアアアアアアアア!」」」」」
モンスターたちは、突如現れた彼女の事を、〝敵〟であると認識したらしく――
「「「「「ガアアアアアアアアアアア!」」」」」
――空を見上げて、威嚇しており――
「ガアアアアアアアアアアア!」
一匹のオーガが、右腕に力を込めると、筋肉が膨張し――
「ガアアアアアアアアアアア!」
――その手に持つ長剣を、仰け反って反動をつけて――
「ガアアアアアアアアアアア!!!」
――投げた。
投擲された長剣は、ディクセアに向かって、猛スピードで飛んで行き――
「ああ! 危ない! でも、ここで死んでくれたら、これからは毎晩、安心してぐっすり眠れるかもしれないわ!」
「本音がダダ洩れだぞおい」
――ティーパたちが見守る中――
――風を切って飛翔する長剣が――
――ディクセアの心臓に突き刺さる――
――直前に――
「どこですのおおおおおおおおおお!? おパンツ男おおおおおおおおおお!」
――ディクセアは――
「ガァ!?」
――人差し指と中指で、刀身を挟んで止めて――
――柄の部分が下から上に跳ね上がる形で、刃の向きを、くるりと百八十度回転させると――
「どこですのおおおおおおおおおお!? おパンツ男おおおおおおおおおお!」
――先刻自分に対して攻撃を仕掛けたオーガに向かって、高速で投げ返した。
――余りにも速いそれは、オーガが回避行動を取る前に――
「ギャアアアアアアアアアアア!」
――心の臓を貫いて――倒した。
「「「「「ガアアアアアアアアアアア!」」」」」
――怒り狂うモンスターの群れに対して、ディクセアは――
「どこですのおおおおおおおおおお!? おパンツ男おおおおおおおおおお!」
――両手に炎槍と氷槍を出現させて、眼下に向けて猛スピードで投擲、二匹のモンスターの胴体を貫通すると、岩で出来ているはずのゴーレムが――
「「ギャアアアアアアアアアアア!」」
――炎で燃やし尽くされて絶命し、ゴブリンキングを氷漬けにして屠った。
「「「「「ガアアアアアアアアアアア!」」」」」
怒号を上げながら、剣や棍棒、岩などを投げ、または炎を吐く、無数のモンスターたちに対して――
「どこですのおおおおおおおおおお!? おパンツ男おおおおおおおおおお!」
――炎槍と氷槍、そして雷槍を次々とその手に生み出すディクセアは、回転しながら下に向けて攻撃を放って――
「「「ギャアアアアアアアアアアア!」」」
――モンスターたちが投擲する剣・棍棒・岩・炎を破壊しながら、炎槍・氷槍・雷槍が、確実に攻撃主たちを倒して行き――
「どこですのおおおおおおおおおお!? おパンツ男おおおおおおおおおお!」
「「「「ギャアアアアアアアアアアア!」」」」
――虚空で迎撃と攻撃を同時に続けるディクセアの回転が、一秒ごとに速まって行くと同時に、放たれる炎槍・氷槍・雷槍の数も、指数関数的に増加していき――
「どこですのおおおおおおおおおお!? おパンツ男おおおおおおおおおお!」
「「「「「ギャアアアアアアアアアアア!」」」」」
――空中戦を挑もうとするダークエルフたちも、近付く事さえ出来ずに殺されて――
――遂に――
「どこですのおおおおおおおおおお!? おパンツ男おおおおおおおおおお!」
「「「「「「「「「「ギャアアアアアアアアアアア!」」」」」」」」」」
――荒野を埋め尽くす勢いだった、幾多のモンスターたちを――
「嘘……よね……?」
――全滅させてしまった。
「凄過ぎて、恐怖しかないんだけど……」
「すごいの! 何かもう、人間やめちゃってるの!」
「どわはははははははは! 強いな! きっとたくさん筋トレしているんだろうな!」
「ふ、ふん。なかなかやるまお!」
呆然と立ち尽くす仲間たち。
「どこですのおおおおおおおおおお!? おパンツ男おおおおおおおおおお!」
回転を止めた、上空の〝暴力の権化〟を、パンツ越しに見据えたティーパは――
「身体強化魔法に、炎・氷・雷の最上級魔法の鬼コンボか。絶望的な戦闘力だが、いつものように騙せば問題ない」
そう呟くと、傍にいるアンの方を向いた。
「誤魔化せ」
「またやるのね……」
溜息をつきながらも、了承するアン。
意を決した彼女は、空を見上げると――
「どこですのおおおおおおおおおお!? おパンツ男おおおおおおおおおお!」
「あ、あっちに走って行ったわああああああああああ!!!」
――ディクセアが先刻やって来た南の方向を、指し示した。
――が。
「もう騙されませんわ! おパンツ男は、貴方ですわ!」
――ビシッと指差されたティーパは、驚愕に目を見開き――
「……何……だと……?」
「分からいでか」
――思わず、アンが突っ込んだ。