39「壁」
魔王城が爆発したが――
「あー、ビックリしたの!」
――ティーパたちは、全員無事だった。
どうやら、〝魔王〟の城であるため、彼女なら、爆風に指向性を持たせる等、コントロールが可能らしい(それも、魔力をある程度取り戻していなければ出来なかったであろうが)。
「さすがまーちゃん! すごいわ!」
「えっへんまお!」
ティーパの頭上にて、得意顔で薄い胸を張る魔王。
「その調子で、残りのモンスターどもも倒せ。いや、むしろ、ある程度力を取り戻した今なら、言うことを聞かせられるのか?」
「そんなの、今の魔王なら、どっちも楽勝まお! でも、さっき言うこと聞かずに襲われて怖かったから、お仕置きとして、皆殺しにするまお!」
仁王立ちで殺戮を宣言する魔王。
――だったが――
「! ……ふにゃあ……まお……?」
――突如、ティーパの頭の上に倒れ込むと――
「……魔力の使い過ぎで……暫く動けないまお……」
「珍しく役に立ったと思ったら、またか、おい」
――自ら戦力外通告をした。
先刻の爆風によって、魔王城があった場所の周辺にいたモンスターたちは全て吹き飛ばされて絶命しているが、遠くにいた者たちは元気満々で、四方八方からこちらに向かって走って来るのが見える。
「お前が攻撃しなきゃ、みんな死ぬ。戦え」
「……鬼畜まお……!」
「ああ! まーちゃんの涙、尊いわ!」
容赦ないティーパの言い草に、思わず涙を浮かべる魔王。
「……しょうがないから、頑張るまお……! ……その代わり、食い物が欲しいまお!」
「まーちゃん、それなら、干し肉が――」と、食糧を革袋から取り出そうとするアンを、「いや、待て」と、ティーパが手で制する。
「魔王。確認だが、食べれば食べた分だけ、魔力が回復して、魔法を使えるのか?」
「……そうまお……」
「なるほど。だが、そんな事のために貴重な食糧を分け与える事は出来ん。代わりに、これを食え」
そう言ってティーパが差し出したのは――パンツだった。
「……そんなもん食えないまお……! ……魔王は、犬畜生じゃないまお……! ……っていうか、犬畜生でも、そんなもんは食わな――うぐっ!?」
「良いから食え」
頭上でプンプンと憤慨する魔王の口に、下からティーパが強引にパンツを捻じ込む。
苦しさに顔を歪めながらも、何とか飲み込んだ魔王は――
「あ。何か、魔力が回復したまお!」
「何でよ!?」
――魔力回復に成功した。
ティーパの頭の上で、立ち上がった魔王は――
「『魔王ビーム』!」
――至近距離まで近付いて来ていた、ゴーレム、魔氷熊、オーガ、ゴブリンキング、トロール、サイクロプス、そしてキマイラを、二本の指から放つ漆黒の光線で薙ぎ払い――
「『魔王ビーム』!」
――高空から攻撃を仕掛けようとしていたダークエルフの身体を漆黒光線で貫いて、屠った。
「……ふにゃあ……パンツ寄越せまお」
「あいよ」
パンツを補給しつつ、魔王がビームで道を切り開いて――
「走れ。このまま、グロモラージ平野の最奥――〝聖魔石〟がある所まで行くぞ」
「分かったわ!」
「了解なの!」
魔王を頭に乗せたティーパが先頭、次にリカ、殿はマーサを抱えたアン、という順番で、荒野を突っ切って行った。
※―※―※
暫くそのまま走り続けると――
「あれかしら?」
「ああ、そのようだ」
――グロモラージ平野の終わり――ダーグローツ大陸の最北端に、神殿が見えた。
青い海を背にする、白亜の神殿――
――神殿の最奥にある祭壇では、何かが眩く光り輝いている。恐らくあれが〝聖魔石〟であろう。
それを目にした魔王は――
「まおーはっはっは~!」
――飛行魔法で、ティーパの頭から飛び立つと――
「馬鹿な人間どもまお!」
――一人で先に進み、口の端を吊り上げて――
「〝何でも願いを叶える聖魔石〟は、この魔王の物まお! 忌々しい勇者に掛けられた封印を解いて、完全復活して、今度こそ、世界を恐怖のどん底に陥れてやるまお! まおーはっはっは~!」
「まーちゃん!? そ、そんな! でも、仲間を裏切るまーちゃんも素敵よ!」
「頭沸いてんのか?」
――高笑いと共に、飛翔して――
「まおーはっはっは~! まおーはっはっは~! まおーはっはっぶべほッ!」
――何かにぶつかり、地面に落ちた。
「痛いまお……もう、何まお?」
――魔王が、鼻血を出しながら、よろよろと立ち上がると、眼前に――
「ゲッ。これは、まさか――」
――トレウォリア山脈の中間地点で見た、巨大な光の壁があった。
ただし、前回と違い、今回は〝物理的な壁〟だ。
「ぐぬぬ! また勇者が立ちはだかるまお!」
顔を真っ赤にして、怒りを露わにした魔王は――
「この魔王を、以前と同じだと思ったら大間違いまお! 魔王の力、とくと味わうまお! 『魔王ビーム』!」
――必殺の漆黒光線を放った。
――が。
「何でまお!? ビクともしないまお!」
――傷一つ付けることは出来なかった。
と、そこに――
「どわはははははははは!」
――アンに抱き抱えられていたマーサが、休息を取った事で復活した。
地面に降り立った彼女は、闘気を纏うと、一気に膨張させて――
「僕に任せて! たああああああああああああ!」
――腰を低くして、引いた右拳を、全力で光の壁にぶつけた。
――だが――
「そんな!?」
――やはり、光の壁を破壊する事は出来なかった。
そうこうする内に――
「「「「「ガアアアアアアアアアアア!」」」」」
――モンスターの大軍が、押し寄せて来て――
マーサと魔王の活躍でかなり倒したにも拘らず、まだ圧倒的な数を誇る、その光景に――
「お、お前たち! 主であるこの魔王に対して振り上げる拳など、持っていないまお? それ以上近付くんじゃな――」
「「「「「ガアアアアアアアアアアア!」」」」」
――恐れ戦いた魔王が、説得しようとするが、相変わらず効果は無く――
「ヤバいの!」
「ティーパ、どうする?」
「………………」
――ティーパが――
――黙って思考していると――
――そこに――
――南から――
「どこですのおおおおおおおおおお!? おパンツ男おおおおおおおおおお!」
「「「「!」」」」
――赤ドレスに身を包んだ、赤髪巨乳美少女――ディクセアが、凄まじいスピードで飛翔して来た。




