35「勇者の遺した自動防衛装置」
その後。
「まずは、一応、マーサの冒険者登録をして……うっ……」
冒険者ギルドへと向かおうとしたティーパが、突如、ふらついて膝をついた。
「コラッ! 馬が勝手に座り込むんじゃないまお!」
その名の通り血も涙もない言葉を言い放つのは、ティーパの頭に座っている魔王だ。
「ちょっと! 大丈夫!?」
「お兄ちゃん! 死んじゃ嫌なの! 『セイクリッドヒール』!」
「ちょっとふらついただけで、バンバン最上級回復魔法使うんじゃないわよ! 魔力が勿体無い!」
「どわはははははははは! ティー兄! ピンチの時は、筋トレで乗り切ろう! さぁ、僕と一緒に、レッツマッスル! どわはははははははは!」
「筋トレで体調不良が治る訳ないでしょうが! って、道の真ん中で腹筋やらない! この筋肉バカ!」
仲間たちがワイワイ騒いでいる中――
「大丈夫だ。問題ない」
「本当?」
「ああ」
――ティーパは立ち上がった。
(何だったんだ、さっきのは? まぁ、良いか)
「馬が復活したまお! 行くまお! 今度勝手に座り込んだら、殺すまお!」
「本当、可愛いわ、まーちゃん!」
「いや、今のやり取りで、可愛い要素あったか? 結構酷い事言われてるんだが……」
〝恋〟は盲目と言うが、〝可愛い〟も盲目なのかもしれない。
魔王の一挙手一投足に目をキラキラと輝かせるアンに、ティーパは溜息をついた。
※―※―※
中央通り沿いにある冒険者ギルドに行って、マーサの冒険者登録をした一行。
いつの間にか、ティーパ、アン、リカの冒険者カードの表示は、Eランクになっていた(一種の魔導具であり、実績に応じて、自動的に表示が変わるようだ)。
が、取得したばかりのマーサは、勿論Gランクだ。
「どわはははははははは! これから一気にランクを上げてやる! 目指すは、マッスルMランク!」
「そんなの無いわよ! って、だから、公共の施設で筋トレしない!」
※―※―※
冒険者ギルドを後にしたティーパたちは――
――数時間後――
「ずっと同じような景色ばっかで、詰まんないまお! 〝山〟と言うなら、噴火くらいしてみろまお!」
「その場合、俺ら全滅だけどな。勿論、お前も」
「ああ、まーちゃん! 可愛くて堪んないわ!」
「お兄ちゃん! 実は、材料を買って、サンドイッチを作っておいたの! リカの愛情、召し上がれなの!」
「……お前、召喚魔法も使えたんだな……〝暗黒物質〟の……」
「魔王! 筋トレして力がつけば、〝見える景色〟は変わって来るぞ! ほら、レッツマッスル! どわはははははははは!」
――街の背後に聳え立つ、トレウォリア山脈踏破に挑んでいた。
何故なら、魔王が、「でっかい荒野のど真ん中にあるまお!」と、魔王城が、グロモラージ平野の中央にあると告げたからだ。
モンスターたちがうじゃうじゃいる荒野のど真ん中に、魔王城はある。
ただし、認識阻害魔法が掛けられていて、城の主たる魔王以外には、不可視且つ、触る事も出来ないらしい。
北方にあるグロモラージ平野へと向かうため、まずはトレウォリア山脈を抜ける必要があった。
手早く干し肉と飲み水を入手した一行は、ゴツゴツとした岩で構成される山道に入り、歩いて行った。
※―※―※
暫く、歩き続けた後――
『モンスターよ、即刻立ち去りなさい』
「うわっ! ビックリしたまお!」
丁度山脈の中間に差し掛かろうという地点で、突如、巨大な光の壁が現れると同時に、若い女性の声が聞こえた。
(キンティスで聞いた魔法による録音音声に似ている……が……)
「って、この声、勇者まお! 出て来いまお! 今度こそ、コテンパンに倒してやるまお!」
――どうやら、音声の主は、勇者らしい。
しかも――
『その要望には応えられません。私は、勇者の声を基にして作られた自動音声です』
――こちらの声に反応して、受け答えをしてみせた。
キンティスで聞いた音声よりも、数段ハイレベルの芸当だ。
「何意味分からん事言ってるまお! さっさと出て来いまお!」
「アホな所も可愛いわ!」
「いや、それは完全に馬鹿にしてるだろ」
ティーパが、「勇者はここにはいない。っていうか、もうとっくに死んでる。勇者の〝声〟だけが、ここにあるんだ。特殊な魔法でな」と、魔王にも分かるように説明すると、魔王は、「ふふん! アイツめ、この魔王に怖気付いたまお!」と、分かったのか分かってないのかよく分からない反応をした。
勝手に〝敵前逃亡した〟と決め付けて、ティーパの頭上で得意顔をしていた魔王だったが――
『モンスターよ、即刻立ち去りなさい。さもなければ、最上級雷魔法で殺します』
「!?」
――不穏な音声を聞いて、顔が真っ青になる。
「い、今……殺すって言ったまお……?」
『はい』
「さ、最上級雷魔法まお……?」
『はい』
「い、痛いまお……?」
『すごく痛いです』
「今日だけ、ちょっと優しくしたりしないまお……?」
『しません』
恐怖で全身がプルプルと震える、頭上の魔王を――
「行くか」
「ちょっ! 待つまお!」
――下から、ガッと両手で掴んだティーパが、光の壁に向かってスタスタと歩き始めた。
「待つまお! イヤまお!」
「お前、北の方から来たんじゃないのか? もしそうなら、一度通っているはずだが」
「死に掛けてた時だったから、よく覚えてないまお……って、あの時は蜥蜴だったまお! でも、今は魔王の姿に戻ってるまお!」
「まぁ、どっちにしろ、大丈夫だ。今回は、〝人間の国がある領域〟に〝入る〟んじゃなくて、逆にそこから〝出る〟方だから」
「本当まお?」
「ああ。………………多分」
「それ、ダメな奴まお! イヤまお! 死んじゃうまお!」
「お兄ちゃん、回復は任せて! でも、生き返らせるのは無理だから、死なないでね!」
「分かった」
「〝分かった〟じゃないまお! 魔王は何も了承してないまお!」
ポカポカとティーパの腕を殴って抵抗する魔王だが、その見た目通り、幼女の力しか無く、彼の歩みは止められない。
『モ~ンスター~~~。ウェ~ルカ~~~ム』
「さっきと言ってることが違うまお! この音声、殺る気満々まお!」
そして――
「イヤまおおおおおおおおおお!」
――遂に――
「やめてまおおおおおおおおお!!」
――光の壁に――
「許してまおおおおおおおおお!!!」
――到達すると――
『どかーん!』
「ぎゃああああああああああああああ!!!」
――魔王は――
「……って、まお? 何とも無いまお……」
――音声によって――
『〝子犬〟を一匹、検知しました。問題ありません。お通り下さい』
――〝子犬〟として、認識されたらしく――
「魔王は、〝魔〟の〝王〟まお! 〝子犬〟じゃないまおおおおおおおお!! うわああああああああああああああああああああああああん!!!」
――極度の恐怖から解放された事もあってか、暫く泣き喚き続けた。




