33「魔王の最強魔法」
「この魔王が復活したからには、人類を業火で焼き尽くして、滅ぼしてやるまお! まおーはっはっは~!」
翼があるにも拘らず、一切羽撃く事無く空中に静止、仁王立ちしながら邪悪な高笑いを響かせる、魔王を自称する幼女を――
「きゃああああ! 可愛いいいいいいいいい!」
「むぎゅっ!?」
――アンが勢い良く抱き締めた。
「ぶ、無礼まお! その手を離すまお! 誰に対する狼藉か分かっているまお!? この世の全てを混沌に陥れる魔王に対して、そのような蛮行は断じて許されな――」
「可愛い可愛い可愛いいいいいいいいいいいい!」
「あうっ!」
逃れようと必死に藻掻くも、力一杯抱き締めるアンのプレートアーマーに押し付けられて、魔王が小さく悲鳴を上げる。
毎日一緒だった妹たちと離れ離れになり、特に、目に入れても痛くない程に可愛がっていたアクと久しく会っておらず、同じ青髪にも拘らず全く可愛げのないリカにうんざりしていたアンの、〝可愛い幼女を愛でたい〟欲求が、ここで爆発した(同じく幼女の見た目をしているマーサは、確かに可愛いが、アンの好みのタイプではないらしい。加えて、同じ幼女の容姿と言っても、アクに比べると、マーサの方が大分年上に見える。その点、魔王の容姿はアクよりも更に幼い)。
「おい、苦しんでるぞ」
ティーパの指摘でハッとしたアンは、興奮の余り力一杯抱擁していた事に気付き、血液中酸素濃度低下により蒼褪めながらパンパンとアンの腕をタップしている魔王から手を離した。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……復活して早々、死ぬかと思ったまお……」
やはり虚空に浮遊しつつ、肩で息をする魔王。
「ごめんなさい。大丈夫?」
申し訳なさそうに謝るアンに、魔王は――
「もう、怒ったまお! まずは手始めに、お前から殺してやるまお!」
「!」
――ビシッと指差すと、アンに対して両手を翳した。
と同時に、魔王の身体から、どす黒いオーラが膨れ上がって行く。
「何だか、ヤバそうなの!」
「ティー兄! 止めなきゃ!」
マーサの言葉に、ティーパは首を横に振る。
「いや、危ないから近付くな」
(ふざけた見た目だが、パンツを食べた時の、あの感じ……)
(魔王っていうのは、本当みたいだ。だとしたら、迂闊に手を出さない方が賢明だ)
「本当にごめんなさい。だから、怒らないで。許して」
「今更謝ったって遅いまお! そうだ! 魔王の最強魔法で、この辺り一帯にいる人間全員、ついでに焼き殺してやるまお! お前のせいまお! 罪悪感に苛まれながら死ぬと良いまお! まおーはっはっは~!」
魔王が――
「混沌より生まれ混沌に帰る漆黒の焔よ、今こそその暴虐を存分に揮え」
――詠唱を行うと――
「魔王の名に於いて命ずる、全てを焼き尽くし灰にせよ!」
――膨張した漆黒のオーラが――
――プロサガーデの街全体を覆い尽くして――
(これは……流石にヤバいかもしれない……)
――ティーパが、覚悟を決める中――
「『漆黒大炎焔』!」
――魔王が叫ぶと――
――その両手から――
ポンッ。
「…………………………まお?」
――蝋燭の火程度の大きさの黒炎が、生まれた。




