27「襲来」
時は少し遡って。
様子を見るために、家の外に出たティーパ、アン、そしてリカは――
――日が落ちて、すっかり暗くなった皇都が――
「モンスターだ!」
「「!?」」
――襲撃されるのを目撃していた。
「モンスターですって!? 何でこんな所にいるのよ!」
基本的に、ダンジョンの中にしか棲息しないはずのモンスター。
街中での目撃情報など、アンは聞いた事が無かった。
(可能性としては、例の〝大陸北部の地域――グロモラージ平野から南下して来た〟と言った所か。だとしても、前代未聞だが)
思考するティーパは、しかし、それよりも優先すべきことへと目を向けた。
街の至る所から炎が上がっており、人々の悲鳴が聞こえる。
一見すると、モンスターの大軍が攻めて来たかのように見える。
――が、恐らくそうではない。
一つ目の理由は、〝モンスターの襲来を告げる声〟は聞こえるものの、街路にはその姿が全く見えない事。
二つ目は、逃げ惑う人々が、空を見上げている事。
三つ目は、冒険者または冒険者ギルドの関係者だろうか、「空からだ! ガーゴイルが、全部で五匹……いや、六匹だ!」という、叫び声が聞こえた事。
六匹。
普通に考えれば、皇都を攻め落とすには、余りにも少ない数だ。
だが、相手が上級モンスターであるガーゴイルならば、話は違って来る。
上級モンスターは、低級・中級モンスターとは訳が違う。
一匹いるだけで、街にとって十分な脅威となり得るのだ。
更に、魔王城の守りを固めるために配置される事で有名なガーゴイルは、攻撃特化型と防御特化型がおり、その組み合わせで戦った場合の戦闘力は、最上級モンスターにも匹敵すると言われている。
ただし、今回襲撃して来たガーゴイルたちは、その全てが攻撃特化型だった。
それは、〝比較的討伐しやすい〟事を意味していたが、しかしながら、もう一つ、負の側面もあって――
「とにかく、早く知らせなきゃ!」
「そうなの! 一飯の恩、決して忘れないの!」
珍しく頭の良さそうな事を言うリカと共に、アンが玄関のドアに手を掛けるが――
「待て」
――その手をティーパが掴んで引っ張り――
「ちょっと! こんな時に何考えてんの!? 強引なのがモテると思ってたら、大違いよ! ……って、二人同時って、何考えてんのよ、この歩く性欲!」
「お兄ちゃん! とうとうリカの魅力に気付いたの! リカは大歓迎なの!」
――リカの手も掴んで、力尽くで玄関――どころか、家自体から引き離すと――
「……え?」
――ふと、アンの視界に入った、空に浮かぶ黒い影から――
「「!」」
――巨大な岩が生み出されて――
――マーサの家へと飛来し――
「逃げてえええええええええええええええ!!!」
――アンの絶叫が街中に響いた。
※―※―※
そして、現在。
「父ちゃん! 父ちゃん!!」
喉を震わせながら立ち上がったマーサが、家――のあった場所にある、家と同程度の大きさの岩に向かって、駆け寄ろうとするが――
「……いや、と、父ちゃんは大丈夫だ! 大丈夫なんだ……! だから、まずは母ちゃんだ!」
――必死に、自分に言い聞かせるように言うと、振り返った。
そこには――
「母ちゃん!」
――頭から血を流して倒れている、スーティがおり――
「母ちゃん! 母ちゃん!!」
マーサが駆け寄って母親を抱き起こすも、反応は無く、呼吸もしておらず――
「そんな! 目を覚まして! 母ちゃん!! 母ちゃん!!!」
――縋るように呼び掛け続けていると――
「『セイクリッドヒール』!」
――力強い声が――
「母ちゃん! 呼吸が!!」
――マーサの絶望を切り裂いた。
「これでもう大丈夫なの! 完璧に治ったの! 後は、気を失っているだけだから、安静にしていれば、その内目を覚ますの!」
いつの間にか傍らに立ち、銀杖を翳して、最上級回復魔法でスーティの身体を光で包み、怪我を治療したリカを見上げたマーサは――
「母ちゃん、ここで待ってて!」
――母親をゆっくりと地面に寝かせると――
「父ちゃん!」
――岩へと向かった。
「父ちゃん! 父ちゃん!!」
余りにも巨大な岩は、そこにあった全てを圧し潰したように見えたが――
――不意に――
「……ドワハ……ハ……ハ……! ……儂なら……ここじゃ……!」
「!」
――岩の下から、ワードフの声が聞こえた。