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26「ドワーフの血を引く父娘」

 その後。

 マーサと共に、皇都リギトミへと戻って来たティーパたちは、彼女を家に送り届けた。

 

 夕日に照らされた街中を歩き、住宅街にある立派な一軒家へと辿り着くと――


「母ちゃん、ただいま!」

「お帰り~、マーサ~。あらあら~、お友達~?」


 ――玄関から出て来たのは、穏やかな笑顔が印象的な、金髪の中年女性だった。


「違う! 僕が一人で戦ってたら、邪魔して来た奴らだ!」

「生意気なの! せっかく助けてやったのに!」

「何言ってんのよ? 助けたのはあんたじゃないでしょ?」

「もぐもぐ」


 ティーパ一行を見た、マーサの母親は、頭を下げると――


「皆さん~、娘を助けて頂き~、ありがとうございます~」

「違うって! コイツらは、邪魔して来ただけだって!」

「マーサ~。じゃあ~、あなただけだったら~、そのモンスターを~、倒せたのかしら~?」

「うっ。……そりゃ、まだあの時は、倒せてなかったけど……」

「それじゃあ~、助けて貰ったって事に~なるわよね~?」

「………………」


 ――穏やかな物言いだが、娘に対して、きちんと礼儀を説いた。


「皆さん~、良かったら~、少し早いけど~、夕飯を~、一緒に食べて行って~」

「やったー! リカ、食べるの!」

「食い意地張ってるわね! ……良いんですか?」

「良いのよ~、みんなで~、ワイワイ食べたら~、美味しいわよ~」

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

「もぐもぐ」


 ――という事で、ティーパたちは、夕食を頂く事にした。


※―※―※


「テーブルに座って~、ちょっと待っててね~」


 リビングに通された一同は、マーサの母親――どうやら、スーティと言うらしい――の料理を待つべく、テーブルについた。


 ――と、そこに――


「ドワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! 儂が帰ったぞい!」

「父ちゃん!」


 大地が震えるような大声が響いた。

 即座に反応したマーサが、跳びはねるようにして玄関に向かって走り、男性に抱き着く。


「お帰り~、あなた~。早かったのね~」

「ああ、思ったよりも簡単に片付いてのう!」

「まぁ~、そうだったのね~。じゃあ~、まずは~、ご飯にします~? お風呂にします~? それとも~……ビ・イ・ル~?」

「ビールじゃ! ドワハハハハハハハハハハ!」


 姿を現した男性は、かなり小柄――女性の平均身長のスーティよりも頭一つ分背が低い――だが、異常な程に全身の筋肉が盛り上がっていた。


 ボサボサの銀髪に、立派な髭を貯えた彼は、スーティから簡単に経緯を聞くと――


「おう、坊主、嬢ちゃん、うちのが世話になったみたいじゃな! せめてもの礼だ! 今夜は腹一杯食って行ってくれ! スーティの飯は上手いぞ!」

「あらあら~、じゃあ~、頑張らなきゃ~」


 豪快を絵に描いたような彼――名はワードフと言うようだ――は、スーティから手渡された木製のジョッキを手にして、天に掲げると――


「今宵は宴じゃ! 飲めや歌えや! ドワハハハハハハハハハハ!」

「どわはははははははははは!」


 ――ジュースが入ったグラスを手に持ったマーサが、天井に向かって掲げながら真似した。


※―※―※


「お待たせ~。はい~、召し上がれ~」

「「いただきます!」」

「いただくの!」

「いただきます」

「いただくとしようかのう!」


 スーティが作ってくれた料理は――


「美味しい!」

「美味なの!」

「美味い」

「そうじゃろそうじゃろ、ドワハハハハハハハハハハ!」

「どわはははははははははは!」

「あらあら~、それは良かったわ~」


 ――店を出せるのではないかと思える程に美味しかった。


 どうやら父娘がドワーフの血を引いているらしく(ワードフの祖父がドワーフ)、その影響だろうか、茸サラダ、茸スープ、茸のソテー、などなど、茸尽くしの料理だったが、その全てが、味付け、煮込み時間、焼き加減などの調理方法から、盛り付けの美しさまで完璧で、一同は舌鼓を打った。


※―※―※


「俺がパンツを食えば、食われた女性は、才能が開花して、めちゃくちゃ強くなります」

「中々珍妙な能力じゃな! ドワハハハハハハハハハハ!」

「あらあら~、面白い力ね~」


 そんなやり取りをしつつ、食事を堪能しながら聞いた話によると、ワードフは〝怪力自慢〟且つ凄腕のソロ冒険者――武闘家――で、毎日高ランクダンジョンに入っては、高難度のクエストをこなして、妻と一人娘を養っているらしい。


 エルフ程ではないが、人間よりは遥かに長命なドワーフの末裔である彼は、見た目以上に年齢を重ねており、一人娘の事は目に入れても痛くない程に溺愛している。

 ――が、〝冒険者になりたい〟という娘の意思は尊重しており、〝Gランクダンジョン限定〟ではあるが、一人でダンジョンに挑む事も許可している、との事だった。


「そのためには、筋肉じゃ! 比類なきパワーで殴れば、大抵のモンスターは倒せるからのう!」

「分かった、父ちゃん! たあああああああ!」


 戦闘モードに入ったという事だろうか、不意に黒い籠手を手に装着し、床に手をつき、腕立て伏せを始めるマーサ。

 今はまだスライムにすら勝てないが、その瞳に宿る炎は、必ず父のような立派な冒険者になるのだと、強い意思を感じさせた。


 ――と、その時。


「何だか外が騒がしいのう」

「あらあら~、何かしら~?」


 家の外から、人々の叫び声が聞こえた。


「どれ、儂が様子を見に行って――」

「あたしが見に行きます!」


 食事の礼のつもりだろうか、そう申し出たアンだったが――

 ――嫌な予感がしたティーパは――


「俺も行く」

「お兄ちゃんが行くなら、リカも行くの!」


 ――そう告げると、リカもそこに加わり――


「念のために、杖も持って行け」

「ん? 分かったの!」


 ――いつもながら鎧・剣共に完全装備のアンを見習ってか、ティーパが促すと、リカは銀杖を手にした。


「そうか、では頼んだぞい、若人たちよ! ドワハハハハハハハハハハ!」

「はい、任せて下さい!」


 ただ外の様子を見に行くだけだが、そうやり取りをして、外に出る三人。


 家に残ったマーサは、ワードフとスーティから、三人の事を語り掛けられた。


「気の良い子たちじゃな」

「本当~、そうよね~」

「別に、アイツら、戦闘の邪魔して来ただけだし!」


 そう言って、マーサが視線を逸らした。


 ――直後――


「逃げてえええええええええええええええ!!!」

「「「!」」」


 ――外から、アンの悲痛な叫び声が聞こえて――


 ――躊躇なくテーブルの上に飛び乗ったワードフは、屈みつつ、妻と娘の腕を掴んで――


「ぬんっ!」

「うわっ」

「きゃあ~」


 ――力強く投げると、二人は窓を突き破って、外へと吹っ飛び――


「ぐぁっ!」


 ――地面を二度三度と転がったマーサが、上体を起こして――


「いった~! 父ちゃん、何で急に――」


 ――目にしたのは――


「!?」


 ――空から落下して来た〝()()()()〟によって――


「ああああああああああああああああああああああああああ!」


 ――()()()()()()()だった――

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