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24「デホティッド皇国皇都リギトミ」

 デホティッド皇国は砂漠地帯にある、という事はアンも知っていた。

 だが、これ程暑いとは思わなかったのだ。


「み、水ううううううううう!」


 アンは、頻繁に水分を補給した。

 出発前に、トスマルが、「王都クローズからダギッシュ帝国へと向かった時の、三倍は水を用意しとけよ!」と言った意味が、よく分かる。

 水を用意してあるかどうかは、この苛酷な環境の中では、文字通り、死活問題だった。


「アクがいれば、幾らでも水を出して貰えるし、癒やされるのに……」


 末妹でありながらファイ、サンと遜色ない魔法の力に目覚め、尚且つ可愛くて堪らないアクの事を恋しく思うアン。


 と、その時――


「ガチガチに鎧着てる人は、暑くて大変そうなの! あ~、可哀想! プププ」

「同じ青髪でも、こうも違うものなのね……」


 自分も全身を覆う〝ローブ〟を着用しているため、決して涼しくは無く、事実先程から絶え間なく汗を掻いているリカが、痩せ我慢しつつ口の端を歪め、挑発的な態度を取る。


 そんな二人を他所に、通常運転のティーパは、もぐもぐとパンツを咀嚼していた。


※―※―※


 数時間後。


「ガハハハハ! お前ら! 見えたぜ!」


 トスマルの大きな笑い声に反応した一同が見たのは――


「すごい!」

「緑なの!」

「もぐもぐ」


 ――砂漠の中に突如現れた、巨大な街――デホティッド皇国皇都リギトミだった。


※―※―※


 皇都リギトミの城門に辿り着いたティーパたち。

 ウェーダン王国王都クローズやダギッシュ帝国帝都キンティスに比べると、城壁はそれ程高くなく、代わりに、巨大な植物が群生しており、その緑を悠々と主張している。

 

 トスマルが衛兵二人とやり取りをした後、ティーパとアンは冒険者カードを見せて、冒険の旅をしている途中であると告げた(リカだけはまだ冒険者登録をしていないので、名前だけを告げた。入国・出国共に、それ程厳しく調査はされないようだ)。


 キンティスと違い、荷物諸共身体を洗浄される等という事も無く、一行はすんなりと街の中に入った。

 城壁の中は、皇都中央にある巨大な湖と、街中に多数生えている植物のお陰で、城壁外に比べて、かなり涼しい。所謂、〝クールアイランド現象〟というものだ。


「ありがとうございます」

「ありがとうございました!」

「おじさん、ありがとうなの!」

「ガハハハハ! 良いって事よ! またな!」


 トスマルと別れた後。


「どうなの? 冒険者になれる才能を持った、めぼしい子はいそう?」


 アンの問いに、ティーパは、珍しく言葉を濁した。


「いる……と思う」

「〝思う〟って、何よ。あんたにしちゃ、曖昧ね」

「……強そうなパンツの匂いは、確かにする……んだが、何故か、上手く辿れない。距離が遠いのか、匂いが弱くて、場所が特定出来ない」

「ふ~ん。まぁ、良いわ。あんたの変態的な嗅覚なら、その内分かるでしょ」


 ティーパならば見付け出すだろうと、アンは心から信じているようだ。


 そんな二人に――


「お兄ちゃんたちだけズルいの! リカも、さっきのカード欲しいの!」


 という事で、ティーパたちは、早速冒険者ギルドに行き、リカの冒険者登録(Gランク冒険者)を行った。


「これでリカも一人前の冒険者なの! さぁ、早く、モンスターと戦うの!」

「僧侶の癖に、やたら好戦的ね、あんた……」


 得意顔で銀杖を振り翳すリカに、呆れて溜息をつくアン。


「だが、クエストに挑戦するのは、確かに良い考えだ。ペット探しよりも、報酬が良いからな」

「そうね、ペット探しは、大変な割に謝礼が安いものね!」


 帝都キンティスにて、毎日ペット探しに勤しみ、コツを掴んだことで、プロ並みの腕前を手に入れていたアンだが、流石にもうこれ以上行おうとは思えないらしい。


 その後。

 安宿を見付けたティーパたちは、そこを拠点としつつ、冒険者ギルドに掲示されているクエストの内、手頃なものを選んで、挑戦することにした。


※―※―※


 A、B、Cと言った冒険者のランクと同じく、ダンジョンにも、ランクがある。

 一番攻略しやすいのは、Gランクダンジョンだ。


 が、アンは、ある程度剣の腕に自信があり、ティーパも素早さと身のこなしには長けており、何と言っても、最上級回復魔法を使えるリカがいるため、GランクとFランクは飛ばして、Eランクダンジョンに行ってみる事にした。


 こんな砂漠地帯に、ダンジョンなどあるのかと思ったが――


「本当にあったわ!」


 ――冒険者ギルドの受付で聞いた通り、地図に記されている場所に、それはあった。


 皇都リギトミから、真北に徒歩で一時間ほどにある、巨大な岩の影。

 周囲からは分かり辛いが、よく見ると、入口の階段がある。

 そこを下って行くと、中は、山や森にあるものとあまり変わらない、ダンジョンだった。


 乾燥しているからか、他のダンジョンに比べると、饐えた匂いが殆どしない迷宮は、松明が灯されており――


「はあああああああ!」

「ギャアアアアアア!」


 アンの鉄剣が一閃、棍棒を持ったゴブリンが、左右に一刀両断されて――


「ギイイイイイイイ!」

「ふっ」

「ギャアアアアアア!」


 ――跳躍し、上段に構えた剣で斬り掛かって来たゴブリンの一撃を素早く躱したティーパが、振り返ったゴブリンの喉元に鋼製の短剣ダガーを突き刺して、殺した。


 ティーパが、冒険者ギルドにて報奨金を貰うために、指定された討伐の証拠――〝ゴブリンの両耳〟を短剣ダガーで斬り落とし、用意しておいた革袋に入れていると――


「ああ、もう、詰まんないの! リカも活躍したいの! 二人とも、早く、致命傷を受けるの!」

「あんたの欲求を満たすためだけに、わざと攻撃食らって死に掛けてらんないわよっ!」


 ――地団駄を踏むリカに、アンが勢い良く突っ込んだ。


※―※―※


 そのようにして、三人は、危なげなく、適正レベルのクエストをこなす日々を過ごしていった。


 その間も、ティーパは――


「………………」


 ――皇都リギトミからダンジョンに向かう度に、何やら思案していた。


※―※―※


 そして、数日後の夜――


「クエストのレベルを――ダンジョンのランクを変えよう」

 

 突如、宿にて、ティーパが提案した。


「ひゃっほおおおお! なの! これで、強いモンスターが出て来て、二人が重傷を負って、リカが大活躍出来るの!」

「魔法を使いたいがために、仲間を死に掛けさせようとしないの! 敵か味方か分かったもんじゃないわね、あんた!」


 相変わらずのやり取りをした後、アンは、ティーパの方に向き直った。


「でも、あたしも賛成よ。そろそろ、Eランクダンジョンにも慣れて来たし。Dランクダンジョンにする? それとも、一気にCランクダンジョンに行っちゃう?」

「Aランクに決まってるの!」

「いきなりそんな無茶出来る訳ないでしょ! あんたは黙ってなさい!」


 すると、ティーパは、徐に答えた。


G()()()()()()()()()だ」

「………………え?」

「………………は?」


※―※―※


 そして、その翌日。


 南東方向へ徒歩で三十分程行った場所にある、これまた巨大な岩の影に隠された階段を下りていった先――Gランクダンジョンにて――


 ――ティーパたちが目撃したのは――


 ぷよん。ぷよん。ぷよん。ぷよん。

「どわはははははははははははははは!」


 ――特徴的な笑い声を発しながら、多数のスライムたちと戯れる、銀髪・褐色の美幼女だった。

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