19「姉妹」
「ちょっとここで待ってなさい!」
アンが六毛猫を抱えつつ、砂埃を上げながら、帝都の通りを爆走する。
行方不明のペット捜索の依頼主に猫を届け、依頼主が持っていた書類にサインをして貰い、冒険者ギルドに持って行き、謝礼金を受け取り、その全てを数分で済ませたアンが、全速力で戻って来ると――
「待ってなさいって、言ったでしょおおおおおおおおおお!」
――ティーパに腕を絡ませたリカは、帰宅する為に、商業区域から住宅区域へと一緒に移動している最中だった。
ぜぇぜぇと肩で息をするアンは、ティーパとリカの間に強引に身体を割り込ませると――
「離れなさい!」
「あっ。もう!」
――二人の肩を左右に押して、引き剥がした。
※―※―※
リカの家に戻って来ると、彼女が寝ていた部屋に――
「ん~! ん~ん~! ん~ん~ん~!」
――幾多のパンツの端と端を結び合わせて、一本の紐にした『パンツロープ』によって、後ろ手に縛られ、御丁寧に足首も縛られて床に転がされているケミーがおり――
「女の子を縛って、パンツを口に突っ込んで床に転がすって、どんだけ鬼畜なのよッ!?」
「ぶぼはっ」
――口内に詰め込まれている物を目にして、アンがティーパに怒りの鉄拳を見舞った。
アンが、「ごめんね」と言いながら、ケミーの身体の自由を奪っていた『パンツロープ』を外す。
ケミーが、口の中のパンツを素早く取り出して――
――床に落ちていた二本の包丁を拾うと――
「殺す!」
――ティーパを睨み付け、明確な殺意と共に立ち上がった――
――直後――
「お姉ちゃん!」
「!」
――駆け寄って来たリカが、勢い良く抱き着いて来て――
――瞬時に包丁を床に落としつつ、全く躊躇せずにリカを抱き留めたケミーは――
「リカ……今、走って……? って、まさか!? あんた……!」
「うん……治ったの……! ……病気……!」
「!!!」
少し顔を離して、じっと見詰めるリカの瞳から、血ではなく涙が流れるのを見たケミーは――
「本当なんだね! 良かった!! 本当に良かったよおおおおおおおお!!!」
「……うん……!! ありがとう、お姉ちゃん!!!」
――最愛の妹を、強く、強く抱き締めて――
――生家を追われ、社会から隔離され、そのまま誰にも知られず死ぬ運命にあった姉妹は――
――抱き合ったまま、暫く泣き続けた。