1「パンツイーター覚醒の代償」
「それにしても、あんたって、いっつもパンツ食べてるわよね。そんなに好きなの? 飽きない?」
「一日に三枚のパンツを食べないと死ぬからな。〝下着喰らい〟覚醒の代償だ」
「……は? え? 本当に? パンツ食べないと死んじゃうの? 嘘でしょ?」
「常に食べ続けていれば、うっかり食べ忘れて死ぬ事は無いから大丈夫だ」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
「ちなみに、〝直前まで穿かれていたパンツ〟なら、一枚で一日持つ」
「何で〝脱ぎたてパンツ〟に付加価値つけてんのよ、女神!」
そんな会話を交わしながら、ティーパとアンは歩みを進めて行った。
※―※―※
暫くして。
王都に着いた二人は、北城門を通り、石造りの建物が立ち並ぶ王都内を、中央通りに出るまで南下していく。
中央通りにそのまま繋がる東城門に比べると、北城門は遥かに人の出入りが少なく、そこに至るまでの道も、あまり人は通らない。
「聖魔石を探すに当たって、まずは何をするの?」
桃色の長髪を揺らしながら隣を歩くアンが訊ねると、ティーパは、胸元から取り出したパンツを食べつつ、無表情で答えた。
「まずは、冒険者ギルドで冒険者登録をする」
「そうね。確かに、冒険者として活動するなら、登録をしないと、話にならないわよね!」
うんうんと頷いたアンは、「って、え? もしかして、登録料とか要る!? どうしよう、そんなにお金無いわよ!」と、焦って立ち止まり、持っていた革袋を開けた。
――と同時に、何かを思い出して、手を止めるアン。
「あ。そう言えば、〝そんなに〟どころか、〝全然〟無いかも。夕べ、ファイに財布渡したから。どうしよう……」
いきなり危機に陥ってしまったと嘆くアンだったが、ティーパは、「心配ない」と告げる。
「冒険者登録をするのに、金は要らない」
「なら良かったわ! あ、でも、金欠には変わりないのよね……」
俯くアンは、革袋の中に、何かを見付けた。
「……え? 何で……?」
それは、財布として使っている革袋だった。
開けてみると、中には――
「! 銀貨!」
――レスドたちを捕らえて、衛兵たちに引き渡した際に貰った銀貨が入っていた。
今までコツコツと集めて来た銅貨数十枚は入っていないが、銀貨一枚の方が、価値は上だ(銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨があり、それぞれ、ティーパが転生前にいた現代日本で言う所の、十円、百円、千円、一万円、十万円、百万円の価値がある。ただし、この世界は物価が安いので、野菜や果物は銅貨数枚で買えるし、安宿ならば、銀貨一枚あれば、二人で数日間泊まれる(ただし、食事は無しで、素泊まり))。
銀貨を手に、アンは、ポツリと呟いた。
「大金だから、〝大切に使おう〟って、話してたのに……何で……?」
「〝大切に使った結果〟が、これなんだろう」
「!」
ティーパの指摘に、思わずアンは目を見張る。
銀貨を目にした直後は、孤児院に戻って、妹たちに返して来ようかとも一瞬思ったが、それが無粋な事だと分かった。
今までに貯めて来た銅貨数十枚は、ここには入っていない。
つまりそれは、『私たちは銅貨数十枚で何とかやっていけるから、その銀貨は、姉さんたちの旅の路銀にして』という事だろう。
「もう……あの子たちったら……ありがとう……」
銀貨を包んだ両手を胸に、アンは湧き上がって来る温かい想いを、囁くように言葉にした。
※―※―※
東西に貫く中央通りに辿り着いたティーパたちが、冒険者ギルドがあるという東方向へ向かって歩き始めた(ちなみに、西側の最奥には、王城がある)。
――直後――
「やっと見付けたわ、パンツ男!」
「!」
――ティーパの右腕を、目を血走らせた一人の少女が強く掴んだ。
更に、唖然とするアンの眼前で――
「「「「「見付けた! パンツ男!」」」」」
「!!」
――一瞬にしてティーパは、やたらと目が充血した少女たちの集団によって、取り囲まれた。