18「お兄ちゃん」
その後。
「あなたは、付き合っている人はいるの?」
落ち着いたリカは、立ち上がると、ティーパに聞いた。
「いないぞ」
「それなら、リカが彼女になってあげるの!」
「いや、それは困る」
「そりゃそうなの! こんな可愛い女の子から告白されたら、二つ返事でOKするに決まって――え? 今、何て言ったの?」
胸に手を当てて気持ち良く話していたリカだったが、ティーパが予想外の言葉を言い放っていた事に時間差で気が付き、質問する。
「それは困ると言ったんだ」
「はああああ!? 何でなの!? 付き合っている人はいないって言ったの!」
「それでも、それは困る」
「もしかして、好きな人がいるの?」
「………………」
口を噤むティーパ。
沈黙は、答えがどちらなのかを雄弁に物語っていた。
「キー! 誰なの、その泥棒猫は!? この町にいるの!?」
まだ付き合ってもいないのに、半狂乱になって髪を振り乱し、泥棒猫呼ばわりするリカ。
――と、そこへ。
「やっと見付けた、ムーちゃん! もう、本っ当に、あちこち探し回ったんだからね!」
――桃色長髪を揺らしながら現れたアンが、「にゃあ」と鳴き声を上げる黒・茶・白・赤・青・緑の六毛猫を抱き上げて――
「って、あら? こんな所で、何やってんのよ、あんた? ……って、そちらは……もしかして、リカちゃん……?」
――通りのど真ん中に佇むティーパたちに気付き、声を掛けると――
「ねぇ、あなたが好きな人って、この人なの!?」
「なっ!?」
――指を差して来るリカに、「何の話をしてんのよ!? あたしとソイツは、そんな関係じゃないわよ!」と、アンが頬を紅潮させる。
「そうだな、確かに違う」
「そうやってすんなり否定されるのも、何かムカつくわね!」
「じゃあ、どうしろと」
同じく否定するティーパに、アンは理不尽な怒りをぶつける。
「ふ~ん。違うの」
どこか安堵したような声色で、リカはティーパの方に向き直ると――
「本当は彼女が良いけど……取り敢えずは、これで我慢してあげるの!」
――ティーパに近付いて――
「お兄ちゃん!」
「!?」
――腕を組んだ。
ともすれば腕の力が抜けて放してしまいそうになる六毛猫を抱き直しつつ、慌ててアンが、詰め寄ると――
「な、何してんのよ、あんた!?」
「何って、兄妹のスキンシップなの!」
「あんたは妹でも何でもないでしょ!」
「ついさっき、妹になったの!」
「そんな滅茶苦茶な話が、あって堪るかあああああ!」
――絶叫が、帝都キンティスに響いた。




