15「胸に刺さった言葉」
(……大事な所……見られたの……!)
(……恥ずかしいの……! ……もう……お嫁に……行けないの……!)
気が動転して家の外に飛び出したリカは、小屋を囲う塀の隙間も通って――
――数年振りに、家の敷地外――街路を踏み締めた。
「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
――フラフラと、徒歩とそれ程変わらない速さで、走って行くリカ。
気付くと――
「……あっ……」
――住宅街を抜けて、商店街が立ち並ぶ区域に到達してしまっていた。
住宅街では殆ど出会わなかった町の住人が、ここには大勢いて――
「ヒッ! 見て、アレ!」
「血だらけ! 目から血が出てるし!」
「怖っ! キモッ!」
「!」
――道行く人々が、足を止め、リカの姿に眉を顰めて――
――思わず身体が硬直し、その場に棒立ちになるリカに――
「アレ、例の伝染病に罹った子じゃないか?」
「まだ生きてたんだ」
「何でまだ死んでないの? 生きてたら、私たちにうつっちゃうじゃない!」
「!!」
――心無い言葉が――
「あの血塗れ女は、致死性の伝染病患者だ! うつるぞ! 逃げろ!」
「うわああああああああ!」
「きゃああああああああ!」
「くそっ! 死ぬなら、一人で死ねよ!」
「街中に出て来んな! 〝化け物〟」
「!!!」
――容赦なく浴びせられる。
――逃げ惑う人々――
――遠ざかって行く悲鳴――
――次々と胸に突き刺さった言葉によって、溢れ出て来るのは――
――血なのか、涙なのか、もうそれすらも分からない――
――ただ、胸中に去来する想いは――
「……あははっ……。……何が……『もう……お嫁に……行けない』……なの……」
「……お嫁どころか……リカは……生きてちゃ……ダメ……だったの……」
「……生きてる……だけで……みんなの……迷惑に……なってるの……」
――どこまでも痛烈な自己否定で――
「……みんな……生きてて……ごめんなさい……なの……」
――逃げ惑う人々に気を取られて、前をよく見ていない御者が操る馬車が、猛スピードで眼前に迫っても――
「……もう……全部……どうでも……良いの……」
――必死に闘病しても完治には程遠く、姉にも、町の人々にも迷惑を掛けて来た、そんな自分に――自分の人生に絶望して――
「おわっ! どけええええ!」
――漸く気付いた御者が、リカに向かって叫ぶも、時既に遅く、馬車の進路変更は叶わず――
(……さよなら……お姉ちゃん……)
(……お父さん……お母さん……。……今から……そっちに……行くの……)
――直ぐに訪れるであろう衝撃を覚悟して――
――目を閉じた――
――リカに――
「『パンツ・スケート』」
「!?」
――全速力で走って追い掛けて来たティーパが、跳躍と同時に空中で靴に被せたパンツ――極めてきめ細かく滑らかなそれが、まるでスケート靴のような役割を果たし、着地と同時に、地面の上を勢い良く滑った彼は、高速で近付くと――
「俺がパンツを食った女は、死なせない」
「!」
――リカを突き飛ばして――
「きゃっ!」
――地面を数メートル転がった彼女の代わりに――
「ごぶはっ」
「!!!」
――馬車に轢かれた。




