11「役割分担」
再度、瞬時に抜剣したアンが、「ああもう! 言い方があるでしょ! 言い方が!」と、嘆きながらそれを防ぐ。
「邪魔するな! やはりあんたの男は飢えた狼だ! 今すぐ殺す!」
「変態なのは確かだけど、コイツは女の子のパンツを食べるだけで、それ以上は絶対しないのよ! あたし達が生まれ育った施設でも、王都でもそうだった! あと、コイツとはそういう関係じゃないってば!」
刃を押し合い、一歩も譲らぬ二人。
――と、その時――
「邪魔するなら、あんたも殺す!」
――ケミーが左手を自身の背後へ回したかと思うと、もう一本、別の包丁を取り出して――
「えっ!? 二本目!? ちょっ! 待って! 聞いてない!」
――今まで、〝一般人に怪我をさせてはいけない〟という意識で、手加減をしていたアンから、一気に余裕が無くなり――
「死ねええええええええええええええええええ!」
「くっ!」
――アンが、剣で、ケミーの右手に持った包丁を弾き――
――その勢いで体勢を崩されたケミーは、仰け反りながらも――
「死ねええええええええええええええええええ!」
――左手に持ったもう一本の包丁を、鎧で覆われていないアンの顔面に向けて突き刺そうとして――
(ヤバい! 死ぬ!)
――手加減をしていたが故に、死を覚悟する事になったアンに――
――凶刃が突き刺さる――
――寸前に――
「「!」」
――ティーパの短剣がそれを受け止めた。
――が。
「死ねええええええええええええええええええ!! 性犯罪者あああああああああああああああああああああああ!!!」
――ケミーが、弾かれていた右手を強引に戻し、包丁を、無防備なティーパの頭部に刺突しようとして――
――それを見たアンが、まだ今の技量では、至近距離にいるティーパとケミーの内、ケミーが右手に持つ包丁のみを剣で弾く事は難しく、彼女自身を攻撃しないと止められないが、一般市民を傷付ける事への抵抗から、躊躇している間に――
「ダメええええええええええええええええええええ!」
――ケミーが振り下ろした刃が、ティーパの蟀谷に刺さる――
――かと思われたが――
「お前の妹には、僧侶の才能がある」
「!」
――迫り来る死に対して、微動だにせず、ぽつりと呟いたティーパの言葉に――
――ケミーが右手に持つ包丁が、ティーパに触れる直前で、止まった。
「……今、何て言ったんだい?」
「お前の妹には、僧侶の才能があると言ったんだ。高度な回復魔法と治癒魔法を扱う力が」
「!!」
瞠目していたケミーが、更に目を大きく見開くと――
「どうして知ってるのさ……? 誰にも言ってないのに……」
――両手に持った包丁から力が抜けて、地面に落ちた。
「あたしたちは、冒険者パーティーを組んでるんだけど、仲間を探しているのよ。目的は、〝聖魔石〟を手に入れること」
「〝聖魔石〟を? 何のために?」
ケミーの問いに、ティーパが横から口を挟む。
「そんなものは、決まっている。〝究極のハ――」
「〝究極にハッピー〟になるためよ! 勿論、もし妹さんが仲間になってくれて、〝聖魔石〟を手に入れたら、妹さんにも何かしらの御礼はするわ!」
慌ててアンが、馬鹿正直なティーパの台詞を遮った。
険悪だったケミーの表情が、多少和らぐ。
「あんたらの目的は分かった。どうやら、暴漢……という訳ではなさそうだね」
「じゃあ!」
「でも、駄目だね。あたいの妹――リカは、伝染病に罹っているんだ。それも、致死性の、ね。これまではあたいが作る薬で何とか持っていたけど、もう限界さ。あと一ヶ月もしない内に、あの子は死んじまう」
「!」
目を見張り言葉を失くすアンの代わりに、ティーパが語り掛ける。
「大丈夫だ。俺がパンツを食べれば、リカは救われる。大人しく妹のパンツを食わせろ」
「意味分かんないんだけど。喧嘩売ってんのかい?」
「だから! 言い方があるって言ってるでしょ!」
――改めて殺意を滲ませた視線で射抜くケミーに、慌ててアンがフォローを入れる。
「コイツが脱ぎたてパンツを食べると、食べられた女の子は、才能が開花するのよ! しかも、その後何年も修行を積んでやっと手に入れられる力を獲得出来るの! だから、コイツがリカちゃんのパンツを食べれば、僧侶としての才能が花開いて、高度な治癒魔法を使えるようになって、自分自身で病気を治して、命が助かると思うわ! ……って事よね、ティーパ?」
「だから、最初からそう言ってるだろうが」
「全然言ってないわよ! 言葉足らずにも程があるわ!」
何を当たり前のことをと、溜息をつくティーパに、アンが声を荒らげて噛み付く。
「そんな荒唐無稽な事を急に言われて、あたいが信じると思うのかい?」
「普通に考えたら、滅茶苦茶よね。でも、実際、あたしの妹たちは、三人とも、コイツにパンツを食べられて、才能が開花したわ。炎魔法と、雷魔法と、水魔法の才能が。コイツの力が本物だって事は、あたしが保証するわ」
「へぇ~。で、あんたはこの男にパンツを食わせたのかい?」
「あ、あたし!? あたしがコイツなんかにそんな事させる訳ないでしょ!」
「……あたいの大切な妹のパンツを食べさせようとしているあんたが吐く台詞がそれかい?」
アンとティーパを交互に見ながら、ケミーが思考する。
剣士の少女は、比較的まともそうだ。
少年の方は、紛れも無い変態――ではあるが、何故か、悪い奴には思えない。
しかも、誰にも告げていないリカの才能を見抜いた事から、不思議な力を持っているのは確かなようだ。
しかし――
「悪いけど、やっぱりリカには会わせられないね。あんたが本当にそんな力を持っているかどうかも分からないし。百歩譲って、仮に持っていたとしても、あんたがその力を使って、あの子が才能を開花させる前に、あんたもあの子も、両方とも死んじまって終わりだ。もしあんたが、この家に足を踏み入れたらね。帰っておくれ」
「あっ! 待って!」
――そう言うと、ケミーは家の中に入ってしまった。
玄関に鍵を掛ける音も聞こえる。
「……どうしよう……」
途方に暮れるアンに、ティーパが声を掛けた。
「長期戦になりそうだな。まず、宿を確保しよう。その後だが――そこからは、二手に分かれよう。俺がケミーとの交渉を続ける。お前は、冒険者ギルドで、クエスト以外の仕事――依頼をこなしてくれ。ペットを探して欲しいとか、掃除とか、そういう奴だ。流石に一人でクエストに挑むのは無謀過ぎるからな」
「この町に滞在する上でお金が必要なのは分かるけど、何であの子との交渉役があんたなのよ? 女の子相手なら、どう考えてもあたしの方が適任でしょ?」
「なら聞くが、もし『あ! 気が変わった! 今なら、あたいの妹のパンツを食べても良いぞ!』ってなった時に、お前はパンツを食えるのか? そして、リカの才能を開花させられるのか? 余命が一ヶ月って言っていたが、もしかしたら、明日にでも死んじまうかもしれない相手なんだぞ? 『良かった! 気が変わった! じゃあ、今からティーパを呼んで来よう!』なんて言ってる余裕があるのか?」
「ぐっ! ……ああもう! 分かったわよ!」
斯くして、二人の役割分担が決まった。




