10「死の家」
〝何かあるかもしれない〟と警戒していたティーパは、咄嗟に背後に飛び退き――
――代わりに、素早く鉄剣を抜いたアンが――
「ちょっと! いきなり斬り掛かるだなんて! 危ないじゃない!」
――青髪少女の包丁を受け止めた。
「チッ」と舌打ちした青髪少女は、一旦距離を取ると、アンに向かって包丁を向ける。
「うるさい! この町で、この家に近付こうとする者なんかいないんだよ! もしいるとすれば、死んでも良いからあたいの超絶可愛い妹の寝込みを襲って手込めにしようというならず者くらいさ! あんたらもそうに決まってる! 分かったら、誤魔化すのをやめて、大人しくあたいに殺されな!」
ビシッと決め台詞を言い放つ青髪少女だが――
「いくらコイツが真性ド変態でも、そんな酷いことしないわよ!」
「いや、真性ド変態て」
――ティーパとやり取りをするアンの長髪と、顔、声、喋り方、そして、プレートアーマーの形状から――
「……って、え? あんた……もしかして……女?」
「何かショックね、それ! あたし、こんだけ喋らないと分かって貰えないの!?」
――アンの性別が分かったらしく――
「流石に女連れで、別の女を襲いに来たりはしない、か。いや、でも、〝他の女を襲っている所を自分の女に見せ付けるのが好き〟って男かも! もしくは、〝自分の男が他の女を襲っている所を見せ付けられると興奮する〟女かもしれないね!」
「何をどうしたらそんな捻じ曲がった性癖が出来上がるのよ!? あと、あたしとコイツは、べ、別に、〝そういう関係〟じゃないから!」
――頬を朱に染めつつ否定するアンを見つつ――最後には、包丁を下ろした。
※―※―※
閉じたドアの前で、ティーパたちは、青髪少女と改めて対峙した。
ちなみに、アンは、剣を腰の鞘にしまっている――が、青髪少女は、未だに包丁を手に持ったままだ。
「俺はティーパ。こっちはアンだ」
「あたいはケミーだ。あんたら、よそ者? この家がどういう場所か、分かってないのかい?」
ケミーの言葉に、ティーパとアンは、顔を見合わせる。
「ええ、あたしたち、ウェーダン王国から来たばかりなの。この家の事は……『不用意に近付けば死ぬ』って、言われたわ。すぐそこで、杖をついたお婆さんに」
「スティナ婆さんだね……」
どうやら知り合いらしく、複雑な表情を浮かべるケミー。
「『不用意に近付けば死ぬ』って、どういう事? まさか、家に近付いたら、貴方に包丁で刺されて死ぬっていう意味じゃないわよね?」
先程危うく殺され掛けたアンが、そう呟く。
いつもアンに追い掛け回されてかなりの素早さを身に付けているティーパと、地道な剣技のトレーニングを長年続けて来たアンでなければ、本当に死んでいたかもしれない。
アンをじっと見詰めていたケミーは、小さく息を吐くと、険しい表情を浮かべた。
「この家に入ったら死ぬって事さ。そんな事より、あんたらは、うちに何の用だい?」
その問いに、ティーパが、相変わらず無表情のまま、腰に手を当てて堂々と答えると――
「お前の妹のパンツを食べに来た」
「やっぱり死ねえええええええええええええええええええええ!」
――ケミーがティーパを刺殺しようと、再び包丁で斬り掛かった。




