第六話
「ここに来てからもう5年か。」
校舎の端の階段にもたれながら、木村はぼそっとつぶやいた。
「5年の間に何人の素晴らしい教師がいなくなっただろうか。残ったのはごみと屑で、その中で5年もやってきた自分はもはやごみの一部だな。」
と、自虐も言いたくなるほどこの学校の教師は腐っていた。
硫酸よりも有害な、言葉という生きたガスで、この学校の教師たちは光を溶かしてきた。
「私は今どの立場なんだろうか。」
木村はふと考えてみた。
最初のころはそれこそ色々なことを言われた。
それでも体育会系の根性には、その辺ののらりくらりとやってきた軽い人間の言葉など通用しない。
小学校からサッカーに励み、高校は強豪校でプレーしてきた木村にとって、罵声はただの騒音に過ぎなかった。
春になると、まるで冬眠から目覚めたかのように田舎のヤンキーがヘルメット無しで大きな音を鳴らしながら公道をバイクで暴走するという恒例行事が繰り広げられるが、騒音とは思いながらもそれをきっかけに自殺するような人間はほとんどいないだろう。
それと一緒で、木村にとって言葉での攻撃は、鍛え上げられた精神を揺さぶるほどのパワーを感じるものではなかった。
もちろん、体格のいい木村を、暴力という手段で追いつめられるような教師がいるはずもなく。
結果として、ただの騒音を右から左へ流す作業を毎日行なった結果として、気づけば5年が過ぎていた。
3年ほどたったあたりから徐々に干渉されなくなり、今では木村に対して言葉で追いつめようとする教師は皆無だった。
当然それでは多数派を占めるごみ屑たちの不満は溜まる一方であった。
結果としてどうなるか。
新しく入ってきた、まだ世の中の汚れを知らないまっさらな人間を穢すのだ。
新任教師が3人も辞めた。
うち1人はうつ病を発症して、今も社会復帰ができていないと聞く。
自分はそれを解決してやることができず、ただ聞き役として相談に乗ることしかできなかった。
私はごみに埋もれのだ。
それでも生きていくために選んだこの仕事を辞めるわけにはいかない。
申し訳ない気持ちはありつつも、私は屍の上に立って、今日も教師という天職を全うするのだ。
木村は決意を固めると、今か今かと昼休みの終わりを告げたがっているグラウンドの時計を見ながら職員室へと戻っていった。