第五話
中学校のグラウンドには、それはひと際背の高い人間がいた。
校門のすぐそばに生えた、立派だと言わんばかりの大木の枝のような、細くしなやかで茶色く焦げた四肢をもつその人は、生徒と一緒にサッカーをしていた。
短く切った黒髪に、人よりも若干焦がしすぎた肌、どちらかと言えば整った顔立ちの好青年は、木村誠一という名前だった。
木村は、学校の中では三本の指に入るくらいには生徒に好かれている教師だった。
100人に聞くと、99人は体育の先生と思うかもしれないが、彼の専門は社会だった。
元気で明るく、時にジョークを交えながら授業を進めるそのスタイルは生徒から非常に高評価を受けていた。
歴史を知ることは世界を知ることだ。
これが木村の口癖だった。
「木村!パス!」
「おい!木村って呼ぶな!木村先生だろ!」
「木村は木村だから木村でいいの!」
「木村木村言うな!」
生徒は彼をしばしば呼び捨てにすることがあった。
生徒にとっては親戚のお兄ちゃんくらいの距離感で彼と接することができたため、生徒と教師という関係よりももっと近い関係性を構築していた。
それゆえに、木村は生徒たちとの距離感には最新の注意を払うようにしていた。
今日も休み時間にサッカーを生徒たちと行うことで、関係を深めることができた木村は、満足げな笑みを浮かべながら、休み時間終了の5分前に職員室へと戻っていった。
木村にとって、生徒たちと関わる時間を至福の時間と呼ぶならば、職員室での会話はまさに耐え難い苦痛であった。
生徒たちと汗をともに流したり、勉強を教えたりすることは非常に有意義で、社会への貢献すら感じることができた。
それをボランティアではなく、給料という対価をもらいながら行うことができる教師という仕事は木村にとってまさに天職だった。
だが、職員室を見てみるとどうだ。
壁に苔が生えそうなくらい陰湿な空気の部屋には、酸素を吸って二酸化炭素を出すだけの、何の利用価値も感じない教師がほとんどであった。
生徒指導に関して議論しているならまだしも、生徒の色恋を嫉むような井戸端会議をしているとは何事か。
木村は、この学校の教師に失望していた。
もちろん、木村と同じくらい生徒から好かれている教師もいたが、どの教師も等しく3年以内に退職している。
この学校はそういう学校なのだ。