第一話
馬がとんだ、それはもう見事に。
夕暮れが近い日曜日。
少し湿った土のにおいと芝のさわやかな香り漂う黄金郷。
この場にいる誰もが同じものをこれから見るにも関わらず、それぞれが思い描いたビジョンがあり、それぞれの叶えたい夢がそこにはあった。
それは、まるで地獄のような、見るにも耐えない死地に足を踏み入れようとする若人のように、期待と不安が入り混じった鼓動を鳴らして、ファンファーレを待っていた。
どれくらい経っただろうか。
カップ麺の待ち時間よりも短かったかもしれないし、信号の待ち時間よりも長かったかもしれない。
時間感覚が曖昧になった刻の中で、これからの未来を祝福するかのようなファンファーレが鳴り響いた。
聖書にある天使のラッパはきっとこんな美しい音色を奏でていたのだろう。
そんなことを考えている間に、彼らの準備は整っていた。
一瞬の静寂。
この瞬間がたまらない。
まだ誰も浸かっていない温泉に最初に入るときに感じるような、少し温かなほわほわした浮遊感を切り裂いて、歓声とともにそれは始まった。
たった3分。
たった3分の中に、何十万人の人生がかかっていた。
関わることがない人は一生味わうことができない高揚感。
怒声も、罵声も、声援も、悲鳴も、人の喜怒哀楽がすべてそこに集約されていた。
終着点まであと少し。
最後の最後まで夢の中にいられる、ごく限られた人たちが固唾を飲んでその行方を見守る中で、私は遥か後方で終着点を目指さんとする原石にただただ罵声を浴びせていた。
その原石は、私がダイヤモンドになると思って願いを込めた原石は、ただの石ころだった。
私と同じような思いをした人は多かったと思う。
価値の無くなった紙が空を舞い踊り、魂が抜けたかのように地面にすっと落ちていった。
その場でへたり込んだ人は、ただただ涙を流していた。
その涙を、少しぬるくなった地面が好物とばかりに吸い上げていた。
今回ダイヤモンドをつかんだ人は、私が年間を通して汗水流して働いた労働の対価をゆうに超える価値を手にしていた。
私もそちら側になりたかった。
なれると思って今日も手を出した。
けれど私は、ただの出来損ないだった。
帰り道、電車は私を轢いていった。