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8話 モブキャラ男爵令嬢の私、なぜか王子の恋人役になる。



『黒の少女と白王子』の世界にやってきてから、かれこれ数週間。


私は、男爵令嬢アニータ・デムーロとしての生活にすっかりと慣れ始めていた。



はじめは朝目覚めるたび椿紋様の彫られたベッドの豪華さに圧倒されたものだが、今やそれも薄れた。


ハウスメイドにお世話されることも、ご令嬢方と話す際の華美な言葉遣いにも、身体は順応しはじめている。


「…………何回見ても、おもちゃのセットみたいな街よね」


ただ、王都の街並みだけは違った。


この世界をより詳しく理解するためには、アニータの記憶にだけ頼ってはいられない。


もう何度も散策したのだけど、未だに全てが新鮮なものとして目に飛び込んでくる。



ーー王都・シュバルツ。


海沿いにあるこの街は、あらゆる建物がライトブルーやライトグリーンなどの明るい色味で塗られている。

街の中心にあり、少し高台になっているこの大噴水横の時計台から見下ろせば、まるで絵の具のパレットを見ているかのよう。


それこそ作り物にしか見えない。


けれど、中に降りてみれば存外にごみごみとしていて、階段が多かったりなんかして、ちゃんと人の生活が根付いているのだ。



現代で言うなら、間違いなく映える光景ね……。

うまく撮ってインスタに投稿したなら、きっと2000いいねは確実!


私は束の間、霧崎祥子の気持ちに戻って景色に目をやる。



そうやって、アニータとしての感情から逃れようとしていた理由は一つだ。


「やぁ、もう来ていたんだね? 待ち合わせよりは早く来たつもりだったのだけど」


ちょうど靴音がして私は後ろを振り返る。


ハットのつばを上げて微笑むのは、今をときめくエリゼオ・メローネ第五王子その人だ。


変装用にと、私が贈った質素でシンプルな服を身につけていた。

けれど、その育ちのよさは隠しきれていない。


「………いえ、気にしないでください。そこまで待ってませんよ」

「そうだとしてもこういうものは、男が先に待っているものだと耳にする。次からはより早く来るようにするさ」


「それじゃ待ち合わせ時間の意味がありませんよ」

「あぁ、言われてみればそれもそうだね……。まぁいい、無事に会えたんだ。とりあえず、いこうか」



なんだろう、このデート1回めかのような初々しい会話は! 

現代ですら遠い過去の記憶だ。


私は心で悲鳴をあげながら、無理に笑顔をこさえて、今に至る経緯を思い返す。



エリゼオを、王家のしがらみから救うため。

その名目のもと、私が考えついたシナリオは単純なものであった。


名付けて、『多感なお年頃ですものねぇ大作戦』だ。



まずエリゼオには、あたかも一人の女性に心酔したかのように振る舞ってもらう。


次に、その原因が「望まず政治の駒にされたことへの反発」だと王家側に思わせるよう仕向け、彼の扱いを改めさせるのだ。


あえて困った行動をとることで、相手の譲歩を引き出そうというわけである。



問題は、その偽恋愛相手だ。


あれだけ茶会で女性に囲まれる彼のことである。

よりどり選び放題だろうと思ったのだけど、関係が深いものは一人としておらず、頼めるような相手はいないらしかった。


「うーん。誰かいないかしら。たとえば、伯爵令嬢のカテリーナ嬢とかどうです?」

「……その役回りは、君じゃいけないのかな」

「えっ」

「君がその役になってくれれば、余計な人に話さずに済む。作戦が漏れる余計な可能性を減らせるだろう?」


私に白羽の矢が立ったのは、そこだ。


人って驚きすぎると本当に固まるんだ、とその時はじめて知った。


自分が偽の恋人役をやろうだなんて考えてもみなかった。

けれど、たしかに要素だけなら揃っていた。


身分差のある女性に恋焦がれてもらう方が、恋愛にのめり込んでいる感はぐっと増す。


その点、男爵令嬢である私はおあつらえむきであった。


そうなると自分から首を突っ込んだ以上、断れなかった。


「ではアニータさん、今日は事前の計画通りいこうか。シナリオとやらを書き換える第一歩を踏み出そう」


「は、はい。とりあえずはまず、城から抜け出して女性と密会していることを近臣の方々に気づいてもらうことからですね……!」


「えぇ、ではそのように」



デートプランは、事前に調査も済ませて、しっかりと組んであった。


シナリオライターとしての意地だ。

全てはリアルなお忍び感を演出するため、細部にまでこだわった。


ただし、それもこれも自分ではない誰かを彼女役に考えていたから妄想が捗ったのである。



そこに自分が収まると知っていたなら、もっと安パイなプランを組んだのに……。


「では、アニータさん。あの船着場でボートを借りれば良いのかな?」

「そ、そうみたいですね」

「みたい、って君が考えたんじゃないのかい?」


少なくとも、いきなり二人乗りボートはあり得ない。

初回デートとしては攻めすぎだ。





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