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37話 パーティの胸飾り



こうして執事にしてセカンドヒーロー、ヴィオラの新たな一面を知るとともに、私はラーラへのプレゼントの材料を手に入れて。


そして迎えたラーラのお誕生日会当日――。


私は苦心の末に作り上げたファンデーションを入れたプレゼント袋を携えて、開始時間よりかなり余裕を持たせて、夕方ごろには家を出た。


ただし真っ直ぐにパーティーの会場へ向かうわけではない。エリゼオ王子に王城へ来るよう、お誘いを受けていたのだ。


「お待ちしておりました、アニータ・デムーロ男爵令嬢さま」


指定された部屋へ行けば、待ち受けていたのは王家直属の衣装メイドさんたち。


「すいません、私なんかのためにここまでご丁寧にしていただいて。恐縮です」

「いえいえ、エリゼオ王子のご希望ですから。期待に添えるよう、つとめさせていただきます」


エリゼオがパーティー用のドレスを用意してくれていたのだ。


一度はもちろん断ったのだけれど……


「そのままの衣装じゃ、パーティーで浮いてしまうかもしれないよ?」


という、エリゼオの言い分はもっともであった。


ラーラの実家、オースティン家は古くから続く由緒ただしき公爵家だ。


そのため今回のお誕生会に参加する貴族もそのほとんどが、伯爵家以上。その次点にあたる権力を持つ子爵家すら、対象外とされているのだから、末端貴族である男爵家の私がいつものドレスで行けば浮いてしまうのは間違いなかった。



と言っても、元しがないシナリオライター兼オタクの私にしてみれば、ほとんど同じに見えるんだけどね?


もともと、そこまで服にこだわりがあったわけではないし、仕事が仕事だから普段着はほとんどパーカーとジャージで済ませていたくいらいだ。


だから判別はつかないのだけど、たぶん値段はケタ違いなのだろう。

おそるおそるながら、私は聞いてみた。


「ちなみに、いまこのドレスっておいくらぐらいしますの?」

「エリゼオ王子が選りすぐりで選んだものですから。主役の方を引き立てつつも、自身の可憐さも訴えることができる、この抜群のバランス感は他にまたとない一着でございます。たしか、単体で1000万ぺルほどはするとか」

「えっ……」


つぶやいてから、身の毛がよだっって、ぞわっとする。


1000万といえば、現実世界に置き換えたら、もはや3年分の給料だ。


シナリオライターの給料事情はそもそも苦しい。まだまったく無名だった時代で考えたなら、5年分相当。

しかも手取りはそこから、色々な税金を持っていかれると考えれば、貯めようと思ったら10年ではきかない。


そんなものを私は身にまとうらしい。


「くれぐれも食い意地を張って汚さないようにしてくださいね、アニータ・デムーロご令嬢。いくらエリゼオ王子のお気に入りだからとはいえ、このメイド長は許しませんから」


メイド長さんが話に首を突っ込んできて、私にこう忠告する。


「ええ、気を付けますわ」


こう答えたけれど、内心ではまあビクビクしていた。

落ち着いた濃紺と、純白を混ぜ合わせた一着。

こんな身の丈に合わない服を着ていいものだろうか。そもそもあまりの服の豪奢さに、着られてしまったりして。


怯えているうち、着替えが終わる。


「……想像以上だよ、アニータ」


部屋をでると、すぐの廊下でエリゼオが待ち受けていた。


彼はいつかニセの恋人として、駆け落ちを演じた時と似たような礼服を召していた。

白を基調としながらも派手すな装飾などは避けたその格好には、主賓への配慮も感じられるが、やはり王子のキラキラなオーラは隠しきれていない。



「エリゼオ王子こそ、とてもお似合いですよ。私のは服のおかげです。こんなに仕立てがいいものを着れば、誰でも令嬢らしくなります」

「いいや、普通ならばここまでは着こなせないさ。うん、これならパーティーにもなじめそうだね」

「あの、むしろやっかまれたりしないんでしょうか。男爵令嬢ごときが、私ごときがこんなに高いものを着て」


今になってそこが不安になってきた。

ただでさえ、エリゼオ王子と親しいことから目をつけられているのだ。


「こんな豪華な服を着せてもらったら、エリゼオ王子と親しくしているのを見せつけるみたいになりませんかね」


私が不安げに言うのを、まるで振り払うかのように彼は破顔してみせる。


「大丈夫さ、むしろ見せつけてしまってもいいと思っているくらいさ」

「えっと、要領がつかめないんですけど」

「簡単な話、君に妙な男が近づいてこないようにしないといけないからね。こうしたパーティーの場では声をかけられやすいだろう? そこで品位のある服を召していれば、そうした連中は声をかけてこない」

「いやいや、私に声をかけてくる人なんていないですって。ただの男爵令嬢ですよ」


エリゼオやラーラと親しくできている方が不思議なのだ。

他の令息、令嬢は、絡んでも得がない男爵令嬢と関係を築きたいなどとは、思いもしないだろう。


だが、そうじゃない、とエリゼオは言う。


「男爵令嬢だからこそ、さ。上流階級の貴族の中には、男爵令嬢のような立場の弱いものは扱いやすい、と遊び相手に選ぶ者もいるんだ」

「……なるほど」


いわば、立場を軽く見られて、引っかけられるというわけか。

貴族たちの世界とはいえ、現実世界と同様に、よこしまな思いを持った人間が存在するらしい。


「だから今日はその格好で過ごしてくれ。大丈夫。妙にやっかむものがいたら、その場で対処するよ。それから――」


これを、とエリゼオは私の首元に手を回す。


予期せぬ急接近だった。まったく準備不足の状態で、私は漂いくる甘い香りを浴び、思ったより男らしい両腕に視界を覆われる。


なにをされたのかは、彼が離れていってからやっとわかった。


「これ、胸飾り……」


クリーム色の胸飾り。

それはこの間、服飾店で彼が購入していたものだ。こっそりと見に行っただけに表立って反応はできないが、間違いない。


「うん、思っていたとおりだ。よく似合う」

「……その、ありがとうございます」


微笑むエリゼオ王子に、私は月並みなお礼を述べる。

今はこれが限界の反応であった。こんなタイミングで受け取ると思っていなくて、面食らったのだ。


「これを今日は外さないでいてくれるか? 挨拶などで傍を離れても、君を見つけられるよう目印にするよ。まあ見失わないようにほどほどにするつもりだけどね」

「ちゃんと挨拶した方がいいですよ、そこは」

「はは、手厳しいなアニータは」





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